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国境廃止<第一章> 第二話 「はじまりの星空」

暗闇の中、私は私を嫌っている。
私のやってること、思ってること。矛盾している。全部空回りしているんじゃないか。
人と関わるのが嫌いなくせに、関係を大事にしたい?
こういうのを自意識過剰っていうんだろう。
私は孤独だ。
こんな悩みを話せる人もいない。話せる人がいないから、環境のせいで、人のせいで、私はこんなことになってしまったんだと、
今はそう、信じたかった。

「はっ」
目が覚めた。私はベッドに寝ている?なんで?全部夢?そんなことあるはずないだろう。「α地点」について書かれたメモはすぐそばにある。夢であって欲しかったけど、そんなこと言ってられない。
「お父さんなら…なんでも解決してくれるから……」
この言葉の意味が知りたかった。
少なくともお父さんは、そしてお母さんは、何かを知っている。第三次世界大戦に関わる何かを…。
まず、ここがどこかわからないと話にならない。
今私がいる場所は、家の一室だろうか。真っ白な部屋。ずっとみていると、自分がどこにいるのかわからなくなる気がする。それはそれで居心地がよさそう。
私がいる場所は、真っ白な部屋に、ベッドと机があるだけの、無機質な部屋だった。
なんだか、さらわれて監禁されたみたいだ。
ガチャッと音が鳴り、壁が動いた。いや、ドアが開いた。
「起きたか」
そこから出てきたのは、私と同い年くらいの男の子だった。髪の毛は真っ黒で、キリッとした瞳を持っている。顔立ちが整っている。こう言う人をイケメンと呼ぶのだろう。
「貴方、誰?なんで私はここにいるの?」
「俺は世界だ。お前が倒れてたのを介抱したんだよ」
そう言うと世界は、私の頭を小突いた。
「ちょっと、何して…」
「俺を怪しむ前にまず礼を言え」
「あ、ありがとう…」
なんだろう、この人、なんか不思議な雰囲気を持っている。調子が狂う感じがするのに、一緒にいるだけで心地いい。
「ところで、ここ…どこなの?」
「どこ、って言うのは、『どの地点か』って言う話してる?それだったらここは『J地点』。『J-28地点』だ。今標的になっている『J-17』からは結構離れたはずだ。ただ、こ『J地点』はほぼ壊滅状態。世界大戦って言うだけあって、兵器の威力が半端じゃねえ」
「ここも崩壊してるんだよね?じゃあ今私たちがいる建物はなんでキズ一つないの?」
「ああ、それなら作った、、、
「…え?」
世界は何食わぬ顔で、ぶっ飛んだことを言っている。
「ああそうだ、ところで聞きたいことがある」
世界は机に置いてあるメモをとった。

『国子へ
  お父さんはα地点にいる。
  何かあったらここに来なさい。
  お父さんならなんでもできるからな。
                お父さんより』

「このメモは、お前の父親の書いたもので間違いないな?」
「そう。このアルファ地点?って言うのが気になるけど…。『地点』って、全部アルファベットになってるんだよね?オーストラリアでも『A2-1』みたいにさ」
「そう。だから、『α地点』って言うのは存在しない。はずだ」
「変だよね…こんな『地点』、あるのかな…?」
「ただ、『α』が何を表すかはわかる」
「え!?ほんとに!?」
「αっていうのは、『はじまり』を意味する。『はじまりの地点』…。第三次世界大戦のことも踏まえると、何か意味があるのは間違い無いんだろうな…」
「私のお父さん…何者なんだろう…」
「…それで、お前は---」
「国子。そろそろ名前で呼んで」
「…国子は、『α地点』に向かうつもりなんだな?」
「もちろん。いろいろ知りたいしね」
「…ところで国子、自分が何日眠ってたかわかるか?」
「え?」
「『J-28地点』まで運ぶのにどれだけ時間かかったと思ってるんだ?一週間は眠ってたぞ」
「ええっ!?」
「その一週間の中で、大きな出来事が起きた。『能力者』だ」
「能力者?」
「ああ。人間では信じられないような力を持った『能力者』たちが、ウイルスをばら撒いた」
「『能力者』って何者なの?ていうかウイルスってなんなの?」
「『能力者』の実態はまだよくわからない。ウイルスというのは、能力を目覚めさせる薬のようなもんだ」
「薬…!?」
「そう。俺もよくわからないが、適性を持った人間は、そのウイルスによって、ある種の能力に目覚めるらしい」
「世界は?能力持ったの?」
「ああ。ショボいもんだけどな。…さっき、この家を作ったって言ったよな。それが俺の能力。『欲しいものを作れる』」
「へえ、そんなにショボくは無いように聞こえるけどなあ…」
「ショボいもんだよ。『欲しいもの』って言っても、なんでも作れるわけじゃ無い。よりによって『武器』が作れないんだからな…」
「武器?なんで武器なんか…」
「これはさっきの話の続きなんだが、『能力』というのは、基本『戦闘向き』なんだ。ウイルスをばら撒いた奴らの目的はわからないが、よほど俺たちに戦って欲しかったみたいだ。手からマシンガンがでるような奴、火を吹ける奴なんかもいる。そんな能力を手に入れた奴らが集まるとどうなるか…。能力を使いたがり、戦いが起きる。
もちろん、ただ能力を使って遊んでたわけじゃない。基本は物資…貴重になった食料やら水やらを奪うために能力が使われるようになった。
能力は人それぞれ違う。それに当たり外れもある。俺は外れに当たった訳だ。戦いに巻き込まれたら一発で死ぬ。
…でも、ここからが興味深いんだ。
ウイルスに感染したものの中には、『能力者』の他に、『例外』がいる。そいつらは『ココロ』と呼ばれている。
どうやらなんらかの適性があるらしく、『能力者』の適性、『ココロ』の適性、そのどちらも併せ持つ人間が、『ココロ』となれる。
『ココロ』になった人間には、『声』が聞こえるらしい。自分にだけは聞こえて、他の人には聞こえない『声』。幻聴みたいなもんだな。
『ココロ』は『能力者』にも勝る、強大な力を持っており、『最強の兵士』なんて呼ばれてるらしい。バカな『能力者』どもが、仲間に引き入れようとしているんだろうな。
ただ、今まで『ココロ』は一人しか確認されていない。
そいつは高市っていう奴らしいが、あまり人前に姿は見せない。
俺が知ってるのはここまでかな」
「へえ…」
世界の知っている莫大な情報の波に溺れかける。
「世界、詳しいんだね」
「まあな。こういうこと調べるの好きだし、知り合いに情報屋的な奴がいるからな。
それより、もう結構暗い。ゆっくり休んどけ」
「待って」
自分の部屋に戻ろうとする世界を引き留める。ただちょっと、話したいことがあったから。
「ここってさ、『J-28地点』って事はさ、綺麗な星空が見えるので有名だったよね」
『J-28地点』---元富山県は、夜になると星空が見れることで有名だった。
「ちょっと、一緒に見ない?…話したいことがあるんだけど…」
「…まあ、いいよ」
そういうと世界はどこからか梯子を持ってきて、天井に登った。
「それなら、特等席があるんだよ」
「…屋根の上?」
「当たり」
世界は白い天井を開けた。
「屋根裏部屋から行くぞ。登ってこい」

空には、絶景が広がっていた。
金平糖をこぼしたようなキラキラとした星空。手が届きそうで、届かない。天の川ができたみたいで、織姫と彦星を思い浮かべてしまいそうだ。
「綺麗だね…」
「そうだな…」
世界と並んで星空を見ていると、悩みなんかどこかに行ってしまう気がした。私は孤独じゃないと感じることができた。世界がどう思っていようが、私は独りじゃないと思うことができた。
この人といたら、自分を嫌わなくて済む気がして。
この人といたら、自分を変える決意ができた。
私が成長できる気がした。


そして同時に、『この気持ち』は墓場まで隠し通そうと決めた。

二人で眺める、私の人生の「はじまりの夜空」は、今まできた景色の何よりも、綺麗ではかないものだった。

第一章 「プロローグ」 完。


第一章 「捜索編」 開幕。



To be continued…

参考↓
漫画
「約束のネバーランド」集英社 白井カイウ 出水ぽすか
「セキセイインコ」講談社 和久井健
小説
「さよならの言い方なんて知らない。」新潮社 河野裕
この小説は、以上の作品から影響を受けています。

そしてさらに、第二話では、Wikipediaの情報も参考にさせていただいています。

A(アルファ)-Wikipedia↓
https://ja.wikipedia.org/wiki/%CE%91

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