日本有数の観光地、それが私の地元である。
少し電車やバスを乗り継ぐと、すぐに観光客にあふれてくる。

何度も行き来して、慣れた街並みを歩きながら、旅行中の人たちの顔を見るのが好きだ。
意外とみんな、どきどきわくわく、という顔をしていない。

真顔、ちょっとした笑顔、少し疲れた顔、途方に暮れているようにも見える顔。

この街は、テーマパークのような次から次へとやってくる刺激はないし、確かに慣れてきたらそんな顔をさせてしまう街かもしれない。

けれど、旅人たちの顔にはどこかやすらぎがさしている。張り詰めた糸がふっとゆるんだときのようなつややかさを持っている。

そうなのだ、ここはそういう街だ。
ずいぶん昔から変わらずに、日本の生活の面影を伝えて、外から来た人を歓迎する。静かに、けれどどっしりと構えて。

「ようこそ、この街を楽しんで」

心の中でそう声をかけながら、私は慣れ親しんだ街を一歩ずつ踏みしめる。

#旅する日本語 #寸景 #エッセイ