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エイハブの六分儀-西香織

【今月の星空案内】

鶯もハクションと鳴く春の夢

花粉センサーが起動し始めました。まずは、今が旬の冬から春の星座をご案内しましょう。オリオン座ベテルギウスおおいぬ座シリウスこいぬ座プロキオンを結んでできる大きな冬の大三角は少しずつ西に傾きつつあります。

冬の大三角の真上で、ちょこちょこんと仲良くならんでいる2つの星はふたご座の星です。右(西)の星がお兄さんのカストル、左(東)の星が弟のポルックスです。兄は乗馬、弟はボクシングが得意で、いつも共に冒険に出かけ活躍していましたが、ある時カストルが矢に当たって命を落としてしまいます。兄の死を悲しんだポルックスは、神の血をひく自分の永遠の命を半分カストルに分け与えるよう父の大神ゼウスに懇願したところ、兄弟思いの彼の願いは聞き入れられ、それ以来二人は1日の半分は地下の黄泉の世界、もう半分は星座になって天に昇って仲良く並んで輝いているのだと伝えられています。

それにしても、双子なのに随分な格差です。永遠の命をもつポルックスに対して、カストルは人間だったために死んでしまった。その理由は、ワイドショーもびっくりの出生の秘密にあります。その昔、ゼウスは古代スパルタの王妃レダに恋をし、王の留守中に美しい白鳥に化けて近づき想いを遂げました。やがてレダは卵を産み落とし、カストルとポルックスが(一説によると同時に女の子の双子も)うまれました。レダは夫のテュンダレウス王からも愛されたため、それぞれ神と人間の血を引く双子になったとか。カストルは2等星の銀色の星で、ポルックスの方が若干明るい金色の1等星です。ポルックスは34光年、カストルは52光年彼方で輝いていて、同じ距離に並べるとカストルの方が実は明るい星なのですよ。

ふたご座とかに座の神話と宵空の星座たち

続いて真夜中には、眠たげな春の星座が南の空に広がります。その先頭を切って南中するのがかに座で、見つけるのは難しいひかえめな星座です。ふたご座の東隣(左)のこじんまりとした小さな四角形を結べますが、実際に見つけるのはひと苦労です。思い切ってそこを通り過ぎると、その東にスンとしたような白い1等星が輝いているはず、それはしし座レグルスです。21個ある1等星の中で一番暗いのですが、黄道上に輝いているためロイヤルスターとされてきた気品ある光です。コル・レオニス、別名はライオンの心臓の星。ししの大鎌とよばれる半円+レグルスがしし座の目印で、ふたご座のカストルとポルックスのちょうど間に、かに座は身を潜めています。

カルキノスという化けガニが、かに座の正体とされています。親友のヒュドラという怪物が英雄ヘラクレス(星座名はヘルクレス座)に倒されそうになっているところを、助太刀いたす!と飛び出したものの一瞬で踏みつぶされてしまいました。友だち思いのカニの健気さを好ましく思ったヘラによってヒュドラとともに、春の夜空にあげられたといわれています。ちなみにヒュドラは88星座の中で最大のうみへび座で、かに座としし座の南に描かれています。春先には、ヘラクレスに退治された怪物たちであるかに座としし座とうみへび座が「ヘラクレス、最近調子に乗ってるよね…」と被害者友の会を結成してボヤいているかもしれません。

そんなかに座の甲羅の小さな四角には、宝石のような天体が隠されています。M44・プレセペ星団と呼ばれる散開星団は低倍率の双眼鏡でも楽しめる天体です。ぼんやりと拡がる雲のような部分は、中国では「積尸気」(ししき)、積み上げられた死体からたちのぼる妖気という意味だそうで、さらに、中国の星宿ではこのエリアの星々は鬼宿(きしゅく)とされていて亡くなった人の魂が天国へ入る入口に見立てられていたようです。

さて、3月20日(水)には春分の日を迎えます。昼と夜の長さがほぼ同じで、太陽が真東から昇って真西に沈み、これから昼が長くなっていきます。大切な基準点である春分を含む二至二分(春分秋分夏至そして冬至)を観測するための遺跡などが世界各地に残されています。

二至二分を含む二十四節気は、最近では食料品店などでも旬の食材を売るため広告に使用することもあり、耳にする機会も多いかと思います。カレンダーやスケジュール帳には申し訳ていどに書かれているといった感じですが、二十四節気とは、月の暦では生じてしまう季節のズレを太陽が生み出すサイクルで補正しようと古代中国で誕生した知恵です。日常生活ではさほど気に留めないかもしれませんね。大昔は冬至を始まりにしていたようですが、現代の暦では春分から1年が始まります。

春分の日、太陽は赤道を天にうつした天の赤道と太陽の通り道である黄道とが交差している点で輝きます。それが春分点と呼ばれるポイントで赤経0時かつ黄経0度、ココが現代の暦と天文学上の太陽の出発点となります。昼と夜の境界線が自転軸の向きと一致して昼夜の長さがほぼ等しくなるのです。黄経0度から東に進むごとにメモリをカウントしていって、そこから太陽が90度めぐった地点が夏至点、秋分点は春分点の反対側の180度、冬至点が黄経270度です。それぞれその間を、5つの節気が15度の間隔でそれぞれの季節を寿いでいきトータルで24の節気となります。

地球が太陽を公転するごとに、二十四節気はめぐっていく。つまり、二十四節気=太陽と地球を俯瞰してみた公転軌道上における地球の24の通過ポイントともいえます。自転軸が23.4°傾いたまま公転している地球と太陽との位置関係が、季節を生み出していますから、思う以上に私たちの生活に直結していることがお分かりいただけるでしょうか。発祥が中国なので、日本の季節とピタリ合っていませんけれど。

何だか小難しいなと感じる方、よかったら山手線を思い浮かべてみてください。

簡略化された円形の路線図は、仮に太陽を公転する地球の軌道を示していることとします。JR山手線ならぬこのTK(太陽公転)路線は全部で24駅の路線で、ほぼ中央(焦点と呼ばれるちょっと中心よりズレた位置ですが)で太陽が輝いています。春分を東京駅と仮定するとそこから半年後に、ぐるっと内回りで半分ほどまわって新宿駅あたりで秋分を迎えるというイメージ…。地球という電車が、太陽公転路線の東京駅の手前あたりといったところかな、なんて想像してみると、いかがでしょう?24の駅を巡る公転の旅の途中、春分駅間近の風景を楽しみながら春色の駅弁を食べようかな、なんて気分になりませんか。なんとな~くでも、二十四節気を身近に感じて頂けたら幸いです。

ちなみに二十四節気は、毎年国立天文台の暦計算室で算出されています。地球の公転軌道360°を24で等分するこの方法を定気法といい、毎年数日、日付が異なることもあります。(ちなみに1太陽年(時間)を24等分する方法を平気法といいます)また各節気は、暦の上では正確には次の節気までの期間を表すのですが、基準点として24分点のある日にちで表現するのが一般的です。

ところで、星占いでおひつじ座が先頭なのは、占星術が確立された2千年ほど前にはこの春分点がおひつじ座のエリアにあったから。地球の地軸が2万6千年ほどの周期でブレる歳差運動によって、今では春分点はうお座から、みずがめ座のエリアへと移行しつつあります。

それでは、最後に今月の月と惑星の動向をお伝えしましょう。

3月11日(月)夕方西の空で月齢0.7の繊月水星が、3月14日(木)夕暮れから宵時に月齢3.7の木星がそれぞれ接近します。3月22日(金)明け方の東、金星土星最接近3月25日(月)には、水星が夕方西の空18度の高さで-0.1等、今年一番の観測チャンスを迎えます。

今年、どうしても春分と二十四節気を詳しくお伝えしたくて、ただでさえ慌ただしい年度末に、ちょっとでもわかりやすくなるよう試行錯誤しているうちに3月中旬ちかくの公開となってしまいました。もしも待ってたよ、なんて方がいらっしゃいましたらお許しください。いつも読んでくださって本当にありがとうございます。励みになります。

それでは、素敵な春をお過ごしくださいね🌸

西 香織
コスモプラネタリウム渋谷「星を詠む和みの解説員」。幼い頃からプラネタリウムに通う。宇宙メルマガTHEVOYAGE 「エイハブの六分儀」で毎月の星空案内を担当。そそっかしく、公私ともに自分で掘った穴に自分でハマり(ついでに周囲の人も巻き込んで)大騒ぎしながらも、地球だからこそ楽しめる眺めを満喫する日々。



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