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学童に対するインフルエンザワクチン集団接種は、インフルエンザで亡くなる乳幼児のリスクを減らしていた|2023年12月24日

■ ブログで公開した内容の深掘りです。

( 本記事は、いずれメンバーシップ限定となる予定の記事ですが、一時的に一般公開といたします。メンバーシップの概要は、こちらをご参照くださいm(_ _)m)


日本における学童に対するインフルエンザワクチン集団接種の歴史とその社会的影響とは?

■ インフルエンザが流行しています。


■ さて、日本では、1977年からインフルエンザ対策として学童への集団予防接種が実施されていました。

■ しかし、1987年には法律改正により保護者の同意を得た希望者のみに実施されるようになり、保護者の希望によりワクチン接種が接種される方針に変更になり、接種率が低下しました。
■ さらに1994年にインフルエンザが予防接種法の対象から外れ、任意接種へと切り替わりました。

■ そして、大幅に接種率がさがる時期がありました。

■ 学童に対するインフルエンザワクチン集団接種が中止になった理由はさまざま考えられていますが、効果に関する懸念、接種後の副作用に対する社会的非難などが背景にありました。
■ その後、老人やハイリスク群への接種を推奨する方針に転換されていき、子どもの接種率は不十分なままです。


■ もちろん実際は、学童に対するインフルエンザワクチンは有効であることはあきらかになっています。

■ 実際、その学校のインフルエンザワクチン率は、インフルエンザ流行時における、その学校のインフルエンザによる欠席を減らします。

King JC, Jr., Stoddard JJ, Gaglani MJ, et al.: Effectiveness of school-based influenza vaccination. The New England journal of medicine. 2006, 355:2523-2532. 10.1056/NEJMoa055414

Kawai S, Nanri S, Ban E, et al.: Influenza vaccination of schoolchildren and influenza outbreaks in a school. Clinical infectious diseases : an official publication of the Infectious Diseases Society of America. 2011, 53:130-136. 10.1093/cid/cir336


■ そもそも、インフルエンザは小児はハイリスク群です。
■ 4歳以下のお子さんでは脳炎のリスクがありますし、年齢が高くなっても、懸念は大きいと言えます。


■ さて、それはさておき、そのような時代背景のなか、集団接種は1994年に中止された以降、一時的にインフルエンザの接種が下火になりました。


論文から引用。日本におけるインフルエンザワクチンの出荷ドーズ数。


■ しかし、学童へのワクチン集団接種が中止になったあと、高齢者のインフルエンザによる超過死亡が多くなったことが報告されました。
■ 児童に対する集団接種は、高齢者における、年間約37,000〜49,000人の死亡を予防していたのです。

超過死亡とは、インフルエンザの流行によって増えたインフルエンザ・肺炎で亡くなると推定される人数で、ワクチンを受ければ助かったかもしれない人々の数を示します。


■ では、この時期、学童以外の乳幼児に対する間接的な効果はあったのでしょうか
■ 乳幼児のインフルエンザによる死亡を大きく減らしていたことがあきらかになっています。



この論文でわかったことをざっくりまとめると?

1972年から2003年の1~4歳の乳幼児の月別全死因死亡率と肺炎・インフルエンザ死亡率、インフルエンザによる超過死亡率を推定したところ、

✅ 1990年から2000年の11シーズンにおける幼児の過剰死亡数は783人と推定され、学童期の集団接種が中止された影響と考えられた。




以下は、論文の解説と管理人の感想です。


背景


■ 1960年代に日本で実施された学童への集団予防接種は、インフルエンザ対策として効果を示し、全死亡率の低下と関連していた。
■ このプログラムは1994年に中止され、その後死亡率は季節的に上昇傾向にあった。
■ 最近では幼児や高齢者へのインフルエンザワクチン接種が普及している。
■ 本研究は、学童への集団ワクチン接種中止前後での幼児におけるインフルエンザ関連死亡率の変化を調査することを目的とする。

方法

■ 1972年から2003年にかけての幼児(1~4歳)の月別全死因死亡率と、1972年から1999年の肺炎・インフルエンザ(P&I)による死亡率を分析した。
■ インフルエンザによる超過死亡率は、ベースラインとなる年間死亡率を前後2年の12月に報告された死亡数を基にした3年間の移動平均で推定した。


管理人注:インフルエンザによる小児の超過死亡率を推定することは、入院の原因となる他の感染症の存在により困難です。そのため、小児の入院と脳炎による死亡率のピークは1月と2月であることから、インフルエンザ関連超過死亡率の推定は、1月、2月、3月の死亡数をベースラインと比較して推定しされました。


結果

■ 幼児の全死因死亡率には1990年代に顕著な冬のピークが見られた。
■ これらのピークは月毎の肺炎&インフルエンザの死亡率の冬季におけるピークと一致し、高齢者の冬季におけるピークと非常に類似していた。


管理人注:1990年代には、A型インフルエンザによる小流行が季節ごとに起こっており、1994年3月に全死因死亡率のピークとなりました。
1996年1月と2月にはA型インフルエンザの流行により、肺炎とインフルエンザによる死亡率が高まり、2002-2003年の冬には、変異型インフルエンザウイルス株による大流行よなりました。

1972年から1976年までは、肺炎&インフルエンザによる死亡率のピークは冬と夏の両方にありましたが、1977年から1986年までは冬にのみピークが発生し、1987年以降は冬のピークは見られなくなっていました。

1997年から1998年にかけてのインフルエンザ流行時には、乳幼児の超過死亡率が増加し、計202人がインフルエンザに関連して死亡しました。
1990年から2000年にかけて、合計783人の幼児がインフルエンザが原因で死亡したとされました。

論文から引用
A) 日本における幼児(1-4歳)の全死因死亡率、(B)幼児の肺炎・インフルエンザ死亡率の年間超過死亡率に対するインフルエンザワクチンの年間接種量の推定値。





■ 1990年から2000年の冬季11シーズンにおける幼児の過剰死亡数は783人と推定され、2000年以降は死亡数の冬季ピークは観察されなかった。


結論

■ 1990年代の幼児におけるインフルエンザ関連死の増加は、学童への集団予防接種の中止が原因であったと考えられる。
■ 近年の幼児へのインフルエンザワクチン接種の増加とノイラミニダーゼ阻害薬の日常的な使用により、インフルエンザ関連死亡率は減少傾向にある。



管理人の感想:学童集団ワクチン接種は、乳幼児のインフルエンザ関連死亡率を低下させていた

DALL-E3で作画

■ 推定の部分はありますが、学童へのインフルエンザワクチンの集団接種は、接種をしていない乳幼児のインフルエンザによる超過死亡も減らす効果があるという結果でした。

■ そして、11シーズンにおける幼児の過剰死亡数は783人とされています。すなわち、集団接種を中止したために、800人近くの1歳から4歳の乳幼児が亡くなったということです。

■ 1987年以降、学童のワクチン接種率の低下が、幼児のインフルエンザ関連死亡率の増加の原因と考えられ、1994年にワクチン接種が中止されたため、1990年代後半には死亡率が大幅に上昇したことになります。

■ もちろん、学童への集団予防接種は、そのお子さん自身にも有効ですが、インフルエンザワクチン接種率上昇は集団免疫に繋がり、幼児の死亡の低下に役立つ可能性があると考えられるようになっているということです。

■ 近年、インフルエンザによる乳幼児期になくなる方は多くはありません。
■ しかし最近、インフルエンザ脳炎で2人の方が亡くなったというニュースがありました。

インフルエンザ脳症による2例の死亡例発生について

■ つい最近公開された、20000人以上の小児に対する検討でも、インフルエンザA、A(H1N1)pdm09、Bに対するワクチン効果は、特に1〜2歳の年齢層で高い効果が見られています。

Shinjoh M, Furuichi M, Kobayashi H, et al.: Trends in effectiveness of inactivated influenza vaccine in children by age groups in seven seasons immediately before the COVID-19 era. Vaccine. 2022, 40:3018-3026. 10.1016/j.vaccine.2022.04.033

個人的には、集団接種自体は緊急時の政策であり、個人がかんがえて接種をすること自体に反対はありません

■ しかし、高齢者だけでなく、乳幼児をふくめた小児のインフルエンザワクチンを定期接種にしてもいいのかなとは考えています。


元論文

学童のインフルエンザ集団予防接種とインフルエンザ関連死亡率への影響.


Sugaya N, Takeuchi Y: Mass vaccination of schoolchildren against influenza and its impact on the influenza-associated mortality rate among children in Japan. Clinical infectious diseases 2005, 41:939-947. 10.1086/432938

noteでは、ブログでは書いていない「まとめ記事」が中心でしたが、最近は出典に基づかない気晴らしの文も書き散らかしています(^^; この記事よかった! ちょっとサポートしてやろう! という反応があると小躍りします😊