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ねこさん・わんちゃんのアレルギー その5 いまホットな話題:腸の免疫①


はじめに

前回の記事では、「体に敵が侵入すると何がおこるか」と、「抗体ができるまで」について解説しました。

体の中に敵が侵入してくると、まず自然免疫が働いて、マクロファージや好中球こうちゅうきゅうが敵をどんどん食べてやっつけます。
この自然免疫の働きで敵を全滅させることができれば、そこで免疫反応は終わります。

ところが敵が手ごわくて、自然免疫だけで全滅させられなかったときには、いよいよ獲得免疫の出番です。
ヘルパーT細胞とB細胞が協力して抗体を作ります

抗体は敵にくっついて増えられないようにしたり、他のタンパク質と協力して敵を直接やっつけたりします。
またマクロファージや好中球は、抗体がくっついている敵を優先的に食べるようになります。

このように、抗体ができると敵との戦いがとても有利になります。
しかも、一部のT細胞やB細胞は戦った敵の情報を覚えています。そのおかげで次に同じ敵が侵入したときには、すぐに抗体を作ることができます

ワクチンは免疫細胞たちのための予行演習みたいなものです。
敵の情報を、注射などで体の中に入れると、T細胞やB細胞が敵を覚えて実戦にそなえて準備を整えます。
そのため、次に本物の敵が侵入してきたときには、すばやく抗体を作ることができるのです。

さて、今回のテーマは「腸の免疫」です。

最近、腸の免疫が健康を保つために非常に大切な働きをしていることや、アレルギーをはじめ、いろいろな病気と関係していることがわかってきました。
ヒトでは、腸内の環境がうつ病やアルツハイマー病などとも関係しているらしいと考えられていて、いまホットな話題となっています。

「腸の免疫」には特別な仕組みがあります。
今回と次回の記事では、そんな腸の免疫について、アレルギーとのかかわりが深い部分を中心に解説します。


■「抗体」ってどんなもの?

前回の記事で、抗体の働きについては解説しましたが、抗体がどんなものなのかについては、まだお話していませんでした。そこで、抗体がどんなものかについて、少し解説しておきます。

抗体はタンパク質の一種で「免疫グロブリン( Immunoglobulin )」とも呼ばれ、構造と働きの違いによって5種類に分類されています。
名前を覚える必要はまったくありませんが、IgアイジーM、IgD、IgG、IgE、IgA の5種類です(Ig は Immunoglobulin の略)。

それぞれの抗体の解説はしませんが、IgEIgA については、あとで少し解説します。

抗体の種類によって少しずつ違いはあるのですが、抗体の基本的な構造は下の図のとおりです。

抗体の基本構造(模式図)

抗体は大きく①~④の4つのパーツ(①と④、②と③は同じ)からできています。
図の水色の部分は「定常領域ていじょうりょういき」と呼ばれ、同じ種類の抗体であれば、どれも同じ構造をしています。
一方、図のピンク色の部分は「可変領域かへんりょういき」と呼ばれ、1000億以上の種類があります

B細胞に装備されている敵の名札を読み取ることができるセンサーも、じつは抗体です。B細胞が1000億種類以上の敵の名札を見分けることができるのは、抗体の可変領域が1000億種類以上あるからなのですね。

抗体の可変領域は1000億種類以上!
「敵の名札」とピッタリ合う抗体がくっつく



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