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燻された

肌寒くなる晩秋に懐かしくなるその薫香は幼少時より馴染み深い抹香の様。

嫌いでは無い。

騒めいていた心や気持ち感覚がすうっと落ち着く様な、安らぐ様な。

初めて口にした時の事はようく憶えている。ある店での事だった。四文字熟語っぽく読み難い漢字の名前が多い中、一際目立って読み易い漢字の四文字。だが、そのままで良いのか、。、訊いてみると日本語読みよりアチラの読みがしっくりとする。面白そうだから頼んでみたら、‘アク強いよ。征露丸とか松脂とか煙たい匂いで嫌がる人もいるけど大丈夫かな’と云うから、余計に飲んでみたくなった。

茶缶から茶葉を取り出すや否や独特の燻された香りが漂い始め茶葉の観察もそこそこに、淹れてもらった。お湯が蓋碗に入ると部屋に充満する薫り。これでは他のお茶の薫りは掻き消されてしまう。

道理で、他のお茶と毛色が違い薫りが独特過ぎて客人が居ない時でないと淹れてあげられないわと云う訳か。

だが、味は柔らかで甘みがあり薫りのそれとは好対照なので、クセになるお茶。

そのお店で、熱いのも良いけど実は冷たいのも美味しいと聞いた。実際やってみると冷たいのもアリだが、ガブ飲みしてしまうから気を付けなければならない。


日中、暖かいのに朝晩は冷え込むこの時期、早朝に淹れると余計な気を削いでくれるから無駄な事をしないで居られる。

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かれこれ15年以上前だったと思う。写真家だったか作家だかが引越しを機会に青茶や黒茶だけでなく茶器の多くを投げ売るというので知人に幾つか頼んだ一つがこの正山小種。当時より日本で手に入るモノより香りは穏やかだが、年月と共に穏やかになっているがいまだに力強くしっかりとした味わい。茶色いお茶では使わない硝子の蓋碗で淹れてしまったが、まあ美味しいこと。


暦の上では、もう冬って、。、早い、、。

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