夕暮怪雨

誰でも読めて語れるをモットーに。生粋のサウナーで怪談を執筆する人。(`・ω・´) 竹書…

夕暮怪雨

誰でも読めて語れるをモットーに。生粋のサウナーで怪談を執筆する人。(`・ω・´) 竹書房さんから 共著 「投稿瞬殺怪談」「怪奇島」「呪霊不動産」「現代実話異録村怪談」他 怪談ユニット テラーサマナーズ結成 https://youtube.com/user/maota0080

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    ちょっと依存性の高い女性の怖い話

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一緒に探して【改訂版】

女性のHは数年前、都内にある駅ビルの書店で働いていた。そこで不思議な体験をしたそうだ。それはHが店の閉店作業をしていた時の事だ。既に店内には客は居らず、締め作業も終え、本人と同僚社員の2人以外は帰っていた。翌日の商品陳列のチェックをするため、退勤前に売り場に向かった。すると急に「ねぇ」と子供の声で呼び止められた。 彼女が後ろを振り向くと、書籍が並べられている棚の横から小さな子供の顔が飛び出してきた。4歳ぐらいの女の子だったそうだ。Hは、その子供を見た瞬間、身体から汗が噴き出

    • 居眠り

       大学生の上原さんはある地下鉄を利用している。その日は授業が昼過ぎということで、幾分ゆっくりと家を出た。地下鉄の入り口にたどり着き、ホームへ向かう。電車は時刻通りの到着予定。上原さんはホームで待つ。大学の最寄駅まで2駅。時間にして10分ほどだ。ただ電車待ちの中、周囲から何かが聞こえる。それは鈴の音だ。まるで糸に鈴を吊るし、人が手に取り揺らしたような音。(チリン…チリン)何処から聞こえてくるのか?鈴なんて誰が持っているのだ?辺りを見回しても分からない。乗車後、ドアが閉まり電車が

      • 育児放棄

         工藤さんは思春期に入ると、実の母から酷い虐待を受け始めた。理由は分からない。幼い頃はテレビやドラマに出るような”優しい母親”だった。母は徐々に豹変していく。工藤さんは母から毎日のように叱責されていた。酷い時は暴力や、食事もろくに与えられない。真夏真冬関係なく、夜中外に出される。そして泣きながら朝まで徘徊することもあった。このような行為を母にされても、心底憎むことは出来ない。優しい頃の母が頭によぎるからだ。工藤さんはむしろ自分を責めた。(自分が悪いのだ)と。父は仕事のため家に

        • 夢の中へ

           結菜さんは以前から大きな悩みを抱えていた。(自分は母の子ではないかもしれない)そんな悩みだ。母とは外見も背格好もよく似ている。父からは「若い頃の母さんに瓜二つだ」と茶化されもする。だから本来、そのような心配をする必要もない。けれど彼女の心のモヤは一向に拭えなかった。その理由は「夢」にあったからだ。幼い頃から時折、夢に現れる人物。それは見知らぬ中年の女。その人物は自らを結菜さんの実母だと名乗る。屈託のない笑顔で彼女を可愛がり、結菜さん自身も女のことを何故か「お母さん」と呼び、

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        一緒に探して【改訂版】

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          17本
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          子守唄

           真斗さんは幼い頃から施設で育った。理由は分からぬが、自分は捨てられたのだと思っていた。当然親の顔も知らなければ、生きているかどうかも分からない。そのせいで自分の正確な誕生日さえ知るよしもなかった。けれど記憶がらなければ親を憎むこともない。それが日常であり、気にも留めることでもなかったからだ。そんな彼にある出来事が起きた。2月の寒い夜、身体が何かに縛られている感覚で目が覚めた。金縛りだろうか?真斗さんは初めての経験に動揺する。振り解こうともがくが、身体一切動かない。言葉さえも

          帯刀

           瞳さんは幼少期、岩手のある地域へ行く機会があった。父との二人旅、そして初めて訪れる場所。旅の理由は分からない。たどり着いた場所は広い古民家で、とても広い。父は入るなり、家に住む老夫婦2人と、何か悲しげな表情で話し込んでいる。そんな空気の中、お転婆な瞳さんは部屋中を駆け回る。時代劇が好きだった彼女は、旅先で父に土産物の模造刀を買って貰った。それを持ち、殺陣の真似事をしながら家中を暴れていた。その姿を見た老夫婦は、ほんの少し笑顔になる。けれど誰も相手にはしてくれない。瞳さんは段

          縁切り

          光彦さんの母は神職として神に仕えていた。日々、神に失礼ないよう生活を行う。自宅には神棚もあり、毎日丁寧に扱っていた。母は特に変わった力もない。けれど一度だけ母の不思議な光景を目撃したことがある。それは光彦さんの父が、理由も分からぬ病におかされた時期。熱も下がらず、毎日のようにうなされた。病院にかかっても原因は不明のままだった。光彦さんも看病を行ったが、父は徐々に弱っていき、意識も朦朧とする。そんな中、母は父の見舞いへも行かない。自宅にある神棚へ、毎日お祈りを必死にあげていた。

          動画配信者

          都内の会社で動画編集の仕事を請け負っている上条さん。主に顧客は動画配信者だ。中には有名な配信者もおり、いわゆるインフルエンサーという肩書きの人物もいる。その中には頻繁にやり取りを行う榊原という男がいた。弱小配信者の頃からの付き合いで、気づけばあるジャンルでは名を聞くような立ち位置になっていた。それはカップルによる配信動画だ。恋人との生活をコミカルに配信する。けれど恋人と袂を分かち、新たに一人で動画配信をすることになった。ある日、そんな榊原から動画編集の委託の依頼があった。上条

          動画配信者

          波長

          陽子さんは中学生の頃、楽しみにしていた番組があった。推しのタレントが出演する、週末のバラエティ。内容はオールジャンルで、時折取り上げる心霊写真のコーナーが目玉になっていた。陽子さん自身も怖いもの見たさではあるが、楽しんでいた。その感想を週明け、学校で仲の良い友人と話すことも楽しみだった。 けれどプロカメラマンである陽子さんの父は、よくそのコーナーを見て笑っていた。真剣に画面を見る陽子さんに対し、冷や水を浴びせる。 「なぁ陽子、こんな子供騙しの写真を見て面白いか?」 「いちい

          いないいないばぁ

          里帆さんは幼い頃から写真を撮ることが多かった。カメラ好きの家族の影響だ。時間があれば自宅のアルバムを引っ張り出し、家族や友人の映った写真を見る。思い出が蘇り、里帆さんはこの朗らかな時間を楽しみにしていた。けれど小学生の頃、ある出来事が起きる。それは仲の良いクラスメイト達を撮影した時だ。出来上がった写真を自慢げに皆に見せる。教室でクラスメイト数人が映る一枚。笑顔でおどけ、各々ポーズを取っている。細かに写真を眺めていると、ふと端に見慣れぬ人物がいることに里帆さんは気づいた。 自分

          いないいないばぁ

          孤毒

          樹莉さんは大学時代、いつも一緒の同性の友人がいた。樹莉さんは非常に消極的な性格で、大学へ入るまで周囲から、のけものにされていた。まさに孤独だ。そんな中、根明の友人は樹莉さんを第一に考え、側にいてくれた。そして気づけば親友になっていた。 けれどある時を境に距離を置くようになる。親友が思う男に、樹莉さんも恋をしたからだ。その男は蒼という名であった。いつも孤独な雰囲気を纏い、大学でも1人。最初は彼の不穏な雰囲気に近づき難いものを感じたが、次第に惹かれていくことに気づく。彼の孤独な

          留美の文字

          剛さんは20代の頃、左腕に刺青を彫った。きっかけは当時付き合っていた彼女だ。留美という名でとても嫉妬深く、束縛な性格だった。けれど剛さん好みで、彼女にゾッコンだったそうだ。そんな嫉妬深い留美に対し、愛情の証明を行う行為を彼は思いつく。剛さんは自らの愛を示すため彼女の名を左腕に彫ったのだ。いわゆる若気の至りというやつだ。周囲は「やめておけ」と剛さんを何度も止めたが、言葉は耳に入らない。留美もまんざらでない表情を浮かべ、喜んでいたからだ。左腕に刻まれた「留美」という名を鏡の前に立

          留美の文字

          咀嚼音

          営業マンとして働く島倉さんは、3年前に念願のマイホームを購入した。幼少期、転勤族の父に連れられ地方を転々としていた。住まいはいつも賃貸の集合住宅。それが理由で一戸建の住宅に憧れを抱いていた。ガムシャラに営業成績を伸ばし、物件の購入費用を稼ぐ毎日。そんな島倉さんを助けるため、幼い子供を実家に預けて妻もパートとして働いてくれていた。それでも目標の金額に達っすることが出来ない。(やはりマイホームなど夢なのか)そんな諦めの考えが島倉さんに浮かぶ。 そんな時、取引先の人間から手頃な物

          継母

          真弥さんは幼い頃に実母を亡くした。母の記憶は全くなく、寂しさなども感じたことはなかった。父や祖父母が一心に愛情を注いでくれたからかもしれない。それが日常だった。けれどそんな日々に変化が訪れる。真弥さんが16歳の頃、父の再婚が決まったのだ。再婚相手はとても物静かで優しい人柄。香水だろうか?いつも金木犀の香りが漂う人だった。祖父母も喜び、すぐに家族と馴染んでいく。真弥さんからすれば継母だ。けれど幼い頃から「母」という存在に触れたことがない彼女にとって、受け入れ難いものだったそうだ

          ユニフォーム

          赤地さんは高校時代、野球の強豪校に入学した。いわゆる高校球児だ。厳しい練習で辛く感じることもあった。それは練習中、水を飲むことを制限されることだ。 当時はそれが常識で、特に辛く感じたのは夏場だ。炎天下の中、身体から滴る汗で水分が搾り取られる。時には意識が朦朧とすることもある。けれど、飲料水は監督から支給されるもの以外は許されなかった。なんとか監督の目を盗み、水を飲みたいといつも思っていた。 その日は予選大会前で、いつも以上に練習は厳しいものだった。加えて灼熱の炎天下。大量

          ユニフォーム

           夏美さんの家の庭には井戸があった。庭のちょうど真ん中にあり、大人たちはいつも綺麗に手入れし大切にしていた。昔は飲み水にも苦労した時代もある。きっとその苦労が井戸の扱いに現れているのだろう。そう勝手に納得していた。汲んだ水はとても冷たく、美味しい。夏美さん自身、井戸のありがたさを感じていた。 ただ徐々に気持ちが変化していく。きっかけは彼女が中学生の時、家の立て直しが決まった頃だ。夏美さんも大変喜んだ。 「新しい部屋が手に入る」そんな期待を持つ。両親や祖父母も快く承諾してくれ