速読のジレンマ解消法

過去の記事で何度か書いてきた通り、速読というものについて私はその必要性を完全には否定しないものの、役に立つ場面はかなり限られるという立場でいました。
仕事や試験など納期・時間制限があるものについては、その時間内で最大限の成果を出すために、多少無理してでも速く読む行為は必要です。
しかし、私生活で読書をする場合など、誰にも強制されない状況でも無理に速く読もうとする行為は百害あって一利なしという考えであり、多くの人も同じような感想を持つのではないかと思います。

ただし、これは速読というものを「無理して速く読む行為」と定義づけした場合の話であり、もし落ち着いた普通の感覚で文章を読んでいるのに結果的に他の人の何倍も速く読めているという速読がこの世に存在するのであれば、それはむしろ好都合であり身につけるに越したことはないと思っています。

実は私はこのようなタイプの速読については、過去に何度も習得しようと試み、いくつかの速読教材も試したり実際に速読教室のインストラクターに教えを請いに行ったりもしましたが、なかなか満足のいく結果を得ることができずに、何度も挫折して訓練を中断していました。

しかし、心のどこかでは訓練を続ければいづれかなり速いスピードで本が読めるようになるだろうという憧れがあり、この憧れと懐疑心の狭間で思うように訓練を続けることができない速読のジレンマとでも言うべき悩みを、常に抱えていました。

ところが、このようなモヤモヤ状態について最近ようやく自分自身で納得のいく答えが出せるようになり、現在速読訓練を再開し順調に続けることができています。
また、私生活において文章が速く読めることの効果を、徐々に実感してきています。
今回は、この速読のジレンマを解消する上で役に立った自分なりの速読に対する考え方について、書きたいと思います。

まず私は、世の中に出回っている様々な速読法を試した上で、最も内容に説得力があると思えるもの1つ選んで、その理論をベースに自分なりに考えた訓練を続けています。
その速読法について、ここでは特に宣伝するつもりは無いのであえて名前を出すことはしませんが、これから書く内容を見ればわかる人にはわかると思います。

その速読法では、速読ができるようになるための重要な要素として次の3つを挙げています。

まず1つ目は、眼の筋力を鍛えて眼がスムーズに動くようにすることです。

そして2つ目はいくら眼が速く動いても頭の文章理解が追いつかないと意味がないので、脳の処理速度を高める訓練をします。

最後に3つ目は一度に読み取れる文字の範囲を増やしていきます。
速読の訓練をまったくやったことが無い人でも、だいたい5文字位はまとめて意味を理解しながら読んでいるのではないかと思いますが、速読の訓練ではこの文字数を可能な限り増やしていきます。
また、文字数だけでなく行数も通常は1行ずつ読みますが、これを2行、3行ずつまとめて読んで理解できるようにしていきます。

ここで大多数の速読流派が、大衆に向けての伝え方を間違っている部分があると思っています。
多くの速読流派は自分たちの講座を受講すれば、ほとんどの人が2行以上を同時に読むことが可能であるかのように錯覚させるような宣伝をしているのではないか?と見ています。

私の感覚では、2行同時に読めるようになると大体分速5000文字くらいの読書スピードになると思っています。
これは日本人の平均読書速度を分速500文字とした場合、10倍のスピードとなりますが、このくらいのレベルであればほとんどの人が達成できると勘違いさせるような情報を、多くの速読教室は発信している様に思います。
しかし、もしこれが事実であれば、こんな有益な方法が世の中に広まらないはずはありません。
ところが現実はむしろ逆で、残念なことに「速読=インチキ」みたいなマイナスな印象の方が広まってしまっています。

私が考える速読に対する正しい認識としては、大多数の人は従来の読書の感覚の延長で1行ずつ読むスピードを極限まで速くして、大体分速2500文字くらいで読めるようになるのは十分可能だと思います。
しかし、2行同時に読むのは従来の読書の方法とあまりにも感覚がかけ離れており、大きなパラダイムシフトが必要になります。
そのため、習得するには持って生まれた素質や育った環境で出来上がった性格的なものなどが影響し、大多数の人がこの壁を超えるのは至難の業なのではないかと思っています。

実際性格的な要素は、かなり重要な割合を占めているという実感があります。
速読はけっこういい加減な性格の人の方が上達が早いように見えますが、そもそも私も含めて速読を習得することに対して熱心な人は、物事についてキッチリ・ハッキリさせたい左脳優位な人の方が多いように思います。
また、女性の方が右脳と左脳の情報連携が男性よりも優れているため、全脳を活性化しやすく速読を習得しやすいといった情報もあり、やはり速読の上達効率においては遺伝や性格など如何ともしがたい要素がかなりの割合を占めている、という実感を持たざるを得ません。

そこで、速読の訓練を続けていく上で、まず最初に理解しておいた方がよいのは、自分がどれだけ速く読めるようになるか、そしてそのためにどれ位の訓練時間を要するかは誰にも分からないということを、しっかり認識することだと思います。

大多数の人は速読と聞くと、最低でも日本人の平均読書速度10倍である分速5000文字くらいは読めるようになりたい、できれば20倍の分速10000文字くらいは行きたいと高い願望を抱いてしまうのですが、それは速読を提供する側があたかも少し努力すればそのレベルに十分到達可能であるという錯覚を振りまいている所に、元凶があると思います。
そして、実際やってみてそれが達成できないと悟ると、今度は「速読はインチキ」という方向に180度針が振り切れてしまうのです。

しかし、ここでもっと速読というものを冷静に現実的に捉えるのが賢い選択であると思います。
1行ずつ読む限界の分速2500文字でも日本人の平均の5倍程度であり、このくらいであればほとんどの人が短期間で習得可能なレベルです。
実際は5倍といっても、それは同じ文章で繰り返し読書速度を計測した場合になるので、その7割の分速1750文字、倍率にしてざっと平均の3倍程度が初めて読む文章で無理なく実現可能なスピードになります。

平均の3倍だとかなりしょぼい印象しか持てないのが速読の世界の異様な光景であり残念なことなのですが、実際3倍速で読めるというのはかなり有益性があります。
東大の様な難関大学に合格できるような人たちは、だいたいこれくらいの速さで読めるというのはよく聞く話なので、速読の訓練をしてこのレベルを習得する意義は十分あると言えるでしょう。

次に心に留めておきたい重要なこととしては、大多数の人が平均の3倍程度のスピードであれば特別脳に障害が無い限り無理なく身につけられるレベルですが、この程度の読書スピードだと怠けて遊んでいても人生が変わるといった魔法のような奇跡は起きないということです。

しかし、努力して読書や勉強をすることで人生に対してかなり可能性が開けてくるという希望は、十分に持てる速度だと思います。
読書速度が人並みであれば、どんなに努力しても報われないことの方が多いかもしれませんが、3倍速で読めれば今まで不可能だったことも努力しだいで達成できるようになるかもしれません。
そのように努力することに対するモチベーションを高める意味で、速読の訓練を続けて3倍速のスピードを達成し、それを維持し続けることは有益だと思います。

また、実際は初めて勉強する分野でまだ十分な知識が無い場合であれば、3倍速すらも出すことはできず、音読で読むのと変わらないスピードに落ちることも十分ありますが、一度しっかり読んで内容を理解した文章であれば次はより速く読めるようになります。
物事を記憶に定着させる上で一番簡単な方法は、繰り返し読んで学習することなので、その観点からたとえ初めて読む難解な文章は速く読めなかったとしても、ゆくゆくは3倍速が発揮できるようになり、反復学習の効率が上がることに対する期待は十分にあると言えます。

既に書いたことの繰り返しになりますが、速読の習得効率は個人の素質による差がかなり大きいため、10倍、20倍という憧れの世界はあくまで憧れに留め、現実的には多くの人が達成可能な3倍速を手に入れてそれを維持することをモチベーションとして訓練を続けた方がよいこと、そして3倍速程度であればそれだけで人生が変わるようなことは無く、しっかり努力して読書や勉強をする時間を十分に確保することが必要であることを書きました。
以上のことから導かれる重要な考え方としては、毎日大量の時間を速読の訓練につぎ込むのは費用対効果の極めて悪い愚の骨頂の行為であり、1日10分程度の短い時間で毎日続けていくのが、賢い速読との向き合い方ということができます。

以上述べてきたような考え方を悟る前は、私はけっこう速読に対して無駄なお金と時間をつぎ込んでしまい、その割に思うように速く読めないことに対する絶望感みたいなものもありましたが、現在はようやく穏やかな心理状態で速読を日々の生活に十分活用できるようになってきました。

最後に結論としては、メンタリストDaiGoみたいに速読を嘘と完全否定するのも、多くの速読事業者の様に10倍以上の速読能力を大多数の人が努力次第で手に入れられると幻想を抱かせるも、どちらも両極端で不親切な態度です。
特に速読に関する真実を発信しようとしない数々の速読事業者に対しては、金儲けの事しか考えておらず、速読を世の中に普及させて人々の脳力アップに貢献したいという意思がまったく感じられない、と強く憤っています。

とりあえず3倍速という誰でも簡単に手に入れられる速読を習得し、そのスピードを維持して私生活で十分に活かしながら、いづれ10倍以上の速度で読めるようになることに何の確かな保証も無いながらも僅かな希望を見出しつつ、毎日短時間の訓練を続けるよう指導するのが、最も親切な速読に対する向き合い方だと思います。

「速読が上達する上で一番重要な要因は才能である」という速読事業者にとっては受講生を減らしかねないとても不都合な真実を包み隠さず公開し、更に人生において速読を最大限に有効活用する秘訣は「上達への欲を捨てる」ことであるという内容を合わせて伝え広めることが重要です。
速読に関して、私と同じようなジレンマを感じていた人の参考になれば幸いです。

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