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将棋日本シリーズJTプロ公式戦 2022年度北陸・信越大会観戦レポ

プロの将棋棋士の対局を生で観戦して触れ合える。それは地方在住者にとっては滅多にない機会で、それだけで心が弾む。今年もJTプロ公式戦は全国11都市で開催が決定し、一昨年、昨年とプロは無観客、こども大会は開催見送りだった北陸・信越大会も3年ぶりに有観客で開催の運びとなった。

会場の石川県産業展示館3号館は自宅から近い。当選のメールを何十回も確認し、この日のためにと機種変更したばかりのiPhone13を握りしめて愛車を走らせた。会場近くの石川県立野球場では夏の甲子園石川県予選の真っ最中で、ウグイス嬢のアナウンスが聞こえてくる。

昨年私は準決勝大阪大会を丸善インテックアリーナで観戦することができたが、2階席だったので勝利棋士お見送りの時以外は先生方のおられるステージまでは直線距離で3〜40mは離れていた。
今回、100番台の整理番号で番号順に入場したところ、運よく端のほうではあるものの最前列に座ることができた。将棋でいえば2一桂の位置だ。ここがかなりの良席だと後から気づくことになる。私の序盤戦術には運が味方してくれた。

会場には豊島将之JT杯覇者とこども大会大阪大会優勝者のメインビジュアルが大きなスクリーンで飾られ、コシノツヨシ君も愛嬌たっぷりでポーズを決めて迎えてくれる。出場12棋士の揮毫入り扇子や今日のお楽しみ抽選会の目玉である直筆揮毫将棋盤が展示されている。
さながらここは将棋のテーマパークなのかもしれない。対局開始までにテンションがどんどん上がる素敵な演出が嬉しい。

出場十二棋士の揮毫扇子
対局棋士による直筆サイン入り将棋盤
冷凍さぬきうどんのキャラクター「コシノツヨシ」君

対局者がステージに登壇され、今日の対局にかける意気込みなどについてご挨拶をされた後、本日の対局を進行する解説陣3名でのトークショーが始まった。
解説は深浦康市九段、聞き手は安食総子女流初段、読み上げは高浜愛子女流1級の3人で、対局者やご自身の近況などについて話してくださった。

高浜先生は同じ関西出身の斎藤慎太郎八段を子どもの頃からよく知っていて、将棋連盟のバドミントン部で一緒だったそうだ。腕前はどうだったんですかと深浦先生が尋ねると、羽根が落ちた後にラケットを振っておられた(?!)とのことで、会場は笑いに包まれた。はんなりと上品にバドミントンを楽しむ斎藤先生の姿が目に浮かぶ。優雅で平安時代のようですね、と深浦先生も微笑んでおられた。

深浦先生は主催の北國新聞の紙面で、「地球代表が解説」と書かれていたそうだ。将棋ファン以外もご覧になる紙面での紹介のされかたは、深浦先生のキャッチフレーズの浸透ぶりを感じさせる面白エピソードだった。
安食先生からABEMAトーナメントにチーム豊島で参戦されていますね、と話題を振られ、豊島九段はご自身も忙しいのに、フィッシャールールに慣れようと深浦先生や丸山先生に連絡してくださるそうで、本当にすごいことです、と感心しておられた。

安食女流初段・深浦九段・高浜女流一級

トークショーの後はこども大会の決勝戦が行われた。低学年の子どもたちの袴姿は、七五三のようで本当に愛らしく、登場と同時に観客から歓声が上がる。慣れない草履にちょこちょこと歩き方まで可愛らしいのだが、将棋はしっかりと本格派。この子どもたちが10年後の将棋界を席巻するのだろう。最初に見たよといつか自慢できるようになれば嬉しい。
高学年の決勝戦も見応えのある試合運びだ。勝負を決定付ける一手に7一銀を放ったのをみて、深浦先生が羽生先生を彷彿とさせますね、と感心しておられた。子どもたちの伸び伸びとした指し回しに清々しい気持ちでいっぱいになった。

そして本日のメインイベント、プロ公式戦の対局開始がいよいよ近づいてきた。振り駒の大役には観客の中から抽選で選ばれた藤井さん。お名前を聞いて会場が沸いたことは言うまでもない。

木村九段の振り歩先で、と金が3枚出て斎藤八段の先手となった。棋士の和服姿は本当にオーラを感じて、何度見ても素敵だと感じる。私の座席からは斎藤先生の表情しか伺えなかったのだが、盤を前にキリリと引き締まり、相対する木村先生の背中からも強い集中を感じることができた。

対局開始を待つ斎藤慎太郎八段

ここで私の座席(2一桂)は、大盤に向かって右側の立ち位置となる解説者から実は1番近いということに気づいた。深浦先生はTVで見るよりもずっとスマートで姿勢が本当に美しい。私は深浦先生の真っ直ぐで綺麗な立ち姿を眺めながら、かぶりつきの最前列で解説をして頂けるという至福の時間を過ごすことができた。

解説の深浦康市九段

角換わりの定跡系の序盤から互角の戦いが続く。斎藤先生の猛攻を凌いだ木村先生が攻めに転じたところでペースを掴みかけるも、難解で一手でも間違えると形勢が入れ替わる将棋が展開され、最後は斎藤先生が寄せ切る形で勝利された。
木村先生も要所要所で流石の指し回し。初心者の私は目を白黒させながら先生方の緻密な作戦に感心しきりだった。

対局後、大盤前で深浦先生を交えての感想戦では、あの局面から、というと瞬時に盤面を戻す大盤操作担当の三段の先生方お二人を、すぐに戻せるよねと深浦先生が褒めておられた。これだけ高い記憶力を持つ先生方がプロを目指して戦っている奨励会のレベルのケタ違いさをを肌で感じることができた。

木村先生は、ご自身が形勢を損ねた手を瞬時に仰りそこから検討を開始された。そんな風に対局後すぐに感想戦で振り返って分析できるところが将棋棋士の冷静で尊敬できる部分だ。
自分なら負けたり失敗してしまったりした時には、悔しくて振り返ることもしない。
プロ棋士の先生方の切り替えと向上心の素晴らしさを少しは見習うべきかもしれない。

感想戦での木村一基九段

斎藤先生の勝利棋士お見送りには、満員御礼で200人以上はいたと思われる観客のほとんどが並んでいて、会場一周ぐるりと長蛇の列になっていた。同じフロアに立っておられる姿を拝見して、改めて二次元の世界から抜け出してこられたようなかただと感じる。

和服姿は涼やかで、マスク越しにでも感じる満面の笑みが魅力を際立たせている。先生の前で立ち止まることは迷惑になるので、通過する2、3秒が私に与えらえた時間だ。

応援してます、とお声がけしたところ、笑顔のアイコンタクトでガッツポーズを作ってくださった。私もつられて笑顔でガッツポーズを返した。
4月に行われた名人戦金沢対局では対局者が大盤解説会の会場へいらっしゃることはなく、お目にかかれないまま帰ったので、その時に感じた一抹の寂しさが溶けていくような素敵な笑顔だった。

勝利棋士お見送りでの斎藤慎太郎八段

斎藤先生も最後の挨拶で仰っておられたが、このテーブルマークこども大会への参加がきっかけでプロ棋士がかっこいいと感じてプロを目指すようになったそうだ。AbemaTVで将棋を身近に感じる機会は増えたものの、この大会からは斎藤先生はじめ藤井聡太先生など多くのプロの先生が輩出され、その影響力と功績はとても大きい。

私のように初心者観る将にも優しく、イベント初参戦でも気後れすることなく「好きな将棋を、好きなように、好きなだけ」楽しめる、将棋ファンにとって本当に素敵な大会だ。
残りの大会・対局が無事開催されるのはもちろんのこと、来年以降もずっと開催されるようにと心から祈りたい。そして今年も幸せな時間と空間を提供してくださった関係者全てのかたに感謝をお伝えしたい。

今大会メインビジュアル

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