見出し画像

臨床医とのカンファレンス

臨床医とのカンファレンスは定期的に開かれています。そこでは、今後手術が行われる人のプレゼンを聞いたり、手術が終わった人の病理結果の説明をしたりします。

カンファレンスは科ごとにあります。「消化器カンファレンス」、「呼吸器カンファレンス」、「婦人科カンファレンス」、「泌尿器カンファレンス」、「乳腺カンファレンス」、「皮膚カンファレンス」、「血液カンファレンス」、「画像カンファレンス」などなど。外科と内科が合同で行うものもあれば、外科と内科が独自のカンファレンスを別々に行う場合もあるので、数は結構多いです。毎週行われるものもあれば、月に1回のものもあります。これにすべて参加するのは大変です。病理医がたくさんいる施設だと、分担して出るという方法もありますが、病理医が少ない施設だと一人の負担がどうしても大きくなります。

しかし、こういったカンファレンスに参加するのは、とても重要です。僕は常々上司から、「臨床の感覚を忘れてはいけない」と口をすっぱくして教え諭されています。確かにそうだなあ、といつも頭の中で反芻しています。病理医って臨床を離れて暮らしているので、どうしても病理的なものの見方に陥ってしまうんですよね。たとえば、やたらと細胞形態だけにこだわったレポートを書いてしまい、上司からたしなめられることがあります。「それは本当に臨床医の、ひいては患者さんの知りたいことか?」頭をガツンとやられたような衝撃に僕はそこでようやく我に返ります。「相当独りよがりだったな・・・」

病理医は形態を見るプロなので、形態的所見をいくらでも拾うことができます。時には、次々と所見が目に入って、何でもかんでもレポートに盛り込みたくなることもあります。しかし、筆が進みすぎるときは要注意です。そんなときは、ひと呼吸置いて自分に問い直します。ひょっとして自分は自己満足的なレポートを書いているのではないか、と。そして、様々な所見を消して、逆に簡素過ぎともいえるレポートにします。多すぎる情報は、ほとんど何も書かれていない情報と同じくらい無意味です。

たとえば、胃底腺ポリープという、消化器内科医にとっては、ありふれたポリープがあります。これを病理診断する場合、「平坦化した腺窩(せんか)上皮、胃底腺の増加と拡張」の言葉さえあれば十分です。そこにわざわざ「今日はリンパ球が多いな、とか、出血がちょっと目立つな」とか加えだすとわけが分からなくなります。それを逐一書いていると、臨床医はきっと困ります。「俺はふつうの胃底腺ポリープと思っていたんだが、なんか違うもんなのか?」

病理医には、所見を取捨選択する能力が求められます。特に、臨床が知りたい情報を選び取る能力が必要です。先の胃底腺ポリープでは、「平坦化した腺窩(せんか)上皮、胃底腺の増加と拡張」というキーワードが、臨床が欲しい情報です。これを、これのみを書くことで「ああ、やっぱり思っていた通り、ふつうの胃底腺ポリープだった」となるのです。なんか文章短いと失礼かもしれないから、あれもこれも書き足してあげよう、というのはお節介の押し売りのようなもので、逆効果になってしまいます。

臨床側がどんな所見を欲しているかを知るには、臨床医の話を聞くしかありません。そのためには、臨床とのカンファレンスに出るのが一番効率がよいのです。だから、病理医は忙しくても出席したいと思っています。臨床の話をどんどん聞かせてもらいたいと思っています。

でも、ときどき形態のことを聞かれるのはうれしい限りです。「先生、このbasal plasmacytosisってよく聞くんだけど、恥ずかしながらよくわかってないんで教えてくれませんか」とか「先生、この病理所見はエコーで見たときのこの所見と対応しているんでしょうか」とか聞かれると病理医は、はりきって答えます。時には、思い切りマニアックになりたいときもありますもんね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?