COLD WAR/あの歌、2つの心

(パヴェウ・パヴリコフスキ監督 2018年 ポーランド、イギリス、フランス)

ここに居る続きとして「向こう側から見る」

パヴェウ・パヴリコフスキ監督の前作「イーダ」は、目的の映画が満席で観られず「仕方なく」観た作品だった。こういう作品は、当たりが多いものである。身寄りのない少女が、小さいが人生を決定づけるようなアイデンティティを獲得するロードムービー。抑圧のコントラストとしてのジャズ。客が去った後、誰にきかせるでもなく演奏されるコルトレーンのNaimaが素敵だった。

前作同様、説明を極力排除した簡潔さ。場面転換した直後の風貌や環境で状況を示す手法は、観客への信頼を感じる。タイトルの通り、時代は第二次大戦の終結後。一組の男女は、ポーランド、東ドイツ、西ドイツ、フランス、ユーゴスラビアへとそれぞれ去っては追う。立場や状況は変わり続けるが、二人のパッションと歌(オーヨーヨイ)は密かに揺るぎなく貫かれる。本当に愛する人を助けるために別の人と結婚し、本当に心を傾けるべき音楽のためならピアノが弾けなくなっても信を曲げない。

不倫の末に二人で死ぬ性描写だけの邦画があったが、それとは何もかもが違う説得力を持った解放。「イーダ」では、窓からあっけなく飛び降りるシーンがあった。今作のエンディングも、何も特別なことではなくここに居る続きとして「向こう側から見る」ことが描かれる。それだけ亡失が日常に含まれている時代と場所であったこと、そしていつだってどこだってそういう局面に陥る危うさがあることを、パヴリコフスキはささやく。モノクロによる時代感のなさは、そういう意図を感じさせる。

(安田寿之)

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