苦：今回は1968年のチェコスロヴァキアの自由化改革「プラハの春」と、その中心となったアレクサンデル・ドプチェク(1921～92年)です。
　微：鞄のプラダは今が「この世の春」だな。ちなみに「かばん」だぞ「くつ」とちがうで。
　苦：ボケに解説入れるな！　1956年の「スターリン批判」はポーランドの暴動やハンガリー動乱のように体制の危機を引き起こすほどの衝撃をチェコスロヴァキアに及ぼしませんでした。
　微：「じわった」わけだな、その言い方。
　苦：何だよ、その今風の言い方。まあ、実際そうで、1960年代に入るとノヴォトニー・チェコスロヴァキア共産党第一書記兼大統領の統治体制が揺らぎ始めました。
　微：ソ連で”ロボトミー手術”を受けて、ソ連の言いなりになっていた奴だな。
　苦：『カッコウの巣の上で』じゃねえよ!!　そもそも手術いらないし。スターリンに忠実というだけで、東欧各国の指導者は解放後のドサクサで決まりましたから。
　微：大阪梅田の土地所有権争いみたいなもんか、占有した者勝ち。
　苦：21世紀の自民党も同じですかね。1967年、チェコスロヴァキア作家同盟の批判に始まり、ノヴォトニーの国家・党運営に対して批判が噴き出しました。
　微：ノヴォトニーに対しては、習近平からは断固たる支持があったそうです。
　苦：林鄭月娥行政長官じゃねえよ!!　同年12月、党中央委員会総会は、ノヴォトニーを党第一書記から引きずり下ろし、代わりにドプチェクを共産党第一書記に選出する決定を下しました。
　微：国家安全維持法を強行するほどのブレジネフの固い支持も指示もなかったのか。
　苦：ガースーの方の菅に切られる吉川レベルですかね。
　微：いや、ガースーが辞任しないと同じじゃないだろ！
　苦：実際、チェコ国民は、「トカゲの尻尾切り」と、ドプチェクに替わっても、何も変わらないと思っていました。
　微：21世紀の日本人ならよくわかる、その気持ちというか諦め。
　苦：しかし1968年1月の党中央委員会総会以降、ノヴォトニー体制の中核幹部や閣僚が次々と辞任し、さらには逮捕されていきました。
　微：黒川検事次長が陣頭指揮したそうです。
　苦：それじゃ全員不起訴だよ!!　抑圧体制に君臨した幹部が消えていくのを見た国民は、ドプチェクが本気で自由化・民主化を進めるつもりであることを理解したのです。
　微：まあ、日本では「本気」「身を切る」と安易に口にする首相や知事は信じてはいけないけどな。
　苦：4月の党中央委員会総会で採択された『行動綱領』には、まず「党への権限の一元的集中の是正」「粛清犠牲者の名誉回復」が挙げられていました。
　微：まだ1962年までの「スターリン批判」レベルだな。
　苦：さらに「連邦制導入を軸とした「スロヴァキア問題」の解決」「言論や芸術活動の自由化」を目標とする「新しい社会主義モデル」などが挙げられていました。
　微：これを毛沢東が言ったら、誰も何もしないな。逮捕可能な人間を増やして一斉逮捕だし。
　苦：それを実現するための新内閣も発足しました。
　微：勝手に「国難突破内閣」「仕事人内閣」と呼んだそうです。
　苦：それはアベの糊塗だよ!!　ドプチェクが目指す「人間の顔をした社会主義」を目指すプラハの春は着実に進行していきました。
　微：1967年までは「人間のふりをした社会主義」だったわけだな。
　苦：間接的にそう言ってますよね、これ。このチェコスロヴァキアの「政変」に対してポーランドと東ドイツが憂慮を示しました。
　微：その前に1948年2月段階で憂慮を示せよな。
　苦：いえ、単に自分の国がやばかったんです。特にポーランドは、3月の学生デモで「ポーランドにもドプチェクを！」と書かれたプラカードが掲げられる状況でした。
　微：その後ろを「ドッキリカメラです」って書いたプラカードを持った野呂圭介が歩いてたんだろ？
　苦：そんなわけねえだろ!!　強い危機感を抱いたソ連指導部はポーランド、東ドイツ、ハンガリー、ブルガリアの5カ国とチェコスロヴァキアとの多国間会談の場を設置し、圧力をかけました。
　微：「東欧のAPEC」と呼ばれ、集まるものの何の成果もありませんでした。
　苦：しかも1968年はチェコ政変20周年に当たっていました。
　微：オレのボケも、たまに役に立つな。
　苦：6月にチェコスロヴァキア領内でワルシャワ条約機構軍の合同軍事演習が計画されており、合法的にソ連軍は5月から参集し続けていました。
　微：この時、『オール怪獣大進撃』の「からりと晴れ渡った富士山麓、まもなく怪獣たちが現れようとしています」っていう伝説のラジオ中継やった人が実況中継したんだよな。
　苦：いるかよ!!　まあ、合同軍事演習が予告編だということは2022年によくわかりましたが。
　微：「からりと晴れ渡ったプラハの街、まもなくソ連軍が押し寄せようとしています・・・」って。
　苦：いつまでやってんだよ!!　6月18～30日の合同軍事演習が終わってもソ連軍が撤退する気配はありませんでした。
　微：近所の民家からの略奪で忙しかったそうです。
　苦：ウクライナじゃねえよ!!　ソ連指導部はチェコスロヴァキアに「反革命勢力との戦いに対する全面支援」を記した「共同書簡」を送付し、ドプチェクら指導部をモスクワに呼び出しました。
　微：家庭謹慎を覚悟したらしいです、ドプチェクの妻は。
　苦：そんなレベルじゃねえよ!!　8月20日、ソ連率いるワルシャワ条約機構軍がチェコスロヴァキアに侵攻、全土を占領下に置きました。
　微：貧乏なスロヴァキアはほんの少しで、金持ちの多いプラハに集中したそうです。
　苦：ソ連は「介入はチェコスロヴァキアからの要請によるもの」と宣伝しましたが、当のチェコスロヴァキア側が介入を非難したため、事件の真相は一目瞭然となりました。
　微：そのセリフ、伊達政宗が言ったんだろ？
　苦：それは佐竹との合戦！　チェコスロヴァキア侵攻に関して、21日、アメリカ、イギリス、フランス、カナダの要求で国連安保理が招集されました。
　微：あれ、中華民族総統蒋介石は何をしているんだ？　アメリカの忠犬ぶりを発揮しないで。
　苦：格下日本が突っ込めません。アメリカを含む7カ国が提出した「侵攻が国連憲章に反する内政干渉」であり、「即時撤退」を求める決議は、ソ連が拒否権を行使したために葬られました。
　微：10枚綴りなのに、あと何枚残ってたんだろ？
　苦：バスの回数券じゃねえよ！　22日に開催されたチェコスロヴァキアの第14回臨時党大会は、ソ連の軍事介入を非難し、拘束されたドプチェクを支持する決議を採択しました。
　微：アマゾン・プライムで日時まで指定したそうですが、当時は「置き配」がありませんでした。
　苦；占領下のチェコ国営放送は国歌「モルダウ」を流し続ける受動的抵抗を続けました。
　微：日本政府は「蛍の光」を提供しましたが、断られたそうです。
　苦：それじゃ終わりだよ!!　国際通話やニュースの外信テレックスも一方的に封鎖されました。
　微：しかしインターネットを遮断し忘れていたので一気に拡散・炎上しました。
　苦：時間線が狂ってるよ!!　ですがアマチュア無線からの発信を通じて、チェコ事件は全世界の知るところとなりました。
　微：途中から「パリは燃えているか」に替わったんだろ？　で、「そしてチェコは地獄を見た」というテロップまで用意されて。
　苦：『映像の世紀』じゃねえよ!!　ウクライナ侵攻を見た今なら妙な感じがしますが、西側陣営は具体的な行動はとりませんでした。
　微：日本から借りた「遺憾」砲を発射しただけでした。
　苦：意味ねえよ!!　ヤルタ会談での「東欧は共産圏」の暗黙の了解が、冷戦下において、米ソ相互の勢力圏に対する相互不干渉という暗黙のルールとして働いていたからです。
　微：まあ、スターリンが毛沢東に「ソ連は東欧に専念する」と言ったわけだし。
　苦：チェコスロヴァキア介入を正当化した有名な「ブレジネフ・ドクトリン」ですが、スターリンやフルシチョフ時代からのソ連の対東欧政策全般を貫いていた指針でした。
　微：イギリスと一緒で、書かれざる憲法だったわけか。離婚規定は無視されているけど。
　苦：1969年4月、ドプチェクに代わってフサークが党第一書記に就任し、検閲制度や秘密警察を復活させて「正常化体制」を強引に作っていきました。「プラハの春」は終わりました。
　微：映画『存在の耐えられない軽さ』で描かれたな。秘密警察と工作員が接近して、民主化活動家を「干し」て、亡命や裏切りで内部崩壊させる手法だな。
　苦：しかも介入以降、チェコスロヴァキアに留まっていたソ連軍の駐留は1968年10月の暫定駐留条約の締結によって事後正当化されてしまいます。
　微：過去遡及は共産圏の得意技だからな。
　苦：そしてなんと、最終的にソ連軍がチェコから撤退したのは1989年だったのです。
　微：それを知ると、日本はチェコスロヴァキアよりひどい状況だよな、21世紀に入ってもアメリカ軍の占領というか「我が物顔」の無軌道ぶりがひどい。
　苦：『行動綱領』の「連邦制の導入」だけは実施され、1969年元日からチェコスロヴァキア社会主義連邦共和国となりました。フサークはスロヴァキア人でした。
　微：それって、スロヴァキアには不利じゃないのか？　日本で言うと四国独立みたいな。
　苦：フサークは民主化・自由化を犠牲にして連邦化という民族的利害の実現を「正常化路線」に忍び込ませたのです。そしてチェコの富をスロヴァキアに移していくのです。
　微：つまり、大阪市の財産を安値で支持者に切り売りする「維新」的政策かな？
　苦：そうです。フサークは改革派やそのシンパに対する弾圧を強化し、経済資源を重点的にスロヴァキアに配分し、その工業化を進めました。
　微：社会主義的に正しい鉄の法則にもとづく火事場泥棒だな。
　苦：チェコ人たちは、手にしつつあった民主化・自由化だけでなく富までスロヴァキアに奪われたと苦々しく思いました。
　微：日本が建設した重工業資本をソ連に解体されて持って行かれた満洲人の悔しさと同じだな。
　苦：この意識が伏流となって、1989年のビロード革命後、静かながらも一気に1993年の連邦解体につながるのです。
　微：「ビロード離婚」ね。
　苦：さて、プラハの春の意義ですが、それは共産党自身による共産党体制の改革の試みでした。
　微：ゴルバチョフ改革みたいなもんか。
　苦：しかしそれが「社会主義の祖国」ソ連によって押しつぶされた事実は、わずかながらも残っていた「現存社会主義」に対する期待・希望を粉砕・一掃することになりました。
　微：確かに東大紛争の前だもんな。
　苦：国際共産主義運動は分裂し、フランスやイタリアの共産党は連共産党との関係を絶ち、プロレタリア独裁を放棄しました。
　微：同類と思われると、政治的に致命傷だな。
　苦：両国では議会制民主主義の枠内での社会主義理念の実現を図る「ユーロコミュニズム」が台頭しました。一方、アメリカでニューレフト、日本では新左翼が現れます。
　微：日本の新左翼は浅間山荘事件と「総括」「自己批判」で自壊したなあ。
　苦：中国共産党はソ連のチェコ侵攻を「覇権主義」と厳しく非難し、1969年にはダマンスキー島における軍事衝突に発展、中ソ対立は修復不可能な状態に達しました。
　微：狂言の和泉家と他家みたいなもんだな。
　苦：チェコ事件を見てソ連・共産党による「上からの改革」に期待しても無駄なので、東欧諸国の異論派・反体制運動は、市民社会の次元に政治変革の拠点を求めるようになりました。
　微：ヤラセ選挙の投票ボイコットか？　ベラ・ルーシやフィリピンの得意技だけど。
　苦：この延長線上に1970年代末のポーランドの自主管理労組「連帯」運動があり、最終的に1989年の東欧革命があります。まあ、マルクス主義的には反革命なんですが。
　微：その行き着く先がルーマニアのチャウシェスク夫妻の流血の末路なわけだ。
　苦：その後のドプチェクですが、1970年6月に党籍剥奪処分を受け、秘密警察の監視下でブラティスラヴァ近郊の営林署での勤務生活を強いられました。
　微：ソ連のように北極圏の流刑地がなかったのがよかったな。
　苦：1989年11月のベルリンの壁崩壊に端を発した東欧の民主化「革命」はチェコスロヴァキアにも及び、劇作家ハヴェルの市民フォーラムが「無血」で共産党一党独裁を終わらせました。
　微：ルーマニアのチャウシェスク夫妻の末路は、あれは正しい「人民裁判」と思うぞ。
　苦：大規模な民主化デモが行われていた首都プラハのヴァーツラフ広場に面した国会のバルコニーに、ハヴェルとともにドゥプチェクが登場しました。
　微：これの生中継のその映像は、まさに世界史の瞬間だったな。
　苦：ビロード革命の成功とドプチェク復権の予言劇でした。共産党体制が倒れた同年12月にドプチェクはチェコスロヴァキア連邦議会議長として政界に復帰したのです。
　微：自転車でこけて政界復帰できない谷垣の立場も考えてやれよなあ。
　苦：ドプチェクは1992年にスロヴァキア社会民主党党首に就任し、総選挙を経てチェコスロヴァキア連邦議会議長に再選されますが、9月1日に交通事故に遭い、11月7日に死去しました。
　苦：犯人は飲酒運転常習犯のエリツィンだったそうです。
　苦：あるかもしれない。その年末にチェコとスロヴァキアに分離しました。ドプチェクにはチェコとスロヴァキアへの連邦解体は不本意だったので、悲しいですが幸せだったでしょう。
　微：「最後のチェコスロヴァキア人」となったわけか。(合掌)