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THE VOYAGE 5周年カウントダウン企画『今後5年での宇宙ビジネスや宇宙開発の未来予想図』[古谷野 皓大]

初めまして。東北大学工学部に所属する古谷野 皓大です。Space Seedlingsメンバーとしてはじめて記事を執筆させて頂きます。現在スウェーデンの方に交換留学で来ており、今回はSpace Seedlingsの葛野諒さんに代わり私が記事を担当いたします。

5周年にちなみ「今後5年での宇宙ビジネスや宇宙開発の未来予想図」というテーマでバトンを受け継ぎました。書きたいことを書き綴りましたが、お付き合いいただければ幸いです。

いまはどんな時代?およそ60年越しの月との再会へ

宇宙開発、宇宙ビジネスの両者において今後成長を見せることは想像に易い。日本では2人の新たな日本の未来を担う飛行士が選抜され、JAXAによるH3ロケットの打ち上げに向けた挑戦が行われた。新たな変革に向けて多くの変化が起きている。

しかし、この分野のビジネスや開発は5年の周期で終わりを告げるものではない。5年では区切りにくい。かわりに5にちなんだ形として、「2050年までに脱炭素社会を実現する」ことに注目したい。50年の5である。先を見据えた現状として、今後の宇宙開発において大きな役割を担うアルテミス計画から話を始めてみる。

2023年現在、アルテミス計画は着々と準備が進められている。アルテミス計画とは、NASAによって提案された月探査プログラムのことを指し、月面に新たに人類を送り、月で継続的に活動を行うことを目指す。2017年に当時のアメリカ大統領であるトランプ氏が月を拠点として火星探査につなげる旨が記載された「宇宙政策指令第1号」に署名したことから、この計画は月だけでなくその後の火星探査まで踏まえたものだと判る。およそ60年越しに行われる月面での有人活動プロジェクトは、1960年代にソ連とアメリカによって行われた宇宙開発競争に対して、人類の今後を考えた継続的な宇宙開発の一部だ。技術が掲げる目標に追いついてきている。

Artemis II で月を冒険する 4 人の宇宙飛行士
ジョンソン宇宙センターの公式ポッドキャスト
EPISODE 283 ©NASA / Josh Valcarcel

夢のようだ。SF小説などで取り扱われるような状況が人類の手によって今後作り出されようとしている。月面での拠点は1日、2日滞在するためのものではなく、数ヶ月、さらには数年滞在できるような場所作りが進められていく。それはもう住居といっていい。

私がスウェーデン留学中に受講した授業の中に、月面の研究施設を設計するというものがあった。研究施設のデザイン、研究施設への物資や人の輸送、長期滞在における月面での飛行士の健康管理などをグループに分かれて行った。今後の宇宙開発についてより具体的に考える、学部生に取っては非常に興味深いプロジェクトであった。
そして、このプロジェクトにおいて仮定されていたのが、2037年までにアルテミス計画がほぼ完遂されていることである。人類の月面への輸送や、ゲートウェイなど、今後の開発の基礎となるこの計画が以下に重要なのかを学生の授業という視点から実感した。それゆえ、この計画の成功により、月の住居に家賃を支払って住むような時代があっという間にやってくるかもしれない。

さて、このような宇宙開発はどのような影響を社会にもたらすのか。宇宙は開発して終わりではない。その後、どのように人類社会に活かすかも非常に重要である。現在の宇宙開発には多くの目的があるが、大きな項目としてエネルギーがある。月や火星、さらにはそれより遠い深宇宙における新たなエネルギー源の探査は重要なミッションであり、それらは地球上での生活のためという一面と同時に、アルテミス計画によって目指される月面などの宇宙での長期的な活動に必要なエネルギーを、宇宙でまかなうためという側面も持つ。ここで、これらの目的を満たす可能性のある「宇宙太陽光発電」構想に話を移していこう。

宇宙で太陽光発電できたら最強じゃないか!

もちろん上述してきた宇宙開発にも多くの国や企業が絡み、そこには数多くビジネスの機会が存在する。ただ、今回は「宇宙×エネルギー」という部分に焦点を当て、今後の宇宙ビジネスを見てみる。キーワードは宇宙太陽光発電

宇宙太陽光発電とは?宇宙で太陽光発電すること?

そう。その通り。宇宙空間に巨大な太陽光パネルを設置して発電し、そのエネルギーをマイクロ波やレーザーなどで送電するという構想である。

なんでそんなことをするの?

現在、世界的に持続可能な社会の実現が謳われており、エネルギーに関しても再生可能エネルギーがより注目されている。しかし、現状日本においても火力発電がエネルギー源の中心であり、そこには自然に左右されない安定したエネルギーの供給というメリットがある。それこそ、太陽光発電なんかは地球上のどこに設置したとしても、雲がかかり、雨が降ってしまえば発電は出来ない。これでは、主要エネルギー源としては中々採用しにくい。そこで、太陽光パネルを雲がかかる大気圏より上に設置してしまえば、天候は関係なくなる。

構造自体は1970年代に提唱されたが、開発にかかる費用などから現実的ではないとして、机上の空論に終わろうとしていた。しかし現在、宇宙開発に関係する技術の大きな発展により実現の可能性が見えてきている。今、最もアツい分野とも言えるかもしれない。
では、実際に今実現に向けてどの段階にいるのか、それにともなうビジネス機会について考える。スウェーデンに留学している縁もあり、今回は欧州中心に目を向けたい。

ESA(欧州宇宙機関)は宇宙太陽光発電の実現に向けて、2022年SOLARISと呼ばれる実験プログラムを発表した。このプログラムの目的は、太陽光発電の設備を打ち上げて、宇宙空間で発電し、その後電力を地球に送ることが出来るかどうかを技術面と経済面の両方で検証することである。プログラムのタイムラインとしては、2030年に打ち上げ、2035年頃までに小規模な宇宙太陽光発電設備を開発し、そこから徐々に設備の規模拡大を目指す。

ESAによる宇宙太陽光発電のモデル図©ESA

かつてアメリカによって検討されたものの、技術面と経済面の両方で断念されたこの構想は時代と共に確実に進行している。宇宙に大きく広がった太陽光パネルを思い浮かべてみて欲しい、なんだかわくわくしてきたのではないだろうか。私もその一人である。

わくわくしながら、現在どの段階にあるのか見てみよう。
発電した電力を地上に送る方法としては、マイクロ波が有力視されている。SOLARISプロジェクトを補完するSpace Solar Power Projectでは、人工衛星「Vigoride」を改造した衛星がデモンストレーションとして2023年1月3日に打ち上げられた。この衛星は3つの実験装置を含み、「ALBA」では32種類の太陽光パネルから宇宙で効果的であるものの検証を、「MAPLE」ではマイクロ波によるワイヤレス伝送の実験を、「DOLCE」では太陽光パネルと伝送装置を搭載する軽量構造物の展開の検証を行う。それぞれ、宇宙太陽光発電システムの実現のために必要な大きな課題を分割して研究していき、最終的な統合を目指している。大きな目標があったときに、要素を分解していき1つずつ検証するのは、基本でありながら必ず必要だということを示していると思う。このような開発はESA以外でももちろん行われている。すべてのプラグラムが同じく実現を目指して行われている。そして、上述した打ち上げ日程で出てきた「2023年1月3日」という数字。そう、こんなにも最近の話なのだ。宇宙開発という長いスパンで考える必要のある分野について、「今」が実感しやすい話は宇宙について学ぶ意欲を高めてくれる。早くその最先端に触れたい。私にとって、「宇宙太陽光発電」はそういうものになっている。

現在進行形のこのプロジェクトの成功は、再生可能エネルギーによって、地球上の電力の安定供給を可能にするだけではなく、月面での生活や新宇宙探査などに必要なエネルギーについても地球から送る必要がなくなるかもしれない。さらには、実現の過程で開発された、マイクロ波送電や軽量型構造物は地上での送電や建築にももちろん活かされる。宇宙太陽光発電を中心とした大きなビジネスの市場が出来るだろう。地球上で電力設備の不足により十分な電力が行き届いていないところに電力を供給することも出来るかもしれない。現在、驚くべきことに地球上で電力を使えない人は約10億人もいる。地上に、マイクロ波によるエネルギーを受信する地上局を設置できれば、地球上のエネルギー問題を広く解決する一端をになうかもしれない。その未来が訪れることを期待したい。

宇宙は遠いようでどこからでもたどり着ける

ここまで語ってきた宇宙太陽光発電について私が知ったのは、約5年前、高校の卒業論文を書くタイミングでのことだ。卒業論文と行っても、レポートみたいなものだったが、なにか宇宙に関することをテーマにしたいと思った私は様々な記事をあさる中で宇宙太陽光発電に出会った。なんて画期的な考え方なのか、なんて面白そうなアイデアなのかと心が躍ったことを今でも覚えている。その後、大学に入学し、航空宇宙工学を専攻として選択した。所属した研究室は宇宙構造物を取り扱う場所。自身の研究テーマを完全に決めたわけではないが、宇宙太陽光発電を実現する上ではその巨大な構造物の制御が必要なことを知り、自身の中でシステムの実現のための課題の解像度が上がった。現在はスウェーデンに交換留学生として滞在しており、宇宙における太陽光発電の重要性を、プロジェクトを通して再確認した。そして、現在宇宙太陽光発電の最先端では、技術やコストの検証を宇宙で行う段階に突入している。

自身が興味をもったものにどのように意味づけをするか。最初はただ面白そうと思ったことが、現在は自分がやりたいことになっている。宇宙は遠いものに思われるが、自ら近づこうと思えばどこからでも機会は生まれてくるのではないか。宇宙にはそんな可能性が含まれている、ということを述べて〆ようと思う。

稚拙な文章にお付き合い頂きありがとうございました。キーワード、宇宙太陽光発電を覚えておいて頂ければ幸いです。

5周年記念リレー、次回は初エッセイ本「ワンルームから宇宙をのぞく」を上梓されたSpace Seedlingsリーダーの久保勇貴さんにお繋ぎします。お楽しみに!

古谷野皓大(こやのこうた)
東北大学工学部宇宙工学専攻
漠然と星が好きだった子どもの頃から時を経て、宇宙工学の分野に進み、高校時代に宇宙太陽光発電に出会う。現在はスウェーデン王立工科大学へ交換留学中。
趣味はサッカー、カメラ。

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