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世界史漫才再構築版46:初期社会主義(空想的社会主義)編

 微苦:ども、微苦笑問題です。
 苦:今回は初期社会主義です。
 微:それは北朝鮮を「末期社会主義」と扱う姿勢を示しているのか?
 苦:あれは末期症状です。かつて「空想的社会主義」と貶されたイギリスのロバート・オーウェン、フランスのサン=シモン(1760~1825年)、フーリエ(1772~1837年)に代表されます。
 微:ガラパゴスの海岸でウミイグアナみたいに昼間にボーっとしてた奴らだな。
 苦:違います。空想的は「ユートピア」の訳で、エンゲルスは「仮説上の完全な共産主義社会のビジョンを創造したものの、その実現方法や維持方法を考えなかった」とバッサリです。
 微:それが「初期」という言い方に変わってきたのは、やっぱりソ連の崩壊か?
 苦:そうです。社会主義思想の始まりに位置することと、マルクス主義の「世界史の基本法則」の誤りがはっきりしたことも表記変更への背景にあります。
 微:まあ、理想社会って、プラトンの『国家』、トマス・モアの『ユートピア』、F=ベーコンの『新アトランティス』を見てもわかるように、現実世界の不遇の裏返し。
 苦:オーウェンは実行の人です。ウェールズ生まれで、1799年にグラスゴーの紡績工場ニュー・ラナークの経営者デイヴィッド・デイルの娘婿となって、1800年から共同経営者となりました。
 微:実は工場と結婚したんだろ、ワシントンのマーサ夫人への求婚と同じで。
 苦:当時は一日14~16時間労働が当たり前でした。それでもまだ生きるのに必要な賃金を得られないため、小学生くらいの児童も働かされていました。
 微:児童労働は今もあるけど、生存可能線以下の低賃金という絶対的貧困の話じゃないんか?
 苦:まさに人口増加圧力を悪用した資本の本源的蓄積が生んだ貧困です。
 微:マルサスが『人口論』で貧困の問題を扱った理由もよくわかる話だな、それ。
 苦:労働者の実情を目の当たりにしたオーウェンは、児童労働を止めさせて幼稚園を工場に併設し、それを「性格形成学院」と名づけました。
 微:ワタミの会長が設立した学校よりは人間的だろうけど、名前がど真ん中すぎるな。
 苦:いや、貧しいというか、生きるだけで精一杯になると人間の性格は歪みますんで。
 微:それでキミの性格は歪んでいるんだな。もっと「ひまわり組」とか思い付かなかったのか。
 苦:ちなみに幼児教育の最初の試みで、「幼稚園の生みの親」フリードリヒ・フレーベルに先んじていて、就学前児童のための教育を実践したわけです。
 微:でも無認可だったんだろ?
 苦:ないものを認可するもないだろ!! さらにオーウェンは成年労働者の労働時間を10時間30分に短縮し、短縮した時間分、労働者に夜間学校で教育を受けさせたのです。
 微:昼間に折伏した上に夜中に大先生の本を読むと学会いうか、人民公社の労働の後に『毛沢東語録』を読まされる農民というか。
 苦:いえ、ちゃんと人間らしさを回復するための「夜間中学」みたいなもんです。ただ、当然ながら昼間の幼稚園の施設を利用していますが。机のサイズが気になりますけど。
 微:教材や遊具まで同じだったりしてな。また、それが人気を呼んで。
 苦:その一方で労働者のための協同組合事業も始めるなど、今なら非営利法人のMVPです。彼の活動は「ニュー・ラナークの奇跡」と賞賛されました。
 微:戦前の日本の炭鉱やタコ部屋、ブラジルのコーヒー農園は「売店切符」を悪用してピンハネとボッタクリしてたんだが、福利厚生としてやっていたなら立派。
 苦:そして1825年にアメリカで私財を投じてインディアナ州で「ニューハーモニー村」と名付けられた実験工場というか理想村に挑戦しました。生活と労働の共同体形成を目指してようです。
 微:白樺派の「新しき村」の元ネタだな、これ。
 苦:ちなみに人民公社も実は毛沢東が「新しき村」に感激して始まったんですけど。いずれもあまりに理想主義的で失敗し、オーウェンはスコットランドに帰国します。
 微:「仲良きことは美しき哉」と書かれた色紙が全部の部屋に飾ってあったとか。
 苦:まあ、時代的にも地理的にもイギリスで食い詰めた年季奉公人たちが集まった人間の大半でしょうし、自作農になる道もありましたから。少し早すぎた、という感じですかね。
 微:オーウェンの純粋な善意もよくわかる。けど、ニューハーモニーで働いた労働者の気持ちも想像がつくよ、第2次農地改革まで小作人だった貧乏農家のさらに分家出身の人間からするとね。
 苦:急にまじめになって、びっくりするなあ、もう。どういうこと?
 微:完璧な善意には反論できないからまじめな人間ほど追い込まれるんだよ。そしてそれを信じて献身的に努力した人間が食い物にされるんだ。
 苦:強烈な皮肉ですが、わかりやすい。たしかにそれはもう宗教の世界です。
 微:大抵の人間なら楽していいなら楽するし、他人の不幸が娯楽になってしまう。芸能人の不倫が原因の転落劇が視聴率や部数を伸ばすようにな。嫉妬から他人の幸福の崩壊を願ってしまうんだよ。
 苦:なるほど。パリの労働者たちの「聖月曜日」習慣というか労働者文化から見たらこの理想世界は世界の果てでしょうね。イモトじゃないけど。
 微:『マイ・フェア・レディ』のイライザと父さんだよ。まともな生活や価値観を身につけてしまうと、もう帰る場所はない。下層から抜け出すのは、ある意味「アフガニスタンからの亡命」だよ。
 苦:話を戻しますと、それでも労働問題を解決するため労働組合運動や生活協同組合運動を推進します。自由放任では労働問題は解決しないことは当然でしたから。
 微:「将来は今よりもきっと良くなる」と根拠がなくても思えること、希望が持てることは大事です。年収200万円未満の非正規雇用労働者が1200万人のこの21世紀日本では無理。
 苦:まあ、一周回って自己責任論を内面化させて露骨な労働者搾取になってますからね。なお、オーウェンは労働者保護立法に尽力し、その甲斐あって1833年に一般工場法が成立しました。
 微:身も蓋もないこと言ったけど、どんな運動も革命も、その始まりにはこんな「無私」の人格者が不可欠です。ロベスピエールも、マルクスもそう。
 苦:でも後継者がそれを利用して権力を維持しようとする。
 微:今日のキミは苦笑ではなく苦労だな。
 苦:次いでサン=シモンですが、フルネームはクロード・アンリ・ド・ルヴロワ・サン=シモンで、その家柄はシャルルマーニュの血統を引く超上級貴族の末裔です。
 微:E塚幸三なんて足下にも及ばない超上級だな。村上源氏クラス。
 苦:宮廷人として必要な教育と軍事教練を経て、16歳でラ=ファイエットの義勇軍の士官としてアメリカ独立戦争に参加しています。
 微:志願したのか、連行されたのかが気になる。
 苦:まあ、好奇心でしょうね。イギリス軍の実戦を見てみたい気持ちもあったかもしれません。行ってみて、合衆国北部のブルジョワというか産業階級の勃興に感銘を受けています。
 微:なんだ、この渋沢栄一臭さは?
 苦:彼は参戦時点でパナマ運河の建設という途方もない計画を考えてたそうです。彼の関心が戦争や貴族としての名誉よりも産業と商業に向けられていたことがよくわかります。
 微:最初から技術の進歩に対する確信や、社会工学的発想があったんだな。
 苦:ただ、フランス革命の恐怖政治期には、貴族ですから、リュクサンブールに幽閉されました。釈放後は貧困に苦しんでます。幽閉中に色んな構想を思い浮かべたんでしょうね。
 微:まさに空想的じゃねえか!
 苦:サン=シモンの思想は後の社会主義学説のほとんどに及んでいましたが、カメの甲羅が肋骨であるくらい残念なことに、忘れられてました。
 微:「フランスの安藤昌益」と呼ばれていたそうです。
 苦:うれしくないよ!! それに死んでから再評価というか発見されてこそ思想家です。特にノーベル賞受賞してから文化勲章を授与するくらい業績評価システムのない日本なら、もっとそうです。
 微:田中耕一さんを思い出したな、懐かしい。
 苦:彼の「産業社会」の核心は、富の生産促進が社会の最重要任務だいう信念です。したがって資本家と労働者は等しく産業階級であって、その対立は問題とはされません。
 微:太平洋戦線と大本営、経営陣と生産現場の対立ということかな。
 苦:前者だと、労働者は死ね!という意味だろ!! 彼が構想したのは、全員が労働の義務を負うと同時に、働くこと・生産することがその人の喜びでもある社会です。
 微:「半分行ってしまった人たち」からなる生産共同体だな。たかもちげんの『祝福王』の世界。ところで店頭でもネット通販でもたかもちげんのマンガ出てないけどなんかあったの?
 苦:あれは不思議ですね。正直、私もわかりません。産業社会に話を戻すと、生産に直接貢献しない科学者や専門家は生産効率を向上させる発見や発明のために存在を許されます。
 微:日本の科学振興政策のパクリ元かよ!
 苦:そして社会の寄生虫たる聖職者や貴族は不要です。国家行政は能力ある市民に任されます。
 微:アンシャン・レジーム批判なのか現代日本批判なのか、どっちなんだ?
 苦:どっちも正解ね。ただし、それには教育が行き渡っている必要があります。その時点で空想的という批判も成り立ちます。
 微:逆にマイナカードなってもんがあったら、かえって混乱するな。
 苦:「五十人の物理学者・科学者・技師・勤労者・船主・商人・職工の不慮の死は取り返しがつかないが、五十人の王子・廷臣・大臣・高位の僧侶の空位は容易に満たせる」と書いてしまいました。
 微:ハゲにハゲと言ったらいけないくらい、わかれよ。
 苦:さすがに、これを公にしたため、ブルボン復古王朝期の1819年に告訴されています。
 微:さすが「何事も学ばず、何事も忘れず」のルイ18世だな。
 苦:サン=シモン思想の特殊性がはっきりするのが、社会の基礎を形作る財産権を国家の最高法規=憲法よりも上位に位置づけている点、つまり生産手段の共有を考えていない点でした。
 微:妙なところでフランス人権宣言というかラ=ファイエットに忠誠を示しているな。
 苦:この経営者の重視が、サン=シモンを「テクノクラートの予言者」と評価させる部分です。
 微:日本の中央官僚が喜びそうなというか、高度成長期日本って、サン=シモン主義じゃないのか?
 苦:案外そうかもね。「資本所有者はその精神的優越によって、無産者に対して権力を獲得した」との見解から1810年代のイギリスのラダイト運動を批判しています。
 微:まあ、あれも電報制度や、「機械の時間」を労働者が内面化している点が悲しいけど。
 苦:貧困問題にしても、富者は貧者を救済すべきだと説くにとどまりました。
 微:最後の部分だけはアメリカでも実践されているよな。さすが、オーウェンのニュー・ハーモニーも、フーリエ主義者のコミューンも受け入れた国。
 苦:「能力に応じて働き、能力に応じて受け取る」という社会主義経済の概念も彼に由来します。
 微:それを根底から破壊したのが小泉改革の派遣労働規制緩和、さらに悪化させようとしたのが安倍の「みなし固定残業代」という無制限サービス残業法だな。
 苦:最後のフーリエは裕福な商人の家に生まれましたが、革命の混乱に巻き込まれ、投獄された上に相続財産の多くを失いました。この体験が後の思想につながっていると言われています。
 微:ああ、「何でも共有」のオッサンね。今なら大学生や企業で重宝されそう。
 苦:1808年に代表作『四運動の理論』で人間の社会的運動は「情念引力の理論」で動くと宣言しました。フーリエはこの情念引力論に依拠した1620人から成るファランジュの建設を提唱します。
 微:ギリシア語のファランクス、スペイン語のファランヘのフランス語発音ね。要は密集・束。
 苦:このトンデモ著作の内容は、一部の熱心な支持者や弟子をしか理解・評価しませんでした。最初期の弟子であるミュイロンたちなどから、後のフーリエ主義運動が生まれることになります。
 微:その日本版がヤマギシズム、参加者に私財すべての寄付を強要する農業集団だな。
 苦:1822年の『家庭・農業アソシアシオン論』で具体化したファランジュは「協同体」で、それは国家の支配を受けず、参加する家族はすべての財産を寄贈し、土地や生産手段は共有とします。
 微:モットーは「シェアさせていただきます」だったそうです。
 苦:SNSじゃねえよ!! 1800人程度を単位として数百家族が共同生活を行い、基本的に生活に必要なものは自給自足し、労働活動を集約することで労働時間を短縮すると考えました。
 微:ここだけ読むと中国の人民公社だな。
 苦:しかもファランジュには「自然的欲望の肯定」という恐ろしい明文ルールもありました。
 微:また渋沢栄一臭さが漂ってきたが。自然的じゃなくて肉体的だろ、直訳すれば。
 苦:婚姻・親子関係は私的所有権や嫉妬の根源なので廃止し、くじ引きによる平等な性的関係を参加者に保障したことです。そして生まれた子供は協同体の子なので協同体が養育します。
 微:まさにヤマギシズム!!
 苦:「自然的欲望の肯定」は、師フーリエの名誉を守りたい弟子たちによって隠蔽されました。
 微:佐川長官から何度もメールで指示が来たそうです。
 苦:その隠蔽が判明し、フーリエ思想の全貌が明らかになったのは20世紀後半。その端緒となったのが1967年になって初めて出版された『愛の新世界』です。
 微:『愛の不時着』と間違って何百万回と再生されたそうです。
 苦:しかもこれを日本で広く(?)紹介したのが「ギャンブル王」植島啓司関西大学教授(当時)です。
 微:まじめな学者がきちんと紹介するのがいいのか、有名人があっさり紹介するのがいいのか?
 苦:実はこれはカルトの国アメリカでオナイダ・コミュニティとして実践されました。「自然的欲望の肯定」原則は途中で長老たちの若い女性との優先交渉権に変えられ、破綻寸前までいきます。
 微:よく崩壊しなかったな。今の音響機器のケンウッド社だろ?
 苦:このコミューンを出る時は無一文だからに決まっているでしょ! それに、ここにいた、ということは完全なスキャンダルだし。
 微:それを思うとAKBとかはまだマシな「自然的欲望の肯定」なのか。

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