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国境廃止<第一章> 第四話 「おわりのはじまり」

うん、そうだよね…
多分、そういうことなんだろうな。
私が二人目の、「ココロ」になっちゃったんだろうな…
『そうだよ』
ほら、やっぱり。この頭の奥から聞こえる、ボイスチェンジャーを使っているような、甲高い、ロボットみたいな声。
『お前、死にたいのか?』
ロボットは私に問う。
「なんで、そんなこと聞くの?」
『さあな、俺が知りたいからじゃないか?』
「死にたいかどうか、か…私にもわかんないよ」
『ほう』
「私が死んでも死ななくても、この地球はおんなじようにただ廻ってるだけじゃないかな?」
『お前なんか、死んでも死ななくても同じだ、とでも言いたいのか?』
「そうなのかもね」
『チッ、ナルシストが』
何故だかクスッと笑えた。
「何よそれ」
『お前にゃまだ死んで欲しくはねえんだよ』
「じゃあ最初からそういえばいいじゃない」
『テストみたいなもんだよ。「ココロ」の適性検査』
「へえ。…それで、私はどうなの?合格?」
『…さあな。まあ、面白え答えが聞けた』
「何、結局どうなのよ」
合格、ってことにしてやるよ

「はっ」
え?なんだったの今の?「ココロ」、だよね?
「ていうか、これ、どういうこと?」
私、突き落とされたはずだよね。まあ、二階建の家の屋根の上だし、運良ければ死にはしないだろうけど、怪我ひとつないなんて、ありえないでしょ…。

「はっ、『α地点』。皮肉だな。はじまり…『おわりのはじまり』の地点…ってか」
高市は、一仕事終えたとでもいうように、手をぱっぱっと払う。
「あそこに行ったら、俺みたいなイカれた人間になっちまうじゃねえか」
彼の瞳は、心なしか悲しそうに、どこか遠くを見つめていた。

世界は部屋にいた。彼の姿は、怯えたネズミのようで、部屋の恥の方で、布団をかぶって体を震わせている。
「あいつら…『S』のやつらのせいで、俺の人生は、狂っていったんだ……」

この、「J-28地点」のとある場所で、淡々と、「おわり」が「はじまって」いたことが分かるのは、そう遠くない未来のこと---。

「ココロ」…「ココロ」って一体なんなの…?
『文字通り、お前の「ココロ」だ。まあ、「ココロ」の中に住んでいる「魔物」と言っても過言ではないかもな…』
あ、私が喋らなくても聞こえるんだ。
『そりゃそうだろう。俺の声はお前以外には聞こえないんだ。お前が口に出して喋らなきゃいけないなら、お前は独り言をぶつぶつ言ってる変人になるぞ』
「あはは…」
弱々しい笑い声が漏れる。なんだか、言葉も文化も知らない国に投げ出されたみたいで、途方に暮れるような気持ちだ。
あなたは、なんで私の心の中に住んでるの?
『さあな』
本当そればっかりね。何も要領を得ない。
私は「ココロ」と話すのをやめた。
それより、世界はどうなってるんだろ?私を突き落とした人は?…まあ自然に考えると高市さんだわな。でも、なんで私を殺そうとしたんだろう?
『俺を目覚めさせるためじゃないか?』
「うわっ!急に話しかけないでよ。…目覚めさせるって、どういうこと?」
『「ココロ」が目覚めるには、条件ってもんがあるんだよ。まあ、人によって色々違うが、基本は、「痛み」を受けた時』
「痛み?突き落とされた時みたいな?」
『まあ、そんな感じだ。つまり、こう、なんていうかな…強い衝撃を受けて発生した痛み?みたいなもんだな。それが基本だ』
「なるほど、じゃあ私がそれっていうわけだ」
『ああ。噂によると、衝撃を受けることで心が分裂して、「ココロ」が生まれるらしいぜ。俺はそんなばかばかしい話、信じてないけどな』
「…私が突き落とされたのは『ココロ』を目覚めさせるためだってことは分かったけど、それが突き落としたやつに必要なことだったってわけ?」
『突き落としたやつは高市で間違いない。帰っていく奴の後ろ姿が見えた』
「後ろ姿でわかるもんなの?その人の顔も知らないくせに」
『お前の記憶が俺にバーって流れ込んでくるんだよ。本当大変なんだからな、記憶が流れてくる時!』
「はいはい。分かった分かった」
『まあ、俺はお前の記憶しか持ってきてないから、なんで高市にとってお前に「ココロ」が生まれることが必要なのかなんてことはわかんねえ。探るなら自分で探れよ』
「言われなくてもするつもり。もしかしたら高市さんが人殺しって呼ばれてた理由もわかるかも」
『そうかもな』
「ココロ」はあの甲高い声で笑った。悪魔の笑い声のようだった。

「殺さなきゃ…『S』のやつらは抹殺………『S』のヤツラハマッサツ…」
世界は何かに洗脳されたような目をしている。世界は木の棒を作り出した。
「これで殴れば殺せる……使命を果たせる………オトウサン、ミテテ………
世界はふらふらとした足取りで部屋を出る。
「高市、どこだ…抹殺…マッサツ…!」
「はっ、やっぱりな」
廊下からひょっこりと出てくる高市。
「高市…!」
「北原家の末裔が…!お前のせいで俺の人生は…!!」
「ウルサイ!それは俺もおんなじだ!お前ら『S』のせいで!!俺の人生は…!」
「因縁対決ってわけだな。そんな武器で、俺に敵うと思うなよ」
「ウガァ!!」
獣のように釣り上がった目をした世界は、木の棒を振り上げ高市との距離を詰める。高市は振り下ろされた木の棒を止め、世界のみぞおちに蹴りを喰らわせる。
「うっ…」
世界がよろける。高市はその一瞬の隙を見逃さず、次の攻撃にかかる。世界の脳天に蹴り。倒れた世界に一発。
「抹殺!抹殺!!」
「やってみろ!!」世界は殴られながら、先の尖った木の棒を作った。
「この能力も結構戦闘には使えるな」
世界は上に乗りかかる高市の背中に木の棒を突き刺した。
ずぶっ。
「ぅあっ…」
高市は声にならない悲鳴を漏らす。背中から温かい血が流れる。
「チッ、厄介だな、北原の野郎…」
「抹殺だ…憎き『S』のヤロウ…!!!」
ウガアッッッッ!その咆哮とともに、世界の全身の毛が逆立つ。
「ハッ、獣だな、北原世界」
「ソノナヲヨブナッ!『S』ハマッサツ!!」
世界は高市に跳びかかる。と同時にもう一本の木の棒。もちろん先は尖っている。高市も跳んだ。高市は拳を振りかぶった-----。

グシャッ!!

うああああああああああああああああああ!!!

その悲鳴は、外にいる私にも届いていた。
「何、今の」
『行くか?』
「…行くでしょ」
私は家の中に入り、階段を駆け上る。
「世界、高市さん、何が------」


階段を登ったその場所では、血塗れになった高市さんと、高市さんの血がついた木の棒を持った獣のような世界がいた-----。

確実に、「おわり」は「はじまって」いた。

To be continued…


参考↓
漫画
「約束のネバーランド」集英社 白井カイウ 出水ぽすか
「セキセイインコ」講談社 和久井健
小説
「さよならの言い方なんて知らない。」新潮社 河野裕
この小説は、以上の作品から影響を受けています。

今回は特に、「さよならの言い方なんて知らない。」から戦闘描写は影響を受けましたね。まあ僕じゃ到底届かない文章力ですが。

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