北海道を歩いていてなんか思い出したみたいに思いついた話。

等間隔に並ぶ街路灯に無機質さ以外の何かを感じるのはおそらくその一つ一つの経年劣化と電球の光がまちまちだからだろう。
彼女の少し後ろを歩きながら街路灯によって艶のある髪を滑らかに滑るハイライトを見つめていた。
早足で一歩踏み出すたびに小さな体に震度が伝わるのが髪の先のハイライトの破片によってわかる。
「どうしてこうなったでしょう?」
と、不意に彼女がいうので
「倦怠期ってやつのせい?」
と答えてしまう。
我ながら責任転嫁に無個性のトッピング大盛りの死ぬほどくだらないことを言ってしまったと反省する間もなく
「その通りです。」
と彼女の後頭部が答えた。
夏の湿気と混じった汗がうなじを伝ってシャツの首元に吸い込まれていった。
しばらく無言で歩いたあと
「とか言うと思った?そんなわけないやん。だいたい君に人を好きになるとかそんな器用なことできるわけないと思ってたわ。わかってたことやんそんなことは。私もアホやったけど、普段から君は人に興味がないくせになんでもわかったようなつもりでおるけど、恥を周りに撒き散らしてるだけやってことよーわかっといたほうがええと思うよ。そういうわかってますって顔するところがほんまに嫌いやねんわたし、君のそういうところが。次付き合う人にはちゃんと興味もってあげてな。わたしはもうええから。最後のチャンスやおもてちょけて聞いたったのにアホちゃう。なにが倦怠期なん?お互いのせいやっていいたいわけなん?ださ。うざ。もうしらんわあほ。最初から別に好きとかじゃないやん。あほ。」
飛行機が空を跨いだ後時間差で水色を切り裂く飛行機雲が浮かびあがる。ちょうどそれくらいのタイムラグをもって頭にやっと言葉の意味が理解できたころには彼女はうずくまって肩を震わせて泣いてしまっていた。

ただ、自分の気持ちに正直にいたいと思って口をついてでた言葉が「もう好きじゃないかもしれない。」だった。
厳密に言うと、言いたかったのは「あなたの存在は何事にも変えがたいと思ってはいるけれど、恋のときめきのようなものは随分薄れてしまっていて、むしろそれは自分自身の問題で。自分は恋をしたいと思えるほどもう若くないんだと思う。」
くらいの文字数が必要なことだった。

ことの重大さに気づくまえに脳みそは言い訳を考えていた。
冗談めかして言ったんだよ。ということが伝わればいいと思って少しだけ笑ってみせたが、もうその頃には覆水は地面に染み込んで彼女の絶望と怒りの木の根を潤していた。
必死に取り繕って、途中から言い訳をしている自分への言い訳もしながらなんとかほとぼりが冷めたかと思ったが束の間、結局彼女の
「どうしてこうなったでしょう?」
に0点以下の答えをしてしまった。

人目も憚らずに泣きじゃくる彼女の肩にそっと手を置くが、当然払いのけられる。あまりに厳しく無情に振り払われたその手が弧を描いてその頂点で遠心力を感じる。その感覚がじわじとなんだか面白くなってきて気がつくと彼女の頭を撫でながら笑ってしまっていた。
「好きじゃないかもしれない。」は冗談にはならなかったけれど腹の底から込み上げてくる笑いと濃すぎるお酒を飲んで胃が燃え上がるときのような胸焼けみたいな愛おしさがさっきまでの自分の情けなさを溶かして広い空みたいな気持ちに変えてしまっていた。
「好き?」
と涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で彼女が尋ねるので
「うん。」
と頷く。
「わたしは嫌い!しね!」
等間隔に並ぶ街路灯の一つがおそらく交換したてなんだろうな。
よりにもよってここだけ少し明るくて茶番劇を照らすのにはピッタリだ。
彼女は僕の服の裾で涙と鼻水をふいて
あまりに無茶苦茶な自分の振る舞いに自分も面白くなったのか笑いだした。
少しイラッとした。けど、胸焼けみたいな愛おしさが残っていたお陰で二人はまるで世界の中心にいるみたいな気持ちでケタケタと笑い続けることができた。
解けた靴紐を結ぼうと下ろした手にさっきの涙と鼻水を拭いた裾が触れてまた少しイラッとした。その様子に気付いて彼女がまた笑う。

二人はまばらな街路灯みたいだな。って、なんか思ってしまう。光は途切れていても未来までずっとなにかが照らしてくれるような気がして。そんな風に思っていられるうちは多分それを好きという気持ちと呼んでもいいんだと、なんとなく納得してみる。


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もりりょうた

そうです。私がもりりょうたです。Brian the Sunというバンドでギターを弾いて歌っております。 お酒とスケートボードが大好きで、写真をとったり絵を描いてみたりととにかく何かと落ち着きのない人間ですが 結局のところは全て音楽のための自家発電なのだと気づいたのでありました。

小説のようなエトセトラ

せっかく生きているので、妄想でもなんでも書き留めておこうではないですか。
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