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ソフビの塗装マスクによる工程のお話・その2【実務編】

今回はマスク塗装の後編になります。

その1は前回の記事になりますので未見の方はぜひご覧ください。

では、下半身の説明にはいります。


今回マジンガーを選んだのには理由があります。
写真をご覧になりますと、下半身が1パーツで形成されてますが、なにやら足が内股になっているように見えませんか?

それはソフビの特徴で、経年劣化や成型時に足が内側に歪むという性質を持っています。
が、これも成型によってこの現象が起きたり起きなかったりと…

成型によって起きた現象ですと元に戻りませんが、たいていは経年劣化による現象が多いです。
その場合はドライヤーなどで温めるともとの状態に戻ります。
これもソフビの特徴なのですが、熱を加えるとまるで形状記憶合金のように元に戻るのです。



マジンガーを選んだ理由としてはこの現象が非常に出やすい形状であった、という部分が説明しやすかったということです。
また、このマジンガーには成型によって起こる原型時点での基本的な失敗など非常に多くを学ぶことができる教科書のような素材です。
今後このマジンガーで色々とご説明をするかと思います。

話がそれましたので、進めていきます。



下半身は割とシンプルです。

クリームイエローとブラックの2色のために2枚のはさみ型でできてます。
が、ご覧のように複雑な形を2枚に収めているというところがまた見事です。
これは作業を行うための工程が少なくなる、という面では本当に優れているのですが、原型における部分の欠点で下半身を柔らかくしてからマスクを当てる、という状況になってしまいました。
これについてはまたの機会にご説明します。


関節部のクリームイエローを塗ります。



次にブラックを塗装します。
太ももをマスクすることで腰と脛の色を一気に塗装できます。


最後に頭部の塗装です。
一番複雑で枚数が多い上に、工程を間違えたり最後の色を間違えると最初からやり直すという一番しんどい作業となります。


まずは頭部のパイルダーを塗ります。
コックピットのフード、ま塗料がた他に飛び散らないように設計されてます。


次に、パイルダーをマスクします。
それ以外の頭部内側をダークグレーで塗装できるように設計されてます



そして、パイルダー全面を塗装します。
口の溝に関してはこの段階でマスキングテープなどを貼り白が入らないようにします。
逆に口を塗装するときには白の部分をマスキングします。
このようにマスク屋さんによって枚数が少なくなるように工夫がされています。
とても使用者のコストを考えていただいている構成となっております。



次に目の淵をパイルダーのライト部分を塗装します。
素晴らしい設計になってます。



そして、先ほどの全面の口の部分も含めて黒を塗装します。



最後にイエローを吹いて完成です。
この段階で目の塗装に失敗すると、赤の塗装からのやり直しです。
非常に大変です…

以上で塗装工程は終了です。

いかがでしたでしょうか?
マジンガーを塗るだけでこれだけの工程を踏んでいます。
塗装マスクの面から見るとあーこれはその通りに塗装すれば良いのか、と思われるかもしれません。

そかし『塗装をする』という面を見ると非常に大変になります。
毎回お伝えしますが『ソフビは偶然を利用した』生産物です。

いつも同じ状態で成型品があがるわけではありません。
その度にエアブラシを拭く方向を変えたり、吹き漏れを修正したり。
歪んでしまった成形品に合わないマスクを売れないようにまるような工夫…
ありとあらゆる手段で製品に塗装していただいてます。

またこれらが擦れて色落ちがしないように組み上げをしている方々もいらっしゃいます。
残念なことにこれらの工程に対しての賃金、という面では十分とはいえるとは言えない状況です。
また、お客さんの目も厳しくなり、ちょっとした吹漏れでも不良品と修正に回されます。

それは工賃の値上げは単価が上がり、お客さんへの定価の高騰が生まれてしまいます。
おもちゃというのはそういう経済の面で工場の方の苦労を元に成り立っている、と言うよりも成り立っていないという状況です。
それは、漫画やアニメ製作でもまた他の生産業も同じ状況と言えます。

今回伝えきれなかった部分は多いと思いますが『ソフビは高い』という状況はこの1作業をとってもおわかりいただけるのではないか?との思いです。

『できることできないこと』

ということがあります。
ということを理解いただくことで皆が冷静に立ち止まって『ものつくり』に良い環境が生まれるかと信じております。

そういう面でも、もう一度おもちゃというものの見直しが迫られている時期ではないかと切に思っています。


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