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環で拓く宇宙での植物栽培[江島 彩夢]

今回はSpace Seedlingsとして、株式会社DigitalBlast様に取材させていただきました。「宇宙」と「社会」を繋げることを目的として掲げ、宇宙を利用して新規事業を立ち上げたい企業を支援するコンサルティング業務等を行う同社。今回は数ある事業の中から、現在開発が進んでいる宇宙植物実験プラットフォーム「環 - TAMAKI」についてお話を伺いました。

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|DigitalBlastとは
S.S. 江島:本日はよろしくお願いします。それではまずDigitalBlastについて教えてください。

DigitalBlast (D.B.) 堀口社長:DigitalBlastは一言で表すと「宇宙に価値を提供する会社」です。既存宇宙業界とそこに新規参入したい民間企業を繋ぎ、宇宙ビジネス拡大を牽引していくプラットフォームの提供を目指しています。具体的にはコンサルティング業務を通して宇宙で新規事業を作りたい企業を支援するような事業を主に行っています。こうした業務を行う背景としては、昨今宇宙ビジネスの市場規模が拡大しているにも関わらず、多くの企業が宇宙を利用したサービスを事業化するまでの道筋の描き方が分からない、という課題が挙げられます。そのためDigitalBlastでは事業構想から宇宙環境実験や事業化までの一連のプロセスを支援することで、民間企業が宇宙ビジネスに参入しやすい環境作りを目指しています。こうした事業の一環でライフサイエンス実験装置としての「環」を開発しています。

|宇宙植物実験プラットフォーム「環」
S.S. 江島:それでは早速、現在開発されている宇宙植物実験プラットフォームについて教えてください。

D.B. 堀口社長:弊社は月面での「生態循環維持システム」の実現を目指しています。その最初のステップとして宇宙植物実験プラットフォーム「環」を開発しています。NASAのアルテミス計画等が進む中、宇宙に長期滞在する際の食の確保に対する課題意識が高まっています。しかしこれまで宇宙環境、特に月面等の低重力環境での植物栽培に関する研究はあまり実施されておらず、研究ニーズが高まっています。そこで我々は国際宇宙ステーション(ISS)の微小重力環境下で遠心力を用いて低重力を模擬できる植物栽培装置を開発し、研究者にデータを提供するサービスを考えています。研究目的以外にも、宇宙で栽培された植物は栄養価が高くなるという報告があり、宇宙で栽培した植物は地上転用の可能性も秘めています。現在は2023年に国際宇宙ステーション(ISS)での実験、2030年に月面基地での実験開始を目指しています。

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S.S. 江島:環の具体的な設計についてもお話しいただいて良いでしょうか? D.B. 堀口社長:現在の設計では、装置の回転中心部にLEDを置き、その周りに植物を配置します。植物の栽培部はカートリッジ式になっており、植物を簡単に交換できます。つまり、一度装置を宇宙へ持っていくことができれば、カートリッジを入れ替えることで様々な植物に関して実験を行うことが可能になります(以下の図を参照)。また、他には無い我々の装置の強みは背の高い植物を栽培できるところにあります。

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▲宇宙植物実験プラットフォーム「環」(DigitalBlast)

S.S. 江島: 遠心力を用いて重力を模擬する実験では、回転半径方向にかけて植物にかかる力の大きさが変化してしまう、というのが一つの課題に挙げられますが、背の高い植物を栽培する際に工夫されていることはありますか?

D.B.大熊さん:環の設計にあたっては、植物栽培の専門家とも頻繁にコミュニケーションを取っており、植物の重力屈性が支配的な根の部分や成長した芽の部分等、模擬したい重力環境と一致する部分を変更できるような仕組みの設計にしています。

S.S. 江島: なるほど研究者も巻き込みながら開発を行っているのですね。ちなみに現在栽培したいと考えていらっしゃる植物は何かありますか?

D.B.堀口社長:具体的な植物ですとトマトや苺などを検討しています。我々のサービスは環で植物を栽培できる「区画」を売ることが主ですが、同時に栽培した植物を地球でも売ることのできる環境作りにも貢献したいと考えています。そういった点でこれらの植物はニーズがあると考えています。

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|最後に
今回の取材の前編では株式会社デジタルブラストの概要と具体的な事業として開発が進んでいる「環」についてお届けしました。11月号では後編として、デザイナー・エンジニア双方の観点からみた宇宙で用いる装置の設計手法や、宇宙開発の未来についてお届けします。お楽しみに!

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堀口真吾
株式会社DigitalBlast代表取締役CEO。
野村総合研究所、日本総合研究所等にて、主にデジタルテクノロジーを活用した新規事業、マーケティング戦略の立案・実行に従事。特にハイテク産業、宇宙産業を専門とする。2018年、DigitalBlastを創業。

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大熊隼人
株式会社DigitalBlast取締役CSO。
宇宙航空研究開発機構JAXAにてI SS日本実験棟きぼうの地上管制官として宇宙実験運用管制業務に従事。 また、きぼうに搭載する実験装置の開発や宇宙実験データを用いた研究を実施。
その後、外資系コンサルティングファームおよびベンチャーコンサルティングファームにてITコンサルタントとして従事。
DigitalBlast執行役員を経て、2021年6月取締役に就任。

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山下コウセイ
株式会社DigitalBlast CCO 、宇宙開発団体
リーマンサットプロジェクト(RSP) クリエイティブディレクター。
2014年多摩美術大学卒業。ヤマハ発動機にて海外市場向けプロダクトデザイン及び企画に従事し、欧州駐在時にMT-07のデザインを担当。宇宙への憧れから、RSPに参画し宇宙開発領域でクリエイターが活躍できるか”デザイン実証実験”を重ねた。開発及び打ち上げに成功した世界初のデザイン人工衛星”Selfi-sh”は宇宙で自撮りミッションを遂行中。2021年より現職にてChief Creative
Officer。世界でもまだ少ない宇宙領域専門のデザイナーとして活躍中。

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江島 彩夢(えしま さむ)
米コロラド大学ボルダー校 Bioastronautics 博士課程2年
【専門・研究・興味】
環境制御/生命維持装置(ECLSS)の自律化に関する研究
【活動】
Homer Spaceflight Project
SGAC

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