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宇宙読書感想文コンテスト 結果&講評

夏休み宇宙読書感想文へご応募くださった皆様、ご応募ありがとうございました。
今回応募くださった方々の中から、一般部門・中高生部門・小学生部門の各部門の最優秀賞と優秀賞を選出いたしました。すべての作品を審査してくださった小野雅裕さんから、受賞者のへの講評を頂きましたので掲載させて頂きます。

受賞者の皆様、おめでとうございます。(編集部)

【一般部門】

小野雅裕『宇宙に命はあるのか 人類が旅した一千億分の八』SB新書

最優秀賞

村山真優さん「おばあちゃんへ」

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<講評> 半年の娘さんを持つママの作品。「宇宙新時代」に暮らす孫娘から時空を超えて届いた手紙に仮託して、現代の人類文明が抱える問題に警鐘を鳴らし、市民一人一人に行動を求める。「読書感想文」という形式から大胆にはみ出し、自由なイマジネーションと強いメッセージの込められた名文。舘秀孟さんの作品とどちらを最優秀賞にするか最後まで迷ったが、読後により強く心に残ったのがこちらだった。現在の村山さんから宇宙で暮らす孫娘さんまでの間にどのようなストーリーがあるのだろうと想像が巡った。ただメッセージを伝えるだけではなく、読者がさらにイマジネーションを拡げる空間も提供しているという点で、村山さんの作品は優れていた。

優秀賞

舘秀孟さん「夢とその意義」

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<講評> メッセージの力強さは村山さんの作品に劣らない。僕は自著で「遠くの世界のことを想像しよう」と訴えた。それを受け、舘さんはアンチテーゼを提示する。悪魔に魂を売ったフォン・ブラウン、そして研究のために子供との時間を犠牲にしたキュリー夫人を例に挙げ、「どこまで自分の夢を優先させていいのか」と問う。宇宙物理学の研究者になることが夢だという舘さん。最後は「遠くを見る程根本的な答えが見えてくるが、時には近くを見ることも絶対に忘れてはいけない」という見事なアウフヘーベンで締めくくってくれた。

大多和良さん「宇宙時代」

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<講評> かつて宇宙少年だった「四十三歳のおじさん」の、軽快で楽しい作品。1986年のハレー彗星の回帰を見て宇宙が好きになったが、興味を共有できる友達がおらず、彼の「第一次宇宙時代」は終わってしまった。拙著を読んで「第二次宇宙時代」が始まったと書いてくれたのは嬉しい限りだが、何より楽しいのは、「宇宙人からのメッセージには何が書かれているか」という書中の問いかけに対する大多和さんの想像。「壮大な宇宙ドッキリのネタばらしが書かれているのでは」と彼は言う。我々が信じていたもの全てが、宇宙人が巧妙に仕込んだドッキリだったら!?それはいったいどんなドッキリだろう?村山さんの作品と同様に、イマジネーションを拡げるすき間のある名文だ。

【中高生部門】

最優秀賞

Infinityさん 「宇宙が与えた僕へのメッセージ」

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<講評> 中高生部門は残念ながら一点しか応募がなく、内容次第では最優秀賞・優秀賞は該当なしでもいいと思っていたが、Infinityさんの作品は最優秀賞にふさわしい内容だった。Infinityさんは高校生で、進路に悩む年頃。本書を読んだ夜、外へ出て夜空を見上げ、「かるく一時間はその場所で空を眺めた」という。そして、「ちっぽけなことで悩む」のをやめ、「でっかいことをする」と誓ったそうだ。まるで本書に書いたロケットの父・ゴダードの逸話そのもののようである。若者は皆、将来を悩む。悩みに素直であることが若さの価値だと思う。しかるに老いると初心を忘れるものだ。夜空を見上げた時の気持ちを忘れず、ぜひ「でっかいこと」を成し遂げて欲しい。それと、「彼女をほしいなあ」と思う気持ちは決っして「ちっぽけな悩み」ではないことを、付記しておく。

【小学生部門】

最優秀賞

蔵原慎士さん「プレッシャーを生かす」

森治『宇宙ヨットで太陽系を旅しようー世界初!イカロスの挑戦』岩波書店

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<講評> 「宇宙関係の本をよく読む」という小学4年生の蔵原さん。その中でも取り上げて面白かったのが、日本が世界で初めて打ち上げた「宇宙ヨット」ことイカロスについて書かれた本書だったそうだ。ピギーバック(相乗り)による打ち上げに興味を持ったという点、将来はシステムズ・エンジニアの素養があるかもしれない。蔵原さんは野球少年で、飛んできたボールを絶対に取らなくてはいけないというプレッシャーがあるほど良いプレーができるという。同じように、イカロスを開発したエンジアたちも、限られた予算と時間というプレッシャーがあったからこそ、最高の技術的解を見つけることができたのではないかと書く。「プレッシャーをチャンスとして生かすためにしっかり努力をします」と清々しく宣言してくれた蔵原さん。君の未来の挑戦を、僕も心から応援します!


優秀賞


ちびソコルくん「スタンリーとちいさなかせいじん」

サイモン・ジェームズ (著, イラスト)千葉 茂樹 (翻訳)
『スタンリーとちいさな火星人』あすなろ書房

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<講評> 小学一年生のちびソコルくんが読んでくれたのは絵本作品。お母さんが出張から帰ってくると、待っていたのは息子のスタンリーではなく小さな「カセイジン」だった。そんなちびっこの空想に母親への愛情を滲ませた、心温まる話だ。「スタンリーがのりこんだうちゅうせんに、ぼくものってかせいにいきたいなとおもった」というちびソコルくん。彼も、お母さんが東京への出張から帰ってきた時、「たったいちにちだったけどかえってきてくれて、うれしかった」そう。小学一年生とは思えないしっかりした文章にも驚かされたが、何よりも読んでいて心が暖かくなった。その素直な表現力が、この作品を優秀賞に選んだ理由である。


安部紘史さん 「ぼくの宇宙プロジェクトに向けて」

『宇宙プロジェクトがまるごとわかる本』エイ出版社編集部

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<講評> 優秀賞の残り一席を安部さんと小出さんのどちらの作品にするか迷ったが、中高生部門の優秀賞が空席であることもあり、両者とも入選とした。安部さんは小学校4年生で、将来は宇宙物理学者になりたいそう。夏休みに種子島宇宙センターへ行き、「宇宙についてもっと知りたくなった」そうだ。小学生部門への応募作品の中で、文章が一番上手だった。科学者の仕事は発見をするだけではない。発見を論文に書いて世に知らしめるのも大切な仕事だ。ぜひ、素晴らしい文章力にさらに磨きをかけ、夢を実現させる力にしてほしい。

小出遙真さん 「情熱と行動」

鹿毛 敏夫 (著), 関屋 敏隆 (イラスト)『月のえくぼを見た男 麻田剛立』くもん出版

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<講評> 小学校5年生の小出さんが読んだのは、麻田剛立という江戸時代の天文学者についての本だ。月のアサダ・クレーターにその名を残している。僕は麻田剛立という人物を知らなかった。そのせいもあるが、本を選ぶセンスのが良いとまず感じた。短い人生で読める本の数は限られているから、本を選ぶセンスは実はとても大事だ。「宇宙について知ることが何よりも楽しい」という小出さんは、当時罪とされた脱藩までして知識を追い求めた麻田のように、「自分に正直」に生きたいという。「ぼくは、この命をどうつかっていこうか考えた」とも書いている。大人顔負けの考えの深さに脱帽したが、むしろ大人の方がむしろこの重要な問いから逃げている人が多いのではないかとも思った。我々大人に残された時間は小出さんよりはるかに短い。彼の人生に対する正直さに、学ぶべきことは多い。



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