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私の映画鑑賞録2022(ネタバレ感想文)

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2013年以来久々の年間鑑賞数80本超え。劇場鑑賞数70本超えもその年以来。新作マイベストは『秘密の森の、その向こう』。2年連続セリーヌ・シアマ。
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映画『終末の探偵』 不寛容の時代を描いた作品だがこれを褒めるほど俺は寛容ではない(ネタバレ感想文 )

北村有起哉のヤサグレ探偵物ということだったので面白そうだと思って映画館に足を運んだら、偶然(追加の)舞台挨拶に出くわしました(北村有起哉はいなかったけど)。 舞台挨拶の困る点って、作り手の顔が見えちゃうというか、製作意図や撮影苦労話を聞かされて情がわいちゃうもんだから、悪口が書きにくい(笑)。 探偵物だと思って観に行ったら、Vシネ系ヤクザ物でした。 「V☆パラダイス」でよく放送しているやつみたいな感じ。 そういうのが好きな人には向いていると思います。 あのチャンネル、隙あら

映画『ホワイト・ノイズ』 ノイズが多すぎる(ネタバレ感想文 )

「ノーベル文学賞獲るんじゃね?」と言われているドン・デリーロの原作をどこまで消化(昇華)しているのか未読なので分かりませんが、映画は物語の解釈の余地を狭くしてしまっている気がします。 有り体に言えば、最後のドイツ人尼僧の台詞と最後のナレーションで、「この映画の言いたいことはこういうことだったんですよ」と全部説明してしまっている。 そんなことするくらいなら、映画冒頭で「この映画はこういうことを描きますよ」って先に言っちゃえばよかったのに。ウディ・アレンがよく使う手法です。 先

映画『他人の顔』 人は見た目が〇割とか言ってる場合ではない(ネタバレ感想文 )

安部公房原作・脚本の勅使河原宏監督作ってたぶん4本あると思うんですが、その中で唯一観ていなかった映画。ケーブルテレビで放送していたので録画して鑑賞。仲代達矢×京マチ子なんて超楽しいじゃん。 この映画、『砂の女』(1964年)、『燃えつきた地図』(68年)と合わせて「失踪三部作」と呼ばれているそうですが、その前の『おとし穴』(62年)も含めて4作品全部「人が消える」話なんです。 そういう時代だったんでしょうね。 1960年代の日本は失踪者が多く社会問題になっていたらしい。松

映画『メタモルフォーゼの縁側』 承認欲求から利他主義への物語(ネタバレ感想文 )

いきなりネタバレというか映画を観た人しか分からないことを書きますが、映画終盤で、スクールカースト上位の勝ち組女子のクラスメイトに芦田愛菜ちゃんが「がんばって」と声をかけるシーンがあります。 このクラスメイトの美少女は汐谷友希というスターダストプロモーションの売り出し中の若手女優だそうですが、結構高身長なんです。芦田愛菜とはかなり身長差がある。 そこでこのシーンは、彼女が階段を降りかける際に声をかけて、同じ目線の高さに揃えるんですね。 この監督は映画が分かっている。 大女優

映画『蜘蛛巣城』 写実と様式。野心を描いた野心作(ネタバレ感想文 )

「午前十時の映画祭」で4Kデジタルリマスター版を鑑賞。 恥ずかしながら初鑑賞。 この映画は、シェイクスピア作品を日本の戦国時代に置き換えたというよりも、シェイクスピア劇を能に翻案したという印象です。 三船と山田五十鈴の顔はまるで能面でしたもん。 冒頭、「昔々、蜘蛛巣城というお城がありました」ということを映像だけで見せるんですね。 今時の作品なら台詞や字幕で処理しているところです。 映画は画面で語る。今の作品は安易に台詞に頼りすぎ。 この冒頭は後々、「兵どもが夢の跡」的な

映画『EAST MEETS WEST』 岡本喜八の夢と現実(ネタバレ感想文 )

みんな大好き岡本喜八、晩年の一作。 庵野秀明なんか岡本喜八のことが好き過ぎて、『シン・ゴジラ』(2016年)の博士役(写真)で登場させたばかりか、話自体も『ゴジラ』(1954年)というより、まるで岡本喜八の『日本のいちばん長い日』(1967年)でしたからね。 私も岡本喜八大好きなんですよ。 あ、『ダイナマイトどんどん』でも書いたな。 私は岡本喜八や市川崑や鈴木清順が大好きなんですが、悲しいかな、私が映画館に足繁く通うようになった大学生の頃、彼らは既に「晩年」に差し掛かってい

映画『愛情物語』 当時でもドイヒーな映画でしたからね(ネタバレ感想文 )

ケーブルテレビの放送で鑑賞。 ウチのヨメが「よく歌うけど観たことない」と言い出したんで暇に飽かせて観たんですが、実は私、公開当時に観てるんです。 ま、お目当ては併映の森田芳光『メイン・テーマ』(1984年)でしたけど。もっとも当時はボンクラ高校生でしたから、まだ映画にも森田芳光にも目覚めておらず(私が森田芳光に覚醒するのは翌年の『それから』から)、真の目的は薬師丸ひろ子でした。ええええ、私は薬師丸ひろ子ファンですよ。 薬師丸ひろ子一代記語ったら長くなりますよ。語りませんけど。

映画『ヒューマン・ボイス』 電話、犬、斧、油、赤、青、緑(ネタバレ感想文 )

全国一律800円興行の30分の短篇。 ジャン・コクトーの戯曲を自由に翻案して、ティルダ・スウィントンの(ほぼ)一人芝居で、初の英語劇で短編映画に仕上げたアルモドバルの真意が分からない。 でも、アルモドバルらしさは全開のように思います。 映画のファーストカットは、カラーなのにまるでモノトーンのような色彩で始まります。 何言ってるか分かりませんよね。画面上、赤と白しかないんですよ。 次に青。続くタイトルは緑。ビビットな色彩で画面を構成していきます。 そして描かれるのは、普遍

映画『パラレル・マザーズ』 ねじれた世界と接点(ネタバレ感想文 )

アルモドバルとも長いお付き合いで、『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999年)以降の監督作は全部観ていると思います。本当は『神経衰弱ぎりぎりの女たち』(88年)辺りまで遡って観たいんだけど。 もう73歳という年齢もあってか、最近めっきり「スペインの名匠」呼ばわりされるアルモドバルですが、元は鬼才というかイカレポンチだと思うんですよね。韓国のキム・ギドク、デンマークのラース・フォン・トリアーと並ぶ「世界三大珍味監督」の一人と、かつて私は呼んでいました。 『私が、生きる肌』

映画『天間荘の三姉妹』 犬童一心か冨樫森で観たかった(ネタバレ感想文 )

私の、のん好きは過去にしばしば書いています。 門脇麦も大島優子もいい女優だと思うんですよ。 だから観に行こうと思ったんですけどね。 寺島しのぶや柴咲コウ、三田佳子まで出てるとは思わなんだ。 男優陣もカメオ出演も豪華でした。 オムライスの食卓シーンなんかは皆流石の演技でいいシーンですよね。 んー…… 褒めるところ、以上。 鑑賞前の最大の懸念は、怪獣そっちのけでTOKIO松岡が殴り合いの喧嘩をする珍作『ゴジラ FINAL WARS』(2004年)で本当にゴジラをオワコンにし

映画『熱いトタン屋根の猫』 当時は先進的過ぎたのかもしれない(ネタバレ感想文 )

1958年の映画(<この時代感重要)。 テアトルクラシックスのポール・ニューマン特集にて初鑑賞。 ポール・ニューマンやエリザベス・テイラーにはご縁が薄く、その作品をあまり観ていません。やっぱり、少し上の世代なんですよね。 さらに言うなら、恥ずかしながらテネシー・ウィリアムズ戯曲ものも観たことがありませんでした。 映画としてはこの時代の撮り方だし、いかにも舞台作品の映画化だなという感じがしますが、予備知識ゼロで鑑賞したら話のレベルが高くてビックリした。 『欲望という名の電車

映画『アフター・ヤン』アフターサービスはなかったのかな?(ネタバレ感想文 )

悪い話ではないし、悪い映画でもないし、監督の意図も分かるので悪口を書く気はなかったんですが、振り返って突き詰めてみると、さして面白くもなく、なんだか出来の悪い話で、出来の悪い映画に思えてきたんですよ。 監督のコゴナダって人は、そのペンネームを野田高梧(小津安二郎映画の脚本家ね)から取るほどの小津好きなんですってね。 エドガー・アラン・ポーから取った江戸川乱歩みたいなもんだ。 ちなみに萩尾望都「ポーの一族」の主人公はエドガーとアランなんですよ。 エドガーとメリーベルの関係は「

映画『もっと超越した所へ。』あっちゃんの元夫は前髪クネ男だからなぁ(ネタバレ感想文 )

ねもしゅーこと根本宗子(<逆だ)作品(脚本)を見たかったのと、女優陣を堪能したくて映画館へ。 ねもしゅー作品は、ドラマ「下北沢ダイハード」の1エピソードを見たきりなので、その特性が掴めていません。ちなみにそのドラマの演出家が、この映画の山岸聖太監督だったと記憶しています。 『サマーフィルムにのって』(2020年)の伊藤万理華、 『美人が婚活してみたら』(18年)の黒川芽以、 『生きてるだけで、愛。』(18年)の趣里、 そして『もらとりあむタマ子』(13年)の前田敦子。 み

映画『8 1/2』混沌、混乱、人生は祭りだ。もう大好き。(ネタバレ感想文 )

14年ぶりの再鑑賞。午前十時の映画祭に感謝感謝。 今回の上映も14年前の2008年に観た「完全修復ニュープリント版」だと思うのですが、当時はそれ自体が25年ぶりのスクリーン上映という貴重な体験でした。 私もそれ以前はビデオでしか観ていなかったので、本当にありがたい。 「『8 1/2』はあるか?」とレンタルビデオ屋で訊ねて『ナインハーフ』(1986年)が出てくるってネタを見たことあるな。2つくらいのアメリカ映画で見た記憶があるので、映画通向けのアメリカン・ジョークなのかもしれ