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私の好きなミルクさんの歌 007

前回に引き続き夏を題材にした歌をご紹介したいと思います。
山下達郎さんの「僕の中の少年」に着想を得た歌だとおっしゃっていました。

・夏休みラジオをばらすときめきに勝てずにいるよ未来の僕は

女性にはなかなか理解し辛い「ラジオをばらすときめき」がキラーフレーズとなっているものですが、多くの少年がくぐってきたであろう成長のトンネルを著す言葉として、音感やリズムも心地よく、流れるように下句へ導かれます。

普段はそこまではやらないけれど、夏休みという特別な期間には普段の尺度を超えてチャレンジする猶予というか、度胸というか、覚悟というか、何かがアドオンされたような勢いを持つのかもしれません。ときめくことは他にもありますが、壊れていたとしてもラジオをバラバラにすることへの罪悪感を幼い探求心が上回るときの高揚感を見事に表現されています。そして下句で一気に、つまらない大人になってしまった未来の僕からの回想へと繋がれています。
「気付き」「悟り」というプロセスやエッセンスを大事にされるミルクさんならではの学びの姿勢が見て取れるのです。常識や正論の内側の言わば「安全圏」に身を置いていれば、危険なリスクにさらされることはないかもしれません。けれども心が奪われるようなときめきに出会うことは決してないでしょう。はみ出すことを許容しない社会のつまらなさと、はみ出す勇気からとっくに逃げてしまっている情けない自分を「勝てずにいるよ」と端的な言葉で語り、「未来の僕は」と倒置して配置することで実感よりもまだ先に、ついに心の声が漏れ出したという雰囲気を感じさせることで、さらにときめきに光がちりばめられるのだと思います。

タイムリーなことに、「もし1日だけ、人生のどこかに戻れるとしたら・・」の言葉と共に爽やかな紅茶のCMが流れています。

誰にでもある「青春の宝箱」。ときめきをゆっくり探してこの歌のように書き留めれば、その一瞬も永遠になり得るのではないでしょうか。そんなヒントを下さった傑作です。

ミルクさん 短歌のリズムで  https://rhythm57577.blog.shinobi.jp/