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「ピアニッシモ」って覚えてる?12年振りに復活する舞台裏に直撃!!


こんにちは、シャー研部員の藤村です。

”商品企画”って言葉、かっこいいですよね。
何やら大人たちが集まってヒソヒソと会議して、時には熱い議論を交わして、そして歴史に名を残すようなヒット作を生み出す…私は、そんな企画の現場を探ってみたい。

ということで、ぺんてる社内を探ってみると、かつての超人気シャープペン「ピアニッシモ」が来たる2020年8月21日に「限定復刻 ピアニッシモ」として出荷されるという情報をキャッチ!

ピアニッシモ…
ふむふむ、見覚えがあるぞ…!

確かちょうど小学生の時、自分の中で文具ブームが到来していたときに、友達のミオちゃんの筆箱に入っていました。当時流行っていたスケルトン素材で、ペンのサイドをカチカチっと押すだけでシャープペンの芯が軽やかに出てくるアレです。

懐かしいなぁ。

一世を風靡した伝説のシャープペン、企画当時のお話も交えて、ぺんてるの商品企画の裏側を聞いてみたい。ということで、まずはピアニッシモの企画担当者4名を招集。

オリジナルチーム 商品企画部長 高垣さん/プロダクトデザイナー 清水さん
復刻版&新デザインチーム マーケティング部/プロダクトデザイナー 梅谷さん

ちなみにオリジナルチームというのは、ぺんてるが1996年に発売したサイドノック式のシャープペン「ピアニッシモ」の企画に携わったベテラン男性社員2名。

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▲左:高垣さん、右:清水さん


かたや復刻版を含む新デザインチームというのは、皆さんお気づきの通り…!2020年8月21日に出荷されることとなった新デザインの企画担当者である女性社員2名です。

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▲左:梅谷さん、右:飯塚さん

…って、

なんだか新旧対決っぽいぞ。

もしかすると新旧担当者が、舌戦繰り広げる現場になるのでは…とヒヤヒヤですが、まずはインタビューの前にピアニッシモの基礎知識をご紹介。
なぜに伝説のシャープペンと呼ばれるまでになったかを、簡単にご説明しましょう!


発売1年で800万本を売り上げた、伝説的ヒットシャープペン「ピアニッシモ」ってなんだ!?


ぺんてるが1996年に発売したシャープペン ピアニッシモ。その最大の特徴は、いちいち持ちかえることなく芯が出せるサイドノックと呼ばれる方式です。

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▲ピアニッシモのチラシ

シャープペンの後端部分のボタンをカチカチと押して芯を繰り出す一般的なシャープペンが主流だった当時、この方式は画期的…!
国内において初年度800万本を売りあげるという、オバケシャープペンとなったのです。

ちなみに発売当時の大学生の人数はざっくり250万人強。
シャープペンを多用する(であろう)大学生の人数をはるかに上回ることからも、その凄さが伝わります…

また、廃盤品のピアニッシモは某フリマアプリでやり取りをされるなど、いまでも復刻を望むコアなファンが多い稀有な文房具といえるのかもしれません。

ということで、ここからようやくインタビュー。
まずは当時の企画担当者である高垣さんとデザイン担当者である清水さんに、この商品が生まれた経緯を聞いてみました。

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―「初代ピアニッシモ」企画の経緯をおしえてください。

高垣:サイドノックは手が大きい海外の人向けに開発されていた商品で、海外ではウケがよかったんです。それを「日本でも売れないか?」となったのが、ピアニッシモ企画の発端です。ただ当時のサイドノックは構造的にノックが重くて…。触って比べるとわかりますよ。

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―おっ、硬い!しっかり力がいりますね。

高垣:そうなんです。そのためぺんてるでは内部部品の構造を変えて、当初の1/2の力でノックできる国内向けのサイドノックを開発しました。ただ、当時はそれでも「シャープペン=後端ノック」のイメージ。展示会でも皆さんついつい後端を押してしまうなど、サイドノック自体を定着させることが難しかったんです。

―なぜぺんてるは、国内向けのサイドノックにあえて挑戦したのですか?

高垣:当時は値段が高いシャープペンが、あまり売れなかったんです。ちょうど景気が影を落としている時代だったため、100円シャープペンが主流になって。そのような時代において、200円という低価格でどういう付加価値をつけたら売れるのかと考えたときに、サイドノックを利用したわけです。当時は国内ではどこもサイドノックを作ってなかったですしね。

―他との差別化を図るために、サイドノックに白羽の矢が立った…と。

高垣:白羽の矢…ね(苦笑)。実はピアニッシモが発売されるちょうど前に「ハイブリッドミルキー」というボールペンがぺんてるから発売されていて、ものすごい売れ行きだったんですよ。その次がピアニッシモの発売だと言われ、正直ものすごいプレッシャーでしたね。

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―ぺんてるは次に何を出すんだ⁉︎みたいな期待が高まりますよね。

高垣:そのときのプレッシャーは痛烈に覚えています(笑)。

清水:サイドノックというコンセプトが固まったところで、次はカラーリングをどうするかという話になって。ただ、まだ海外製品のイメージに引っ張られていたため、キャップも不透明で色も事務用っぽい感じのプロトタイプをつくったところ、高垣に「全然ダメだ!」と思いっきりダメ出しされて。

高垣:売れるイメージが全くなくて、思いっきりダメ出ししました。ターゲットは学生なのに、これは買わないでしょうと。

清水:結構気を使って、ウォームグレーの無彩色に加え、黒・赤・青の彩度を抑えた色でプロトタイプをつくったのですが、企画の担当者に「おばあちゃん色」と言われ…(笑)。

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▲お蔵入りとなった「おばあちゃんカラー」のデザイン

高垣:そこで次は、キャップもノックも透明にしてほしいとリクエストを出しました。ただ、ノックのところは材質的に透明にできない材料を使用する設計でした。だからそこは折れたものの、キャップだけは絶対に透明にしようと。そうしないと軸との一体感がなくなってしまうので、ここは譲れなかったです。

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▲実は「ピアニッシモ」以前にも発売されていたサイドノック式シャープペン。ぺんてるのサイドノック式シャープペンの歴史は意外と長いのです。

清水:当初キャップの色味は薄い色を希望されていたため、試作品2号はその点も改良しました。デザイナーとしては消しゴムがばっちり見えてしまうのが違和感があったのでギリギリの色合いにしたところ、まだ色味が濃いと言われ…。
しかし、ノックに関しては、全体が透明な中に不透明の色がある方が、いい意味で違和感が出るのでいいなとは思っていました。

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―ネーミングは企画当初からピアニッシモだったのですか?

高垣:当初は「ライトクイック」というネーミングだったんですよ。
ピアニッシモというネーミングは、音楽記号の “きわめて弱く”という意味を、ノックの軽さに見立てて決めたんです。あと、当時同名の細いタバコがあったので耳馴染みもあるし良いのでは…と、当時の本部長が決めたんです(笑)。

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▲当時流行のスケルトンカラーに遊び心あるカラーバリエーション

―発売当初から反応はよかったですか?

清水:当時はテレビの影響がすごいですよね。テレビCMを打つとお店は置いてくれるし、女子中高生の購買意欲も高い時代ですから。
ただオレンジ色だけは売れ行きが悪く、1年経たず製造中止になってしまいました…。シャープペンは無難な色が売れる傾向にあるんですよ。

高垣:そこでオレンジ色を販売中止にする際に一工夫したんです。雑誌に「オレンジ色は製造中止!」という広告を打ったんですよ。そしたらオレンジがすごい売れて…!
あとは雑誌イベント時に雑誌名を入れてオレンジ色を配ったら、ものの見事に在庫がなくなり、替わりに緑色を追加しました。

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▲発売1年で販売中止となった幻のオレンジのピアニッシモ


―そんな爆発的に売れたピアニッシモですが、2008年に廃盤になっていますよね。この背景には何があったのでしょうか?

高垣:その頃から少し価格の高い500円以上のシャープペンが売れ出してきたのと、デザイン面ではなく、グリップ付きなど機能面を訴える商品が増えてきたところもあると思います。
シャープペンってメカじゃないですか。そういう機能面を求める人たちが出てきたんですよね。ただ僕は、社内で「なんでやめるの?」って文句を言いましたよ(笑)。

清水:カタログからピアニッシモがなくなったときは、寂しい気持ちになりましたね…。

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1本200円。子どものお小遣いでも買える手頃なシャープペンですが、その1本には大人たちのアイデアや苦労がギュギュッと詰まっていることを、改めて痛感。
学生時代はお気に入りの1本を大切に扱っていましたが、いまやうっかりペンを失くしたとしても「また買えばいいか」となっている自分を猛省…

そして今回のインタビューで得たもうひとつの収穫は、
ピアニッシモのネーミングのヒントは、まさかのタバコ!!!
という雑学が増えたこと。

学生とタバコという決して相容れてはならない両者の出逢いが、爆発的ヒット商品を生み出したとは、誰も知る由がありません…


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懐かしくて新しい「ピアニッシモ」が、この夏リバイバル!


惜しまれつつも2008年に引退したピアニッシモですが、2020年8月21日に限定復刻版として蘇ることが決定!
SNSで話題になることが売れ行きを左右する現代において、復刻版&新デザインチームに企画とデザインの経緯、そしてマーケティング戦略について聞いてみました。


―廃盤から12年経っての復刻ですよね。

飯塚:はい。発売から12年で廃盤になり、廃盤から12年で復刻することとなりました。ピアニッシモは子年に何かが起こります(笑)。

―なぜ2020年のいま、復刻なのでしょうか?

飯塚:2020年がぺんてるがノック式シャープペンシルを生み出して60周年のため、周年的な製品を出したいと思っていました。ニュース性がある製品を復刻すれば、シャープペン好きな方はもちろん、いまシャープペンから離れているお客様が再び注目してくれるのではと思ったんです。
ピアニッシモは長きに渡って復刻が求められていた商品ですし、後端ノックだけでなく、サイドなど色々なノック方式があるという「ノックの多様性」を知ってほしいという思いも込めました。

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また、どうしても大学生や社会人になると、シャープペンから離れてしまう人が多いですよね。この60周年の復刻版ピアニッシモをきっかけに、もう一度大人にもシャープペンのよさを知ってもらいたいです。

―気軽に懐かしさを味わってもらいたいと。

飯塚:懐かしいといえば、先ほど話に出た「ハイブリッド ミルキー」も2019年に復刻しているんですよ。SNSでも話題になったりニュースになったりしたため、オリジナルチームのときと同じプレッシャーが(笑)。いまの若い世代にとってサイドノックってどうなんだろうと。現役の学生さんに「新しい」と感じてもらえるか、見極めたい部分もあります。

―復刻版と新デザインの大きな特徴をおしえてください。

飯塚:当初よりオリジナルをそのまま復刻しようと決めていて。かねてからオレンジ色は売れていないという印象があったため(笑)、最初からオレンジ色を除く4色と決めていました。
ただ、それだとオリジナルを知っている人しか買ってくれないのでは…ということで、いまどきの学生にも受け入れられるような4色を追加して、計8色にしました。

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梅谷:デザインは、オリジナルのピアニッシモが会社に全く残っていなかったため、そこを探すところから始まりました。昔のカタログが頼りでしたね。

―新デザインの4色はどのように生まれましたか?

梅谷:オリジナルを忠実に復刻することは決めていたため、それなら新デザイン4本は90年代をコンセプトにしようと。ちょうどいま、中高校生の間で90年代のカルチャーが流行っているんですよね。当時流行したハイテクスニーカーや大胆な配色のジャケットなどをベースに、いまの学生にも受け入れられるデザインを文房具に落とし込んでいきました。

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▲2020年8月に発売される「限定復刻 ピアニッシモ」チラシ

飯塚:単にいまどきの学生に受け入れられるデザインにすると、復刻版4色との相性が悪くなっちゃうんですよね。デザインに90年代という傘になるテーマを設けることで、並んだときにチグハグにならず、なんなら当時使っていた世代が「懐かしいのに新しい!」と、どちらも手に取りたくなるようなところも狙いました。


―今回のプロジェクトのなかで、ここは辛かった…というところはどこですか?

梅谷:企画スケジュールがパツパツで。当初は2021年の 2月発売予定だったものが、2020年8月発売と大幅に前倒しになり…。そのためデザインは話をもらってから3日しかラフ案を検討する時間がなかったんですよ。通常は1〜2週間はかけるため、このスケジュールはなかなかでしたね。

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―たったの3日!!!

梅谷:そうなんです(笑)。全体を通したデザイナーのスケジュールは通常3ヶ月ですが、それが今回は1ヶ月くらいで…。2月中旬からスタートして、デザインが決まったのが3月中旬。しかも2月は29日までしかない!他の仕事も抱えているなか、スッとこの案件が入ってきました(笑)。

飯塚:デザイン担当の梅谷さんともあまり会う時間もなかったため、web上の画像収集サービスでお互いイメージを共有したりしました。そのままグラフィックデザイナーにも共有することができてよかったです。
また時間がないなか、梅谷さんが私のやりたいコンセプトをきちんと立ち止まって考えてくれたため、世に出して恥ずかしくないものをつくれたなと。まぁ、立ち止まるといっても半日くらいですが(笑)。

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▲新旧並ぶと、確かに新デザインは懐かしいようでいて、どこか新しさを感じます。

高垣:でもね、余計なことを考える時間がなく、一気にやりきったほうが売れたりするんですよ。僕らが若いときはいつも一気でした(笑)。


―デザイン面はどのように進めていきましたか?

梅谷:最初の段階から飯塚さんにデザイン構想があったためスムーズでした。形はハイテクスニーカーなどを参考にしたものの、色味は最近人気のペールトーンを取り入れるなど、新しくすることを試みました。

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飯塚:時間がなかったので、中高生の子どもがいる周囲の人に、「どれがいい?」とLINEで実際の声を聞いてもらったり、社内アンケートを取るなどして、そのなかで人気が高いものをつくろうと。

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梅谷:最初はアンケート結果から人気のあるものを製品化にという安易な方向に走っていたのですが、いざ並べてみたら90年代というコンセプトから離れていった感じがして。何が言いたいかわからず、バランスも悪いものができてしまったんです。

飯塚:そのためテーマを「90年代のストリート」にしようと立ち返り、考え直しました。

―ものすごい短期間を全速力で走りきったのですね!しかも、ちゃんと立ち止まって再考する時間も設けつつ。

飯塚:4ヶ月で走り抜けましたね。

飯塚:ファッショナブル過ぎると文具は売れない傾向にあるため、最終的なデザインの調整では、90年代を意識しつつもチューニングを行うことに。最近売れ筋の白軸にもチャレンジしました。

梅谷:いままで不透明のピアニッシモはつくったことがなかったのですが、あえて不透明を採り入れることでピアニッシモらしいフォルムがはっきりしてかっこいいのではと思いました。
ただいざサンプル試作段階になって「キャップと先金は折れやすいので不透明にはできません」と言われたときは、デザインを全て変えようかと…。ですが、それを検討する時間もなかったため、乳白色にして不透明に見せるなど試行錯誤の連続でした。

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▲推敲を重ねた、デザイン案の数々…4ヶ月の軌跡です。

―清水さんは不透明の新生ピアニッシモを見てどうですか?

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清水:もうびっくりですよ(笑)。不透明だと太く見えると思っていたため、その発想がありませんでした。なぜ当時これが出てこなかったんだと(笑)。

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飯塚:いまだからこそ、という感じがしますね。でも会議では高垣さんに「絶対売れねぇよ」と言われました(笑)。

―そのように言った真意は?

高垣:だって、負けたら悔しいじゃないですか(笑)。

飯塚:「オレンジ色はどうしたんだよ!」とも言われましたが、逆に火がついて、絶対売ってやると思いましたね(笑)。

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―マーケティング戦略はどんな仕掛けを考えていますか?オレンジ色の引退宣言のようなことは…。

飯塚:あの頃とは販促費が違いすぎて(笑)。復刻だけでなく新しい4色を出したところが、ある意味販促なのかなと。昔はCMや雑誌でPRしていたものが、いまはどれだけSNSに露出できるかが大事になってきていますね。

梅谷:飯塚さんは、社内でもSNSのエゴサ(エゴサーチ)がダントツすごいんですよ(笑)。

飯塚:通勤の行きと帰りには必ずチェックしています。最近ではSNSで勉強している様子をおしゃれにアップする「 #勉強垢  」というのがあるんですけど、新デザインはそういう子たちに使ってもらうことも意識して軸色を選びました。

梅谷:ピアニッシモはフォルムが特徴的なので、SNSなどでも見つけてもらえやすいと思います。

―では最後に。復刻版ピアニッシモは、どんな人に手にとってもらいたいですか?

飯塚:復刻版はなんとなく顔が見えるんですよ。当時使っていた人が社内にもいるので。いまの学生さんには、気軽に選んで買って欲しいですね。普通のシャープペンに飽きたときや気分転換したいときに、サイドノックの珍しさを取り入れてもらいたいなと。

梅谷:200円という低価格なので、プチプラファッションみたいに気軽に取り入れてほしいです!


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当初は“オリジナルvs新デザイン”対決勃発か!?という展開を予想していたものの、終始なごやかムードでインタビューは終了!
時代の流れにうまく乗り、爆発的に売れたオリジナルも、現代のエッセンスを注入した新デザインも、どちらも並々ならぬ情熱がこめられた1本であることは変わりありません!


世の中の風向きが少し変わってきた今年の2月中旬に始動。その半年後である8月には世に出るという、ぺんてるでも異例のスピード感で発売される復刻版ピアニッシモ
こだわり抜いた色味や質感、そして軽さや書きやすさを体感するためにも、多くの人に手にとって欲しいものです!

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ノスタルジーにどっぷり浸るオリジナル世代と、目新しさから手に取る新デザイン世代が共存する文具売場…!

かなり気になります!

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