サンエムカラーでの色校会議

4人のデザイナーと4つの印刷会社がタッグを組み、横田大輔さんの冊子をそれぞれ作るプロジェクト、「Print House Session」。
今日はデザイナーの町口景さんと、京都に本社を置く印刷会社サンエムカラーの水道橋の事務所を訪れました。町口さんからの希望を元にした試し刷りを見ながら、使う色や紙を決めていくための打ち合わせです。

事務所の本棚にはこれまでの制作例の一部が並んでいました。写真集や美術系の本を始めとした、見覚えのあるものが数多くあります。

今回の写真はすべてモノクロ。水墨画のようなタッチで、というオーダーに対して上がってきたのはマット系アート紙と金箔入りの和紙に「8K」の超高精細印刷でした。松井さんと篠澤さんから刷りについての説明があり、最新の技術と立体感にテンションのあがる町口さん。

4種類の黒・グレー系のインクに加え、熟練の目で必要と判断した部分にニスを加えたパターンも。

印刷も、カメラやテレビ画面における画素数と同じで、インクの描点が細ければ細いほど精微な表現が可能になります。印刷の画素数は、紙面の1インチの線上にどれだけの点を刷れるかというLPIという単位で表されますが、これまで通常のオフセット印刷では175点だったのに対し、サンエムカラー・富士フィルム・SCREENの三社が共同開発した高精細の印刷方式では1インチに1000もの微細な網点を打つことができるようになりました。従来の約33倍の精密さであることから、映像の高精細になぞらえて「印刷の8K」と称しているそうです。

並べると際立つ彩度の高さ。日光のクリアな感じやグリーンの鮮やかさ、黒く沈みがちだった影の部分、表現の難しい金色の光沢感などに、パッと見ただけでも明らかな違いがありました。

ルーペは必須のアイテム。拡大してもほとんど点が見えません。

サンエムカラーの創業者で、会長の松井さん。これまで60年以上にわたり様々なタイプの印刷に関わる中で培ってきたノウハウを生かし、さらにアートとしての印刷を高めるため、他社との共同開発や現在急成長しつつある中国の印刷会社との技術交換を積極的に行っているとのこと。技術はシェアして良くしていったらいい、というオープンな姿勢が印象的でした。

目だけでなく五感で感じる印刷を目指し、手触りや匂いなどの質感も重視していきたいという松井さん。これまで様々な触感の素材に実験的に印刷されてきた横田さんの写真と、また新たな素材の組み合わせが生まれそうです。

進歩し続ける印刷技術の現場を知ることは制作者やデザイナーにとって大きな刺激になり、表現の可能性も広げてくれます。単に「現物により近い」だけでなく作り手の想定を超えるビジュアルになって上がってきた印刷物を実際手にしたときの興奮は、画面の上だけで見ていては味わえないものだなあと改めて感じた色校会議でした。これからどんなものが出来上がっていくのか、印刷から製本の工程も楽しみです。

写真/文: 清水はるみ

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