最近読んでおススメの本
ソファーに座る私たち。
ポーランド出身の同級生、スザンナが唐突に教授に質問を投げかけた。
その頃の私たち指揮科の学生は教授の家で授業ということも珍しくなかった。ソルフェージュ(耳の訓練)や和声(作曲法の基礎になる和音の組立方を学ぶ)を教えるソコロフ教授の家で毎週2回レッスンを受けていた。時間に区切りをつけず、惜しみなく教えてくれた思い出深い教授である。音楽院から近い芸術家ばかりが住んでいる建物の3階に住んでおられ、私至っては音楽院受験前から習っていたのでとても親しみのある先生だった。
スザンナがおもむろに聞いたのは、「ソコロフ先生はチェルノブイリの原発事故の時、どうだったか」ということ。横に座っていた私は思いがけない質問に、どんな回答が返ってくるのか教授の顔を注視した。
教授のそれまでの人懐っこい穏やかな表情を曇らせ、思い出しながら、
「あの時は何が起きたのか分からなかった。政府発表があってから思い出してみて、そう言えば、喉に違和感があることを思い出した。」とこぼした。
その当時ソ連政府(チェルノブイリはウクライナに所在するがその当時はソ連)が事故からしばらく情報をロシア国内でも隠していたので、人々の知る由ではなかったということだ。
ノーベル文学賞受賞のСветланова Алексевиич(スヴェトラーナ・アレクセービチ) の «Чернобыльская молитва»(邦題「チェルノブイリの祈り」)を読んだ。
圧倒的な力強さでチェルノブイリの様子が描かれている。
ロシア語で是非お読み頂きたい作品だ。
何が起きたのか分からない怖さ。
一緒に側で体験しているかのような臨場感あふれる筆致だ。
百聞は一見にしかず。
一度手に取って読んでみることをお勧めする。
また、アメリカのワーナー系テレビ局HBOが2019年に制作した «Чернобыль»という全5回のシリーズドラマはまさにこのスヴェトラーナ・アレクセービチの描いた世界を想起させる。併せてお勧めしたい。by 清水雄太
『ぺテルで劇場へ行こう!』ペコのサイトにぜひ遊びにきてくださいね!
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