見出し画像

昇任欲求

「早く昇任しないと」

同僚や上司によく言われることだ。
どうやら年相応に昇任していかないと認めてもらえない世の中らしい。

「なぜ昇任を?」

私が聞くと、ある同僚はこう答えた。

「ああなるのを回避するため」

同僚が目配せしたのは、定年間近の太ったおじさん。長年昇任せず、大した働きもできない。いわゆる窓際族といったところの人だ。

「なるほど」

とりあえず相槌を打った。
要はいつまでたっても昇任しないとやる気がない、能力がないとみなされ、皆から馬鹿にされてしまう。だから昇任するという意味なのだろう。

常々思うに、人を馬鹿にするのはその人の心の問題であって、馬鹿にされる人が解決するべき問題ではない。

例えば四肢のない人を馬鹿にする人がいる。足の遅い人を馬鹿にする人がいる。能力の劣った人を馬鹿にする人がいる。
馬鹿にする側と馬鹿にされる側、問題があるのはどっちだろう。

四肢のない人が抱える問題は、四肢のない自分がどう生きていくか。
足の遅い人が抱える問題は、努力して速くなるべきか、はたまたかけっこ業界から足を洗い他の生きる道を探すか。
能力の劣った人が抱える問題は、どう折り合いをつけて生きていくか。

それぞれに問題があるように、人を馬鹿にする人の問題は、人を馬鹿にしてしまう自分の心をどうすべきかにある。

なのに馬鹿にする人は、それを相手の問題にしてしまいがちだ。馬鹿にされる奴に問題があるんだから、嫌ならなんとか解決してみせろと本気で思っている。だからタチが悪い。

昇任の話に戻そう。
同僚の言葉に「なるほど」と相槌を打った。私には関係のないことだということが改めて確認できたからだ。

もしも昇任することで出勤時間が2時間遅くなるのであれば、全力昇任だ。
ふたつ昇任すれば退勤時間が2時間遅くなり、みっつ昇任で週休3日になるのであれば、きっと私は他人を蹴落としてでも昇任することだろう。 

そうではないから、昇任は私の価値観とは合わない。

私がこの仕事に就いたのは、父と母がせっせとこしらえた「ろくでなしの螺旋」から抜け出すためだ。
そのために必死に勉強をして、そこそこ厳しい入社試験をクリアした。
ろくでなしの螺旋を引き返せないところまで昇ってしまうところだったが、どうにか引き返し、自分の道を作ることができた。

いちについて、よーい、どん!

号令がどこかで聞こえるが、競争をするために入社した覚えはない。
あくまで昇任が目標の人が号令に従えばいいだけだ。

昇任欲求はございません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?