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エイハブの六分儀-西香織

【今月の星空案内】

新年のご挨拶をするには遅すぎるタイミングとなりましたが、今年は2月10日(土)が新月で旧暦の1月1日にあたる旧正月ですので、まだ大丈夫…とうに明けてまして、おめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いします!皆さまが健やかで平和に過ごせますようにお祈りいたします。

大寒を過ぎて日も長くなってきたこの頃、宵時に南の空高く昇るのが冬の星座たちです。西よりに木星も輝いているので、かなりにぎやかですね。

夜の8時前後、体を南に向けて空を仰いでみると、正面の星のステージにてオリオン座が満を持してセンターに躍り出ています。三つの行儀の良い三ツ星を4つの星が囲んでできる長四角が目を惹きます。オリオン座の左上の赤い星がベテルギウス、三ツ星をはさんで反対側の右下が青白いリゲルです。整い過ぎていて、どうしたって目立ってしまう。一見ふたつも明るい1等星が輝くまさに大スターの陽キャのアイドル星座です。しかし、その姿とは裏腹に狩人オリオンの神話は、さそりの毒にやられて星になり今でもさそり座から逃げ続けていたり、プレアデスの7人姉妹に嫌われて星になった今でも追っかけ続けて逃げられ続けている、さらには恋人のアルテミスに射〇されてしまう…などなど、まぁ気の毒な身の上なのです。でも、安心してください。空では、2匹の愛犬が寄り添っていますから。ベルトの三ツ星を滑り降りた先でめっぽう明るく輝くのが、恒星の中で一番明るいおおいぬ座シリウスです。シリウスよりも少し東の高い位置で輝くもう一つの1等星プロキオンは、こいぬ座の星です。三つの星を結んでできる形のいい三角が、冬の大三角ですね。

続いて、一気に広い範囲に視野を広げましょう。オリオン座よりもグッと北の高い位置に五角形のぎょしゃ座カペラ。そこから、おうし座の目で輝くオレンジ色のアルデバラン、オリオン座のリゲル、おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオン、冬の大三角の上にちょこんと乗っかっているふたご座の左の星ポルックスを結ぶと、巨大な冬のダイヤモンドが出来上がり。寒い夜にきらめく大きな星の宝石は、毎年新鮮に空の広がりを教えてくれます。

オリオン座と向かい合っているのが、おうし座です。オリオン座の三ツ星を高いほうへと伸ばした先にアルデバランが光っています。近くのあわい星々で小さな V の字ができたら、それがおうしの顔です。目から立派な角が2本。ゼウスが化けた姿と伝えられています。

昔、フェニキアという国の可愛らしいエウロパ姫が花摘みをしている姿に一目惚れし牛に化けたゼウスが、エウロパを背中に乗せたまま空を飛び海を越えてクレタ島に連れ去ってしまったといいます。その後、エウロパの名前から、その地一帯をヨーロッパと呼ぶようになりました。

そのおうし座の肩のあたり、今頃だと頭の真上近くから少し西に傾いたあたりに、複数の星がごちゃっと集まって輝いているのが見つかるでしょうか。追いかけるオリオンから逃げているプレアデスの7人姉妹、プレアデス星団と呼ばれる散開星団です。双眼鏡で見ると、それこそ宝石箱をのぞいたような姿を見せてくれます。幼い星々の集団で、古今東西、多くの詩や文学作品などでふれられてきた天体です。

日本でも古くから昴(すばる)と呼ばれ、とても親しまれてきました。古事記に出てくる神さまのアクセサリーである「みすまる」からとも、集まるという意味の「統ばる」から、とも言われていますが、いずれにせよ大好きな大和言葉です。

今から千年ほど前を生きた、清少納言枕草子で「星は昴、ひこ星夕づつよばひ星、すこしをかし…」と書いています。昴についで二番目がひこ星のアルタイルで、続いて金星。そして、流れ星もいいわね、と。金星より地味な昴が優勝て…ということで「清少納言は星なんて見ておらず、辞典に載っていた星の欄にかかれていた名前を書いただけだ」という嫌疑もかけられています。ところが他にも「夏は夜がいい、月が明るい頃(満月)は言うまでもない」と言い切って、当時一般的には、月と言えば断然、秋だったにもかかわらず堂々と独自の見解を述べています。

可愛いもの、楽しいもの、エモいものなど、自分の推しを列挙した枕草子を執筆した清少納言は、今でいうSNSのインフルエンサーと重なる存在ともされます。枕草子は終始ポジティブな内容と筆致で貫かれてリア充が強調されていますが、彼女が枕草子を執筆した頃には、時の天皇である一条天皇の后の定子(ていし)は、後ろ盾となる父親が亡くなっており、実兄の失態と藤原道長のさしがねによって既に没落の時期に差し掛かっていました。ひとえに仕えていた定子を励まそうとして、また、世論に対して「定子サロンはこんなにも素敵だったのだ」と主張するべく書かれた随筆だともいわれています。ですから、彼女自身が純粋に昴を愛でたような気もしますが、もしかしたら、メインストリームからはずれたものの魅力を訴えようとしているようにも思えなくもなく。(私の独断と偏見ですが)描いている世界が明るければ明るいほど、平安時代における権謀術数渦巻く男性社会の貴族政治の中で、水面の葉のように生きなければならなかった定子やその他の女性たちの切なさ、また、それを筆の力で光を灯し定子を元気づけようとしていた清少納言の健気さが胸を打ちます。と同時に、なにか彼女たちに励まされるような想いがするのです。華やかだった宮廷のステージを降りながら見上げた昴は、定子や清少納言の瞳にはどのように映ったのでしょうか。

今年の大河ドラマは紫式部が主人公ですが、彼女がライバル視したとされるファーストサマーウイカさん演じる清少納言が星を見上げて何かを書くシーンは果たして登場するでしょうか?もしもあったら、その視線の先には、昴が輝いているはずです。

昴には他に、むつら星はごいた星よりあい星じゃんじゃら星頭巾落とし…など各地にたくさんの呼び名があります。インドネシアではビンタンプルプルとかビンタン・ポヨポヨ。たくさんの星たちという意味だそうです。どれだけ多くの人が見上げ愛でていたことか。ぜひご自分の目で、その姿を確かめてみてくださいね。

さて、今年は辰年ということで、最後にりゅう座もご紹介しましょう。北の空、こぐま座の北極星を龍がぐるりと取り巻くように描かれています。夏の星座のヘルクレス座の足で頭を踏みつぶされているような位置関係です。ヘスペリデスの園の金の林檎の木を守る龍の姿とされています。りゅう座のツバーンという星は、5千年ほど前は北極星でした。自転軸が駒のようにブレる地球の歳差運動によって今ではお役御免となっています。辰年生まれの方は、りゅう座探しに挑戦してはいかがでしょう。

では、月と惑星の動向をば。2月1日(木)明け方の東の空で、金星と火星が大接近します。2月8日(木)有明の細いと金星と火星が集合。2月11日(日)月齢1の極細の月と土星が接近しますが、見えるかな、夕方西の空です。さらに、2月15日(木)夕方から深夜にかけて、月と木星が寄り添うでしょう。2月22日(木)は、金星と火星のランデブーをお楽しみください。

©プラネタリウム版宇宙の話をしよう

さて、事後報告となってしまいましたが、2024年1月21日(日)をもちましてコスモプラネタリウム渋谷でのプラネタリウム版「宇宙の話をしよう」の投影は終了となりました。1年間、元気なミーちゃんとパパがドームいっぱいに飛び回って、多くのお客さまにイマジネーションの魔法をかけてくれました。

立ち上がって身を乗り出して見入っている子、キャッキャと笑う声、イマジネーションの魔法の粉に手を伸ばす子、番組終了後にドームの扉からスキップしながら外に飛び出していく子どもたちは、まさに未来に向かって駆け出していくように見えました。どの姿も決して忘れることはないでしょう。本当に幸せな1年でした。原作者の小野雅裕さん、ミーちゃん、共同制作者の皆さん、イラストレーターの利根川初美さん、魂の背景画を描いてくれたミツマチヨシコさん、素晴らしい番組にまとめてくださったCGクリエイターのオードレッド・マークさん、声優の織田優成さん、岡田日花里ちゃん、制作チームの皆さま、何度も観に来て応援の声をかけて下さった皆々さま、そして1年間心を込めて投影をしてくれたコスモスタッフ、本当にありがとうございました。

©プラネタリウム版宇宙の話をしよう

お別れはさみしいけれど、少しずつ他館のプラネタリウムでの投影が決まりつつあります。まだ、お伝えできない段階ですが、新たな始まりにとてもワクワクしています。皆さんの街でも、ちょっと生意気でお喋りなミーちゃんとパパとのっそりクマが活躍する日を、ぜひ楽しみにしていてくださいね♪ またいつか会える日を楽しみにしています。心からの感謝をこめて…。

西 香織
コスモプラネタリウム渋谷「星を詠む和みの解説員」。幼い頃からプラネタリウムに通う。宇宙メルマガTHEVOYAGE 「エイハブの六分儀」で毎月の星空案内を担当。そそっかしく、公私ともに自分で掘った穴に自分でハマり(ついでに周囲の人も巻き込んで)大騒ぎしながらも、地球だからこそ楽しめる眺めを満喫する日々。

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