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THE VOYAGE 5周年カウントダウン企画『5周年でGo! JAXAみおプロジェクト・村上豪さんにインタビュー』 [久保 勇貴]

Space Seedlingsの久保勇貴です。THE VOYAGE 5周年カウントダウン企画の5月号は、JAXA職員でもある僕が、同じくJAXAの仕事仲間である村上豪さんにインタビューを行いました。

THE VOYAGEと同じく、今年で打ち上げから5周年を迎える水星磁気圏探査機「みお」。そのプロジェクトサイエンティストである村上豪さん(Go!さん)に5月にお話を聞くというGo!Go!ノリのインタビューです。それでは、レッツラ・ゴ~。

みおプロジェクトは「5」だらけ

久保:今回は、5周年の5月に豪さん(Goさん)にお話を聞くというまさにGo!Go!尽くしのインタビューです。

村上:もう、これ以上「5」は要らないかな?笑

久保:いや、実はまだまだ物足りないので「みお」に関連する「5」をたくさん調べてきました!

村上:おっ、いいね笑

久保:まず探査機の質量が「255 kg」、ワイヤーアンテナが「15 m」、磁場計測マストが「5 m」、大きく分けて科学観測装置が「5つ」、そして打ち上げロケットは「アリアン5」

水星磁気圏探査機「みお」(©JAXA)
ヨーロッパとの共同プロジェクトであるBepiColomboの搭載探査機の一つ。

村上:あ、そういえばアリアン5ロケットの「VA-245」っていうフライト番号の打ち上げだったと思う。

久保:なんと、それは知らなかった!ついでに言うと、「みお」を数字で書くと「30」なので5の倍数ですね。

村上:最後のはちょっとこじつけだな笑

久保:すみません笑

とある授業がきっかけ

久保:とまあ、このように「5」尽くしのミッションなわけですが、その5つの観測装置のうち、豪さんが主に担当しているのはどの機器なんでしょうか?

村上ナトリウム大気カメラだね。最初に関わったのは実はかなりさかのぼり、学部3年生の実験の授業だった。後の指導教員になる先生がちょうどその授業の担当で、授業なのに本物の観測装置の試作モデルを使った実験をやってたんだよね。「この実験の結果がそのままミッションに反映されるから」なんて言われて、本格的な開発に近いことをやってた。今思えば先生のリップサービスも少しあったとは思うけど、実際そういうレベルの開発をやっていたフェーズではあったので、あながち嘘でもなかったな。

村上豪さん、修士1年生の頃の実験の様子

久保:先生からすると、授業しながら学生に開発を手伝ってもらえるので一石二鳥だったかもしれない笑

村上:それもあるだろうけど笑 ただ、実際の装置を使って実験させてもらえたから、学生にとってもすごく良い機会だった。その授業を通して「開発ってこういう感じなんだ」と知って、俺はそこから開発の道にハマっていったかな。理論研究は自分には無理だなと思っていたから、開発ならいけるかもとこの授業で実感して、進路を決めたね。

久保:僕のいた学科の学部3年生の実験は、教科書に載ってるようなありきたりな実験ばかりだったから、めちゃくちゃ羨ましいですね。

村上:その先生がちょうど着任1年目で、手探りな状態だったからそういう授業ができたというのもあるんだよね。だから、運が良かったかな。

嬉しい悲鳴の5年間

久保:さて、そんな「みお」の打ち上げから5年が経とうとしていますが、この5年間は順調に進んでいますか?

村上:そうだね。思っていたよりも順調だけど、思っていたよりも圧倒的に忙しい。打ち上げの当初は、スイングバイ(天体に接近する運用)のタイミングだけで観測して、それ以外は休眠状態というのがプロジェクトの基本方針だったんだよね。ただ、装置の動作確認も済んで、最初の地球スイングバイの時に観測してみるとクルーズ中でも十分に観測できることが分かったので「もうちょっと色々できるんじゃない?」っていう雰囲気になった。

久保:何もやらないのはもったいないですもんね。

村上:そうそう。それで、これだけ観測できるんだったらこういう面白いデータも取れるだろう、っていうのをチームで検討して提案していった。特に今は、地球より内側にNASAのパーカー・ソーラー・プローブとESA(欧州宇宙機関)のソーラー・オービターっていう探査機が良い位置関係で飛んでて、こんな機会に一緒に観測しない手はない!と訴えて色んな観測をやったね。

久保:色んな地点で同時に観測すると、色々なことが分かりそうですね。

村上:そうそう。そもそも地球より内側に探査機がいること自体珍しいから、それがたくさんある今の状況は稀有だね。「黄金期」って呼んでるよ

久保:科学者としては嬉しい悲鳴ですね。豪さん思い入れのナトリウム大気カメラも既に活躍してるんですか?

村上:いや、残念ながらまだ使えてないんだよね~!ほとんどの観測装置は探査機の側面に付いているからもう使えてるんだけど、ナトリウム大気カメラは底面の隠れた場所に付いていて、水星に着くまでは何も見られない。

久保:なるほど、初めて使う時までドキドキですね。

村上:そうそう。逆に言うと到着が楽しみだね。

スイングバイ三部作の集大成

久保:さて、また別の「5」の話なんですが、これまでの5年間では、計9回あるスイングバイ(天体に接近する運用)のうち5回のスイングバイを成功させてきました。次回のスイングバイがまた日本時間の6月20日にありますが、その見どころはどこなんでしょうか?

村上:水星へのスイングバイは今回で3回目なんだけど、この3回のスイングバイは「水星スイングバイ3部作」と勝手に呼んでるんだよね。というのもスイングバイの高度とか方向が3回とも似ていて、観測結果の比較がやりやすい。これまでの1回目と2回目で既に結構違ったデータが取れているから、3回目はどんなデータが取れるのか楽しみだね。運用も少しずつ改善しているから、次が一番良いデータが取れるはず。

久保:それは期待大ですね。あと、これまでの水星スイングバイでは、豪さんが中心となって運用室からの生中継YouTubeライブもやってますよね。次回のスイングバイも配信するんですか?

村上:次回のスイングバイ最接近の時は残念ながら日本時間の早朝ぐらいなのと、リアルタイムでデータを見られるタイミングでもないので、どの時間にどう配信しようかは悩んでるんだよね。前夜祭とか、何かしらはやりたいな。

BepiColombo「みお」第2回水星スイングバイ生中継の様子

久保:あのライブ僕も見てましたけど、研究者がまさにリアルタイムで見ているデータを一緒に見られるの、めちゃくちゃ良いですよね。

村上:ワクワク感あるよね。運用室のプロジェクトメンバー含め、全員で同じもの見てるからね。視聴者の皆さんにもプロジェクトの一員になった気分を味わってもらえると思ってます。

SF映画と日韓ワールドカップ

久保:ところで、豪さんは名前が「Go」というだけあって、僕から見ても「イケイケGo!Go!」というイメージで色んな事に取り組んでいる人だなあと思っています。

村上:ありがとう笑

久保:そんなイケイケな豪さんが、宇宙探査をやる根源的なモチベーションってどこから生まれたんですか?

村上:惑星に興味を持ったきっかけは、小学生の頃に見たSF映画かな。特に「トータル・リコール」っていう火星に人が住んでいる設定の映画の中で、「そんなバカな!」って思うシーンがあったんだよね。俺はそれで結構冷めてたから、小学校の調べ学習の授業で「あの映画がいかに嘘だらけか暴いてやる!」って意気込んで笑

久保:攻めてるなあ笑

村上:でも、図書室で火星について調べるとあながち間違ってないことが色々あると分かって。「火星に元々海があった」なんて話も知らなかったから、「え、そうなん!?」って衝撃を受けて。そこから、惑星の研究したいって思い始めたな。

久保:結構早いですね。

村上:かと言って中高で天文部に入って、みたいな感じではなかったけどね。大学選びの時も研究分野とかよく分かってなくて、「宇宙イコール天文」だと思ってた。それで天文学科を調べたら、当時の情報源だと東大と東北大ぐらいしか見つけられなくて。それなら近所だし東大目指すか、っていう感じだったな。

久保:たしかに僕も昔から宇宙飛行士に憧れてたけど、天文部とか入っていたわけでもなく、「宇宙飛行士なら東大の航空宇宙やろ~」ぐらいのテンションで東大目指してたな。

村上:それから、さっき言った学部3年生の授業含め、いくつか自分の進路を決定づける出来事があって、その一つが大学1年生の時、2002年の日韓ワールドカップだったんだよね。あの時、渋谷のスクランブル交差点でみんなでハイタッチするっていう文化が生まれた最初の年で、当時のあれは本当に自然発生的にみんなで喜びを共有しようとした行動だったんだよね。

久保:今は結構パリピっぽいイメージあるけど、当時はそうだったんだ。

村上:あの瞬間、「今、日本が一つになっている!」っていう実感があった。世界を相手にしているイベントだと、国は一つになれるんだなってね。それなら宇宙を相手にしたら、地球が一つになれるんじゃないか、って思って。今思えば幼稚な考えなんだけど、でもアポロが月に着陸した時は多分地球は一つになってたんだと思うんだよね。

久保:あれもまさに、自然にみんなが一つになったイベントですよね。

村上:アポロほどのプロジェクトは今はなかなか無いけど、やっぱり宇宙ってみんなを一つにできるようなところがあると思う。そういうことをやりたいっていうのが根源的なモチベーションの一つかな。

5年後の教科書に期待

久保:それでは本日最後の「5」として、5年後に豪さんが達成したい野望を聞いてもいいですか?

村上:5年後というと、ちょうど「みお」も観測を色々やって成果を出しまくってる時かな。打ち上げの時の記者会見で「教科書を書き換えたいです」みたいなことを俺が言っちゃったから、言っちゃった以上書き換えなきゃな。教科書の「水星」のページってまだまだ薄いから、それを3倍ぐらいにしたいね。

久保:5年後の教科書には、豪さんが腕組んでふんぞり返ってる写真が載ってるかもしれない笑

村上:載ってるかもね笑 少なくとも、小中学生みんなが「みお」って名前を知ってるぐらいにはしたいね

村上 豪(むらかみ・ごう)
1984年、神奈川県生まれ。JAXA宇宙科学研究所、太陽系科学研究系・助教。東京大学理学部地球惑星物理学科卒業。同大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。宇宙科学研究所にて日本学術振興会特別研究員、宇宙航空プロジェクト研究員を経て、2017年より現職。月周回衛星「かぐや」や国際宇宙ステーション、惑星分光観測衛星「ひさき」の搭載装置を開発。現在は、国際水星探査計画ベピコロンボ「みお」のプロジェクトサイエンティストを務める。

インタビュアー:久保 勇貴(くぼ・ゆうき)
1994年、福岡生まれ、兵庫育ち。JAXA宇宙科学研究所研究員。2022年、東京大学大学院・博士課程修了。博士(工学)。宇宙機の力学や制御工学を専門としながら、JAXA宇宙科学研究所のさまざまな宇宙探査プロジェクトに携わっている。作家としても活動し、2023年3月にエッセイ集「ワンルームから宇宙をのぞく」(太田出版)でデビュー。THE VOYAGEではSpace Seedlingsのリーダーを務める。

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