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エイハブの六分儀-2023.5月号 西 香織

【6月の星空案内】

毎日いろいろ頑張って、泣いたり笑ったり怒ったり。生きていれば誰にだって、失敗したり想定外のハプニングに見舞われたり、自分の感情や情熱に自分自身が振り回されてため息がふともれ出てしまう…そんな夜もあるのでは、と思います。喜怒哀楽は、生きているからこそ味わえる人生のスパイスですが、なんだか疲れちゃったな、肩がこるな、優しくなれないな…そんな時こそ星の光が、目に身に心に、優しく染みわたります。今夜も星粒のサプリをひと粒、いかがでしょう?

6月の梅雨時には、7つの星の北斗七星が少しずつ北の空高くから北西へ傾き始めます。大きなひしゃく星からこぼれ落ちる水が、雨となって大地に降りそそぐ、そんな角度ですね。西に向かうおおぐま座のおしりからしっぽに北斗七星を結びましたら、ひしゃくの柄の端から2番目のミザールという星から、曲げずに直進した先にある4等の星までのライン、その長さを倍ほど伸ばしたあたりにM101という銀河があります。2100万光年かなたの回転花火銀河とよばれる渦巻銀河に先月、日本の板垣公一さんが超新星を発見しました。2023ixfとよばれ、太陽の15倍もの質量の恒星の最期ではないかと考えられています。超新星と聞くと新しい星が誕生したようなイメージが浮かびますが、燃料を使い果たし自らの重さに耐えられずバランスを崩した巨大な星が大爆発を起こして一生を終えていく最後の輝きです。もちろん遠くの銀河のはるか昔のできごとですが、常にこの広大な宇宙のどこかで、星々が生まれ成長し、そして終わりを迎えている。星々のドラマは繰り広げられているのですね。

©︎KoichiItagaki

さて、ひしゃくの柄のカーブを南の方へ、思い切ってのばしていくと、うしかい座アルクトゥールス、さらにのばすとおとめ座スピカにたどり着きます。カーブは春の大曲線とよばれ、その曲線上のふたつの星は、渋谷でも簡単に見つけられるほどの明るさです。アルクトゥールスの和名は麦星麦刈り星。印象的な琥珀色をしています。スピカは真珠星、純白の輝きです。春の夫婦星とも呼ばれるアルクトゥールスとスピカ。何度この共演を楽しんでも飽きることはありません。そんなふたつの星の西よりに2等星のデネボラを加えると春の大三角のできあがりです。思う以上に大きな三角の3つめはしし座のしっぽの星です。

そろそろ東からは夏の星ものぼってきましたね。真夜中近くには、空の高いあたりに夏の大三角が見事です。こと座ヴェガわし座アルタイルはくちょう座デネブは、夏の天の川を彩り、夏への期待感も高まります。一方南の低い空にはさそり座アンタレス。年老いた赤色超巨星です。いつかアンタレスも、超新星となり華やかな最期を飾り、宇宙へ還ってゆくことでしょう。星空を見上げる私たちは、過去現在未来の交差点に立っているかのようです。

最後に、今月の注目の惑星イベントの現場はかに座のエリアです。6月2日(金)から3日(土)にかけて火星(1.6等)。6月13日(火)から14日(水)には金星(-4.4等)が、散開星団プレセぺ星団(M44)を通過していきます。かにの甲羅の小さな四角の中央のあたり。双眼鏡で楽しめるおススメの天文現象です。
また、6月22日(木)には、火星と金星、そして月齢4の細いが大集合。肉眼で楽しめるさらにおススメのイベント。いずれも、西の空を楽しみにしていてくださいね。

西 香織
コスモプラネタリウム渋谷「星を詠む和みの解説員」。幼い頃からプラネタリウムに通う。宇宙メルマガTHEVOYAGE 「エイハブの六分儀」で毎月の星空案内を担当。そそっかしく、公私ともに自分で掘った穴に自分でハマり(ついでに周囲の人も巻き込んで)大騒ぎしながらも、地球だからこそ楽しめる眺めを満喫する日々。


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