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韓国ドラマ「ムーブトゥヘブン」について個人的考察 

★ハン・グルについて 

まず始めにこれはネタバレをふくみます。
これから視聴予定の方はどうかご遠慮くださいますようお願い致します。

主人公の一人ハン・グル青年はアスペルガー症候群。人の気持ちがわからず、人とうまく距離をとったり、コミュニケーションするのがとても苦手。

ロボットのようなしゃべり方をし、習慣化されたこと以外不測の事態がとても苦手な一風変わった男の子である。幼い頃に母親を亡くし、父と二人でと「ムーブトゥヘブン」遺品整理の仕事をしている。だがその父も第一話で急死してしまう。

趣味は水族館で魚を観察すること。魚の生態に詳しく、水族館の職員すらも見落とすような魚たちの些細な変化に気づくことができる。抜群の記憶力の持ち主。洞察力にも優れ、パズルのピースを紡ぐようにある事象を点でとらえ、それを線につなげていく大胆な仮説とその裏付けをしていくことを得意としている。その資質は遺品整理士の仕事にも大いに活かされることになる。

近所の女友達、ナムちゃんがあれこれとおせっかいを焼いて彼の面倒をみてくれる。

★チョ・サングについて

ハン・グルの父、ハン・ジョンウの異父兄弟。幼い頃から両親が喧嘩が絶えない家で育ち、あまり愛情を感じずに育った印象。4歳の時にハン・ジョンウと家出の計画を立てるが三日たってもジョンウが待ち合わせ場所に現れず、見捨てられたとジョンウを恨んでいる。

ハン・ジョンウの急死により、ハン・グル青年の後見人として一緒に暮らし始めるが根っからのチンピラ、ゴロツキ体質で神経質で綺麗好きのハン・グルとは最初は全然気が合わない。

闇賭博場でボクサーをしていて前科者である。もちろん闇なので八百長しまくり。闇賭博場の女主人に借金があり、なかなかそこから抜け出せない。

昔、弟のようにかわいがっていたスチョルを闇賭博のボクシングで意識不明の重体に追いやり、スチョルはそれ以来目覚めていない。その過去をサングは非常に悔いている。

基本、チンピラ、ゴロツキ体質だが、根っからの悪人ではない。言葉の端々、所作にもそれらが表れている。ハン・グルと出会い、一緒に遺品整理の仕事をはじめて、彼の視界がどんどん開いていく。

★遺品整理士という仕事

何らかの理由で亡くなった人の家や部屋を片付ける仕事。依頼人からはできるだけ早く終わらせてほしいと頼まれたり、作業現場では車を裏に停めろと言われたり、近所の人たちに子供は近づくなといわ言われたりするなど侮蔑的な扱いを受けることもしばしば。

社会的はまだこの遺品整理士という仕事の価値や重要性があまり認知されているとはいえない。高齢化、単身化が進む韓国で(たぶん日本でも)これからもっと注目される職業であることは間違いない。

★依頼例

高齢女性の孤独死現場。依頼人である息子夫婦は部屋に入ろうともせず、とりあえず、現金があるはずなのでそれを早くよこせと言う。グルやサングが横取りしないように何度もくぎを刺す。横柄極まりない依頼人である。

彼女が孤独死した床からは体液にまみれた50000ウォン札がびっしりと。引き出しからは近所の銀行でおろした明細書が大量に見つかる。

銀行で話を聞くと、生前彼女は平日、ほぼ同時刻に銀行を訪れ、窓口できっかり50000ウォンをおろし、銀行備え付けの電話でどこかに電話をかけていた姿が目撃されている。電話の隣には販促用の飴が。

汚れたお札を一枚一枚洗浄しながら、これらのピースを頭の中でつなぎ、死者が何をどう考えていたのか一生懸命推測するハン・グル。

それらのピースがピタリとはまった時、依頼人男性と私たち視聴者は泣き崩れることとなる。

★最後に

孤独死、変死、自殺、他殺。死はどこにでもあふれている。私たちは死から目を背けることはできても逃れることは決してできない。病院のベッドに横たわり、子や孫に囲まれながら天寿を全うするだけが「死」ではない。何らかの事情で一人ひっそりと、あるいは志半ばでこの世を去る人も少なからず存在する。そんな市井の人々の声なき声に真摯に耳を傾け、発することのできなかったメッセージを読み取り、残された人々にその声を届けるのが遺品整理士の仕事だ。

この物語はこの声を探し当て、人々になんとかして届けようとする遺品整理士という仕事を通して、韓国社会が抱える様々な問題を浮かび上がらせている。孤独死、ストーカー殺人、老夫婦の自死、LGBTQ、貧富の格差、海外養子縁組問題、障害者への偏見など実に多岐に渡る。

これらを縦軸だとすると、ハン・グル青年を中心に亡くなったハン・ジョンウ父の教え、チョ・サングとジョンウの長年の恨みが不可避な事故であったと気づく箇所、やさぐれていたサングがグルと一緒に生活を共にし、遺品整理士の仕事を通じてお互いを必要としあう関係性に昇華してく、やわらかくて暖かく、しかも少し不器用な二人のほほえましい過程が横軸となるのだろう。この縦軸と横軸が綺麗に織られて、物語自体を一層立体的なものにしている手法は実にすばらしい。私たち視聴者はまるでハン・グル、チョ・サングと共同生活をし、遺品整理士の仕事をしているような気分でこのストーリーに飲み込まれていく。最終回は号泣必至のヒューマンドラマに仕上がっている。派手さはないが、よく練られた物語なのでじっくりと堪能していただきたいと思う。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

#韓国ドラマ #Netflix   #ムーブトゥヘブン #ネタバレ


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