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【感想】さよならを教えて~comment te dire adieu~

ブランド : CRAFTWORK
発売日 : 2001-03-02
シナリオ : 石埜三千穂 / 長岡建蔵(美駒)(サブ)
原画 : 長岡建蔵(美駒)

◾️ストーリー

さよなら…。今、全ての人に贈る最期の言葉。

間を見失い、すべてに逡巡し、自分の事さえも分からない男は、悪夢と白昼夢に悩まされながら、
教育実習生としての責務を全うしつつ、迷い子のように橙色の放課後を彷徨い続ける。

校内で出会う少女たちにやすらぎを求め、同僚の女性たちの顔色を伺う毎日。
彼と彼以外の間にあるのは深く暗い奈落だけだった。

彼はそこに転がり落ちるしかないのかも知れない。
そう、昼の次にやって来るのが夜でしかないように、人間が不眠不休で起き続けられないように、
人が空を飛べないように、1+1が2であるように、少女が女へと成長するように、
……至極当たり前のように。
正気と狂気の狭間を超えた時、あなたが目撃する結末とは……!?

DL site さよならを教えてwebより引用

⚠️ここからネタバレあり⚠️





◾️ネタバレ感想

凄いものを読んでしまった…。
鬱ゲー界のサラブレッド降臨。

★はじめに

三大電波ゲーに数えられる2001年発売の問題作。
冒頭ではありますが、先に結論を述べましょう。

これ、頭おかしい!!(泣)

精神的に疲弊すると言うか、強い意志で臨むべきと言うか‥‥。
面白かったんですよ、間違いなく。
ただ、本質は分からなかったんですよね。
狂気漂う空気感に呑まれたかのような感覚です。

プレイ中に企画・原作の長岡建蔵さんのインタビュー記事を読みました。
ビジュアルアーツの馬場社長から『Kanon』くらいの作品を望まれた結果が本作だそうです。

どうしてこうなった。
拗らせ方凄すぎ…。伝説すぎ。

本作には有名な注意書きがありますが、クリア後に思ったのはまさにその通りだなと。

さて、この感想は批評空間に投稿したものに、加筆修正を加えた感想記事となります。(投稿日23/11/11)
思った事をただ垂れ流しただけで、作品の考察や分析には全く触れませんので何卒ご容赦ください。


★物語と狂気について

狂気ゲー、鬱ゲー、グロゲーと散々聞いてはいましたが、好奇心というのはなんとも厄介なもので、どうしても自分の目で確かめたくなるもの。
警戒しながらプレイを開始し、精神を疲弊しながら作品を堪能して、たどり着いたエンディングに言葉にならない謎の喪失感を味わう事になりました。

自分が一体、何を無くしたかも分からない‥‥。

内容についてはあまり多くを語る気になれません。ちゃんと理解出来た自信が無い。
なんていうか、狂気性に頭の整理できなくて作品の理解が非常に困難だったんですよ。
いや、正しくは物語の理解は出来ても、主人公を理解する事が出来ませんでした。

この作品で厄介なのが主人公の狂気の深さ。
何をどうやっても頭がおかしいという答えに帰結してしまう。
主人公を理解出来ない理由としては、プレイした自分自身が正常な精神状態だったからでしょうか。
どうやら本作はプレイヤーの精神状態で受ける狂気が変わるような気がするんです。
それゆえ、精神に悪影響を及ぼす危険な作品でもあると感じました。
確かに注意書き通りです。

この作品の陰鬱な空気は毒です。
もし異常な精神状態でプレイすれば、たちまち作品に飲み込まれてしまうのではないかという恐怖を感じます。
本作の狂気の本質は、プレイヤー自らが正常なメンタルに「さよなら」を告げる事でした。



★演出・テキスト・CG・音楽について

逢魔時を再現する為、緻密に計算され尽くした世界観である印象を持ちました。
これらは狂気に溢れた主人公の内面世界に一貫性をもたらしています。
なんていうか、作品の総合力で殴ってくるところは伝説と呼ばれる一端なのかもしれませんね。
ではそれぞれについて感じた事を。

【演出】
チャイムの音や移動場所が意図と異なる意味不明
な演出など、陰鬱で閉塞感のある世界に溶け合って、気味が悪いほど親和性がありました。
これ結構地味にホラーで、輪郭が朧げなものに恐怖するような感覚というか、暴く事自体が禁忌のような不気味さを感じます。


【テキスト】
繰り返される印象的なテキストや、あーこいつもうヤバいぞと思わせるゾッとするような台詞も秀逸。
そもそも何を考えてるのか理解困難な主人公。

ちょ、こいつはヤバい‥‥。

俯瞰して見ているからこそ感じる、彼の思考や行動の異常性を伝える文章はゾッとする恐ろしさがありました。


【ビジュアル】
CGは怖い。なんかオレンジが怖い・・・。
ちょっと可愛い雰囲気の絵柄が怖さに拍車をかけています。
スチル全体の色バランスがオレンジに傾倒して、簡潔に言えば気味が悪いです。ただこれが本作には大きくプラスに貢献していました。


【音楽】
音楽はこの不気味な世界観を構築するにあたり最大の貢献を果たしていました。
本作に漂う陰鬱で閉塞的な空気感は、音楽が支配していたと言っても過言ではないでしょう。
とにかくバチっとハマっているからこそ、滲み出る狂気がさらに深刻さを増していたように感じます。
これ、よく聴いてみれば旋律が美しい曲なんですよね。それが余計に奇妙なわけです。

さらに、エンディング曲「さよならを教えて -comment te dire adieu-」がプレイヤーに与えたインパクトは完璧だと思います。
もはやこの曲以外には考えられないほどの親和性で、強烈な勢いで脳に刻みつけられました。
真実が明らかになり、俯瞰で病院を眺める描写にエンディング曲のイントロが流れた瞬間鳥肌でした。絶望感が半端ない。
歌詞がまた意味深なんですよね。
お時間あればぜひ熟読していただければと思います。


★クリア後に思う事

さすがは三大電波ゲーと称されるだけあって、陰鬱で閉塞的な世界観が、ビジュアルノベルならではの要素を駆使して完成されていました。

逢魔時の色と「さよなら」の言葉。
企画・原作の長岡建蔵さんは、きっと深く人間の怖さを理解していて、且つ頭の切れる方なのではないでしょうか。
狂気に関しても広い見聞が垣間見えるような気がします。

テキストや選択肢、イベントCGは狂気に満ちていましたが、意外とメンタルは大丈夫でした。
頭が混乱はしましたが『最終試験くじら』や『素晴らしき日々』で頭パニックを経験していたので、なんとか俯瞰視する事が出来たのかもしれないです。
グロ表現に関しても『Chrono Box』などのスプラッター作品で耐性が付いていたので何とかなりました。

ただこれは自分が作品の本質まで触れられず、深い理解に至る事が出来なかったからかもしれません。
あと、プレイ時の自分の精神状態が正常なのも理由なのでしょう。どうしても自分の常識に当てはめて状況を見てしまう。でも、もし心に影がある状態であったなら、また別の感覚だったのかもしれないですね。

クリア後に振り返ってもなかなか捉え方が難しい作品でしたので、色々な方の考察を読み漁りましたが、いずれも考察の視点が鋭くて驚きました。
よくそこまで深ぼって考えるなと目から鱗な記事ばかりでしたので、物語の核心を知りたいだったり、理解を深めたい方はご覧になるのをオススメいたします。お陰で自分は理解を深める事が出来てありがたい限りでした。

考察の視点が鋭ければ鋭いほど、精神疾患の見識が深いか、ロジカルな思考に長けているか、もしくは心に何かしら疾患や闇をもっているかのいずれかな気がしました。
まぁ、恐らくほとんどの方がロジカルさからくる考察かと思いますが。
ただその場合は物語の理論になるので、主人公の思考を完全に理解に至るのはやはり困難なのかもしれませんね。
プレイ時の精神状態で狂気の受け取り方が変わると先に述べましたが、それでも主人公を理解するのは困難なんですよ。

では主人公を理解するにはいかがすればいいのか。
不謹慎に心の疾患や闇と言いましたが、まさにこれが必要だったのではと。

これは勝手な仮説ですが、真の意味で本作の狂気性を理解する事ってかなり危険な思考なのではないかと感じています。
だって、考えれば考えるほど頭が狂いますからね。
身もふたもない話しですが、結局は同じ目線に立たなければ理解出来ないような気がします。

結論として、主人公を理解し、物語を理解するには正常と異常の両視点が必要だったのではと思い至ったわけです。

つまり、無理ゲーですよ。

こう考えると改めてライターの方の創作力の凄さを実感しました。フィクションとしてよくこんな狂気を思いついたなと。
なんならリアリティすら感じますし。
もはや見識の広さだけでは理解が追いつかないです。
心理描写とか頭ヤバ過ぎますからね。

物語の結末は主人公は自らの妄想に呑み込まれ、症状が悪化し何も解決しないまま終わります。
どう考えてもバッドエンドです。
精神崩壊の表現に美しさは微塵もなく、淡々とリアルさのある絶望を見せつけられます。
そもそも散り際の美しさに期待するのは無粋ですかね。

もちろん救いなどは全くなく、意図的に後味の悪さを投げつけられたようにも感じます。
それが余計に気味が悪く、伝説の作品として語り継がれてきたのでしょう。
うん、やっぱり本質はよく分からなかった‥‥。


◾️最後にまとめ

本作を好きか嫌いかで問われたら答えに詰まってしまいます。正直言って「好き」とは違う感覚です。後味は悪いし、救いは無いし、主人公理解出来ないし。でも「嫌い」でもないんですよ。
うーん、モヤモヤします。

好みではないですが、それでもやっぱり面白かったし、満足感もあるという感想です。この先、忘れる事も出来ない作品であったのは間違いないでしょう。強烈なインパクトを残し過ぎ去って行く作品でした。
それに加えて、危険な作品に関心を持つきっかけにもなってしまいました。
もっとヤバいヤツ知りたいみたいな。

もしかしたら、クリア後に感じた謎の喪失感って常識という色眼鏡だったのかも‥‥。怖っ!

ビジュアルノベル史にここまでの怪作を解き放ってくれたクラフトワークの皆様、本作に関わった全ての方に感謝を。
そして、この考察も何もないただ垂れ流すだけの感想を読んでくださったあなたにも最大限の感謝を。
ありがとうございました。

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