「アオヤマトリックスレボリューション」

「よく来たな、ネオ。まあ腰掛けたまえ。何か飲むかい?」
薄暗い殺風景な部屋。ネオ、ネオをここまで連れてきたトリニティ。そしてモーフィアスと名乗る大柄な黒人。
 
それには答えずネオは切り出した。「あんたは、この女が言うように、おれの不安、どうにも拭い去れない違和感、、、、。自分が本当に生きているのか、この現実はリアルなのだろうか。」

そう、いつからかずっと頭の隅にこびり付いていた疑問。「あんたは、本当に、答えてくれるのか?」
 
しばらく間をおいて、モーフィアスはもったいぶった口調で語り始めた。
 「ここに2種類の薬がある。もし、このまま引き返すのならば、緑色を。真実に辿り着きたいのなら、、、、赤を、飲みたまえ。ただし一度選んだら、二度と引き返せないぞ。」
 少しためらった後、ネオは赤の薬に手を伸ばした。世界の真実を見る薬。そのまま飲み込む。
 
、、、、1分、、、、2分、、、、5分、、、、。特に変わった様子は無い。
 
 「、、、オイ!」やっとのことで突っ込むネオ。
「何にも、何にも変わってないんですけどーっ。もしもし?ここまで引っ張っておいて、何も無しっすか?え?オチは?え?」
  モーフィアスはそこまで聞くと、物憂げに体を起こした。
   「、、、あ、ゴメン。ちょっとおれ寝てた?メンゴメンゴ。、、、よいしょ!気を取り直して行ってみようか。見ろ!これが世界の真実だ!ジャジャジャーン!」
  
 だらだらしゃべりながら、モーフィアスはネオを壁の裏側に案内した。、、、?壁?この壁はベニヤで作ったパネル、、、、。書き割りの舞台装置。
「暗いから足元は気を付けて。オペ電を辿って来い。」
 途中、黒ずくめの男とすれ違う。「あれは舞台監督さん。えーと、こっちが楽屋通路かな?あ、どうも、お疲れさまでーす。」
 楽屋、、、、?中には、ネオの見慣れた友人、近所の人、日常で出会う人々、その他大勢が、メイクを落としたり、ケータリングのお菓子を食べたりしてだらだらしていた。
  「、、、え?どういう事?わかんない?」
 「ネオ、、、、。」楽屋通路を歩きながらモーフィアスはしゃべり始めた。トリニティはいつのまにかスッピンになっている。
 
  「これが今まで君が生きてきた世界の正体。マトリックスin青山円形劇場。アオヤマトリックスだ。」
 
 
 ネオのリアクションなどお構いなくモーフィアスは続けた。
  「インターネットの急激な普及、それに伴う演劇系サイトの増殖。演劇ファンのblog等々、、、。劇場で芝居を観るよりも、遠目に劇団、演劇関係者をオチしてニヤニヤしたい、キター!!!とかイラネとか書き散らかしたい、引きこもりネット演劇ファンが500年の時を経て作り上げた仮想現実”アオヤマトリックス”。エキストラは安く使える小劇場役者。ちなみにネオ、君の仮想現実を構成している台本は、平田オリザの“東京ノート”だ。日常がリアルに表現されていただろう?」
 
 あまりの唐突な展開に、ネオは言葉を失った。青山円形劇場ロビーへと歩き出す。こどもの城で遊ぶ子供達。横を通り過ぎる能曽さん。横の自動販売機で牛乳を買おうとしたが、小銭を持っていないことに気づき、ネオはちょっとヘコんだ。
  
 「モーフィアス、やっぱりおれ急にそんな事言われても困るよ。仮想現実へ、、、、アオヤマトリックスに帰してくれ。」
 
 やはり無理か、、、、。モーフィアスは心の中で溜息をついた。彼こそは救世主となる男だと思っていたのだが。
  「仕方ない、ネオ。言うとおりアオヤマトリックスに君を戻そう。最後に何か言っておきたい事はあるかい?」
 
 ネオは、しばらくためらった後言った。「台本は、静かな演劇じゃなくて、劇団☆新感線のとかにして。歌って踊って派手なやつ。」

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