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GDPRが施行されるまでにデータプライバシーの専門家が議論していたこと

※このインタビューは2024年3月11日に収録されました

私たちのプライバシーを社会全体で守る動きと共に、表現の自由についても考える必要性が高まってきています。

今回はポーランドを拠点とする法律事務所GP Partnersでパートナーを務めるマチェさんに、これまでのデータ保護法の歴史と表現の自由を含めた権利についての考え方についてお伺いしました。

Kohei: 皆さん。本日はマチェさんにインタビューへお越し頂いております。マチェさんは欧州で素晴らしい弁護士のお一人です。長年データ保護の分野で活躍されています。マチェさん、本日はインタビューにお越し頂きありがとうございます。

Maciej: こちらこそ貴重な機会を頂きありがとうございます。視聴者の方もご参加ありがとうございます。

Kohei: ありがとうございます。早速彼のプロフィールを紹介していきたいと思います。

マチェさんは1973年にポーランドで生まれました。テクノロジーにも精通した弁護士として、紛争解決や規制について専門的に取り組まれています。マチェさんはワルシャワを拠点とした弁護士事務所のGP Partnersでパートナーを務め、独立前には国際的な法律事務所のBird & Birdでポーランド支社を率いていました。

彼は欧州データ保護委員会で専門家として活動するとともに、ワルシャワに位置する経済及び人間科学大学の科学評議委員会のメンバーでもあります。ポーランド商工会議所の仲裁人も務めています。

マチェさんはこれまでに何百ものテクノロジー関連プロジェクトの仲裁に関わり、ポーランド最大のIT運用に関するケースにも携わっています。

ポーランド最高裁判所での案件に至る前には、国内での仲裁案件や国際的な法廷仲裁にも関わり、2011年にはポーランド銀行協会が発行した"ポーランドの金融業界におけるクラウドコンピューティングの規制標準” の書籍発刊にも関わっています。

2014年には欧州委員会のクラウドコンピューティングの専門委員にも選定され、第29条ワーキンググループ(欧州データ保護委員会の前身)にもエキスパートとして参加されています。第29条ワーキンググループでは主にデータ移転関連でのGDPR条項(20, 28.9, 82.1:データポータビリティ、サブプロセッサーの処理責任、データ処理に関する電子フォームによる合意)に携わられています。

2018年には共同著者として “Guide to the GDPR” を発表し、2018年と2019年にはポーランド国内で法律部門のベストセラーとして取り上げられました。本書については、ポーランドデータ保護監督機関からも表彰され、2019年には英語版が発行されました。

2021年にはマチェさんがポーランドデータ保護監督機関の代表からデータ保護に関する教育活動への貢献で表彰を受けています。

マチェさんは複数のポーランドの大学でテクノロジーと法についての講義を持っており、書籍も多数出版されています。私生活では、夫、父としてスノーボードや電子音楽を嗜み、2匹のスペインマスティフとともに生活しています。主に、サイエンスフィクションやスピリチュアル、バイオハッキング等に関心を持っています。

マチェさん。本日はご参加頂きありがとうございます。

弁護士としてのキャリアを歩み始めた理由

Maciej: 少し長い自己紹介でしたが、紹介頂きありがとうございます。

もう少し短くした方が良いかもしれませんね。長く業界で活動していると、色々な記録が残っているものです。

Kohei: 素晴らしい功績ですね。では早速本日のテーマに移っていきたいと思います。初めに重要なお話しについてお伺いしようと思いますが、これまでのキャリアを歩む事になったきっかけについてお伺いしてもよろしいでしょうか?なぜ、弁護士としてのキャリアを歩む事になったのですか?

Maciej: 面白い質問ですね。今の質問には具体的にお答えしたいと思います。弁護士になる以前に、私は数学者になりたいと思っていました。それまでに、いくつかの数学コンテストで優勝した経験もあったからです。

ただ、中等学校に入学した際に数学分析を担当してくださった先生とあまり考え方が合わなかったので、数学者ではなくプログラマーになろうと決意しました。

私はプログラマーを志していたのですが、弁護士でもある私の母の影響もあって、最終的には弁護士になる決意をしました。弁護士が身近で、周りから評価されやすかったというのもあります。

当時は17歳か18歳だったと思いますが、その頃から弁護士になることを目指していました。弁護士を目指していく過程で、法の専門家の間でコミュニケーションしたり、法そのものの改善に取り組む能力が必要であるとわかってきました。

ただ、弁護士になってみると実際の問題はコミュニケーションではないということも見えてきたので、これまでに培った私の考え方を変えていく必要がありました。

私が弁護士になってわかったことは、法律を理解してクライアントとコミュニケーションを取るだけでなく、どういった状況であったとしても相手に理解してもらうことが必要だということです。

それ以来、相手に理解してもらうことに配慮しつつ話をするように心がけています。ここまでお話ししたように、私が生活するための糧として弁護士を選んで活動することになりました。

私の母親が弁護士として活動していたので、弁護士という職業が私の生活にとっても非常に合っていると感じたことが大きな理由です。

Kohei: これまでのご経験を教えていただきありがとうございます。マチェさんは弁護士としてこれまでに様々なことに関わってきたと伺っています。その中でも、欧州データ保護法の制定にも関わられていたとプロフィールではご紹介させていただきました。

次の質問に移りたいと思います。欧州データ保護委員会の前身でもある第29条ワーキンググループではどのような役割を担っていたのでしょうか?合わせて、マチェさんが書かれた“ The Guide to the GDPR” についてもお伺いさせてください。

  (動画:Guide to the GDPR read by the author Maciej Gawroński)

GDPRが施行されるまでにデータプライバシーの専門家が議論していたこと

Maciej: わかりました。私は1999年にフランスでスカラーシップ(奨学金)制度を利用し、大学で法学を学んだことをきっかけにデータ保護に関わるようになりました。

卒業後には法律事務所で働き始めることになるのですが、技術の発展やデータ保護法が成立していく中で、主にクラウドコンピューティングに軸足を置いて活動するようになりました。

データ保護の中でも主にポーランド国内の制度やアウトソーシングに関する内容を中心に取り扱っていきました。その後、ビジネスとの接合性や個人の観点を踏まえつつ、ポーランドデータ保護監督局の一般調査員としても活動するようになりました。

当時、私は博士課程の学生だったのですが、現在欧州データ保護監察官で総裁を務めるビブロフスキー先生から第29条ワーキンググループで活動してみないかと提案をもらい、ワーキンググループの議論に関わるようになりました。

ワーキンググループの中では、「サブプロセッシングへの同意」や「欧州域外へのデータ移転」「標準契約条項」の議論に関わっていました。

その時期に、欧州委員会のクラウドコンピューティング契約の専門家グループにも参加することになり、これまで私が取り組んでいたクラウドコンピューティングの契約や規制についての意見を提案することになりました。

この年は非常に有意義な年でしたね。ここまでの話に加えて、データポータビリティについての議論にも関わるようになりました。

第29条ワーキンググループの活動では、私がこれまでに培ったITの経験や契約の知見から、色々なアイデアを提案していました。

具体的には、欧州データ保護規則(GDPR)の中で「サブプロセッサーの法的責任」に関連する条項があるのですが、まさか私の意見が法律の中に取り入れられるとは思っていませんでした。

全ての方に法的責任を求めることを目的として意見したものではないので、今思うと申し訳ない気持ちもあります。

第29条ワーキンググループでは私の意見を好意的に取り入れてくださる場面も多々ありました。ワーキンググループの中で議論されたものが最終的に欧州データ保護法の条文として取りまとめられることになりました。

データ処理に関する電子フォームの合意については、ポーランドでは手記でのサインが必要になるため、こういった問題についてはワーキンググループ内でも意見提案していました。

さらに、「データポータビリティ」の考え方が欧州データ保護規則の中に取り入れられることになりました。私も「データポータビリティ」が採用されるとは思っていなかったのですが、最終的には欧州委員会が公開した欧州データ保護規則に加えられていることがわかりました。

ワーキンググループで活動を行っていた際には、Bird & Birdという法律事務所で働いていたのですが、2016年に独立するために退所することになります。

これまでにワーキンググループ内で活動していたこともあり、2016年に欧州データ保護規則が制定されたタイミングで罰則金を含めた対策を実施することが必要になるだろうと考えたからです。

私はデータ保護に詳しい弁護士、テクノロジーにも精通した弁護士として新しい分野に取り組みたいと考えておりました。ここまでの経験を通して、欧州データ保護規則についての動向を教えてほしいとの要望も受けていたので、実践的な内容についても伝えていきたいと考えていました。

当時データ保護については、具体的なプログラムやポーランド国内法に最適化したデータベース対策についてのコンテンツがなかったこともあり、独自に開発することになりました。

本を通して見えてくるデータ保護対策と実践

自分のノウハウをまとめたいと思ったので、“RODO. Przewodnik ze wzorami” (ポーランド語)という著書を作成しました。欧州全体でデータ保護規則が施行されるタイミングで、どのような対策を取りまとめるべきかということを整理した内容です。

タイミングが上手く重なったこともあり、この著書は非常に人気が出ました。この本を欧州データ保護規則のハンドブックや実践書として利用する人もいて、ドキュメントやドラフトとして広く利用してもらえるようになりました。

ポーランドデータ保護監督局も私の著書を推薦してくださり、データ保護監督局へのレクチャーや政府の仕事にも関わるようになりました。

当初はポーランド語のみでしたが、“Guide to the GDPR” 英語での翻訳出版も実施されることになりました。ただ、英語版はポーランド語よりも出版コストがかかってしまうので、少し時間を置いて出版されることになりました。

第1版が非常に人気が出たので、第2版も出版してほしいとの要望も増えてきました。私も第2版を発表したいと思っていましたが、出版を検討するにあたって2つの点を検討する必要があると思っています。

一つ目は人工知能に関するテーマです。欧州でもAI法についての議論が進んでいます。二つ目は欧州データ保護規則とデータ保護については法学と文学の点から非常に限定的であるということです。

この内容であれば、そんなに苦労せず出版できるだろうと思います。ただ、私自身が色々なことに関心があるので、中々出版までに行きつかない問題もあります。常に新しい動きがある分野なので、新しいことに取り組みたいとは思っているのですが、絞りきれていないということもあります。

第二版については少し時間がかかりそうですが、欧州データ保護規則以外には、裁判所や裁判官とのコミュニケーションについて "Jak pisać pisma procesowe i prowadzić komunikację w sporze czyli książeczka o pisaniu pism”(ポーランド語)という書籍を出版しています。この本については、ポーランド語と合わせて、英語でも出版も行っています。 “Little Book on Drafting Pleadings”. 

この本も英語版で第二版の出版を検討しています。ポーランド語で出版したものは、国内で非常に人気が出ています。この本はコミュニケーションについてまとめたものなので、第二版は第一版とも連動している部分があり、読みやすくなっていると思います。

Kohei: ご紹介いただきありがとうございます。日本語でも出版されることを楽しみにしています。特に欧州データ保護法への対策をまとめた書籍はあまりないので、具体的な対策を知る上でも非常に参考になるのではないかと思います。

Maciej: 私が知っている日本語をお伝えしたいと思います。「大丈夫ですか?」

Kohei: 大丈夫です。ありがとうございます。 

Maciej: 私が知っている日本語はこれくらいですが。 

Kohei: 言語を越えたコミュニケーションはとても重要ですね。では次の質問に移りたいと思います。マチェさんが展開されているリーガルサービスについてお伺いしたいと思います。

マチェさんの法律事務所では広く法的なサービスをお客様に提供されていると思います。法律事務所で展開されているユニークなサービスがあれば教えていただけませんか?

〈最後までご覧いただき、ありがとうございました。続きの中編前半は、次回お届けします。〉

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Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author  山下夏姫

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