【食材研究】海苔　～おにぎりから海苔がなくなったら～

2024年1月18日 10:48

日本人にとって、馴染み深い食品である「海苔」。日本人のソウルフードである、おにぎりやお寿司に巻かれている身近な存在です。海に囲まれた島国で発展を遂げてきた日本人にとって、古くから海苔は欠かせない栄養食品ですが、いま地球温暖化の影響で海苔の生産量が下がっているという問題が起きています。今回は、そんな「海苔」の魅力と課題について、掘り下げていきます。

海苔の歴史

日本人が海苔を食べ始めたのは、なんと縄文時代からなのだと言われています。当時、「ノリ」とは「ぬらぬらしたもの」という意味を表し、海藻類全般を指していて、現在のように乾いてはいない生の状態の海藻のことを「ノリ」と呼んでいたそう。飛鳥時代から、朝廷に献上される高級品として扱われ、室町時代からは、茶懐石料理に海苔が登場し、乾燥させた状態でそのまま食べていたと考えられています。

江戸時代になると、現在のように乾燥させた海苔を焼いて「焼き海苔」にして食べる動きが見られ始め、江戸で海苔の養殖が始まり、特産品となりました。浅草で再生紙をつくる際に用いられていた紙漉きの技術を海苔に転用し、現在見られる四角い形の海苔が登場しました。すると、「海苔巻き」が庶民の間で大流行し、海苔の全盛期がおとずれました。

昭和になると、海苔の養殖方法が進歩したことに加え、コンビニエンスストアでおにぎりが発売されたことをきっかけに、海苔の生産量が飛躍的に増えました。平成に入ると、海苔の不作が話題に上がるようになった一方、2013年には「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録され、海苔に注目が集まるようになりました。

海苔の栄養と効能

・咳や痰の改善によい。声が小さい悩みにも効果的。
・しこりや腫瘍を柔らかくし、小さくする。
・利水効果があり、むくみを改善する。身体のほてりを冷ますため、咽頭痛や腫れ物などの熱を持った炎症を抑える。
・β－カロテンやビタミンB・Cが豊富で、美肌効果がある。その他に、カルシウム、カリウム、鉄分、食物繊維が豊富で、1日1枚食べれば必要な栄養素が補える。
・ヨウ素が豊富。これが不足すると、体内の新陳代謝を促す甲状腺の働きが弱まり、むくみ、疲労感、記憶力の低下を招く。

海苔が直面している問題

ここまで、海苔の歴史、栄養、食べ方といった海苔の魅力的な側面について説明してきましたが、そんな海苔の生産量が地球温暖化の影響で減少していることはご存知でしょうか？

海苔は、海水温が低い秋から冬にかけて海水の中で養殖するのですが、2000年代に入った頃から、秋になっても海水温が十分に低くならず、養殖できる期間が短くなっています。また、海水温の上昇により活動範囲が広がった魚が、海苔を食べてしまうという被害も発生しています。降雨量が減少したことによる、山から海に流れてくる栄養素の不足が原因で、色素の薄い海苔ができてしまうという問題も起き、海苔の不作につながっています。

これに対して、高水温に適応した品種の研究開発などの対策が進みはじめていますが、このまま地球温暖化が進行したら、次々に新たな問題が発生し、いま研究開発を進めている内容では追いつけなくなり、それが続くと、もう海苔は採れなくなってしまうという未来が待っているかもしれません。

まとめ

昔から日本人が食べてきて、和食に不可欠な存在の海苔。島国で海の恵みをありがたくいただき、食文化を豊かに発展させてきた日本で、海苔を絶やしてしまうことは、文化的にも大きな損失になります。

栄養価が高く、おにぎりやお寿司の周りに巻き付けて食べやすくする役割もある海苔が、地球温暖化の影響でもし消えてしまったら、「おにぎりの海苔は、パリパリ派か、しっとり派か」という議論も出来なくなってしまいます。

単なる食品ではない、私たちの大切な食文化である「海苔」を守るため、地球温暖化との関係を少しでも誰かと話してみたり、ささやかな行動から起こしていけるといいですね。

参考資料

株式会社山本海苔店. 海苔の歴史. https://www.yamamoto-noriten.co.jp/knowledge/history.php

水産庁. ノリ養殖をめぐる情勢について. https://www.jfa.maff.go.jp/j/saibai/attach/pdf/norimeguji-1.pdf

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか？