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天皇賞(秋)〜57秒4の歓喜〜

見渡せば、東京にはまだ花も紅葉もないが、陽光に照らされ、天高く馬肥ゆる季節、第166回天皇賞(秋)がここにはあった。

通過時計を見た時に、一瞬不安が脳裏をよぎった。大欅の向こうには行ってくれと思わんばかりで固唾を飲んだ。

近年は上がり最速が32秒台を記録することもあり、末脚勝負、キレ味が求められる時代にある。勝利したイクイノックスはまさに末脚を活かすお手本のような競馬で、初のG1制覇を飾った。3歳初戦が皐月賞、さらにダービーを大外枠、そして最後方から差して2着に食い込んでレコードタイムペースで走り切るのだから、やはり強い。天皇賞においても、道中向正面は折り合いと脚を溜めることに専念し、余裕を持って馬場の外側に進路を出し、悠々と差し切ってみせた。3歳の時点でこれだけの成績で、父キタサンブラックも古馬になって多くの勝ち星を上げたことから、この馬も本格化は来年春からではないだろうか。次回は有馬記念を目標にしそうであり、年末の大舞台も更なる成長に期待したい。

そんな中、勝ったイクイノックスと真逆の競馬に打って出たのが、パンサラッサ。近走、スタートダッシュがつかず、年齢もあるのか少しズブくなってきた印象であったが、さすが世界の矢作厩舎、カイゼン力は天下一品であった。普通に1000mを57秒台で行かせようとはならないが、この馬への信頼と思い切りのある鞍上吉田豊騎手だからこそできる途轍もない競馬であった。このようなオンリーワンな競馬ができる個性的なコンビがいることで、令和の競馬もより一層盛り上がっていって欲しい限りである。次走は香港カップが有力視されている。今のパンサラッサに競りかけることができる馬は、世界を見渡しても探すのが難しいことに加え、シャティンと同じドバイの芝でも勝っていることから、彼の地に君が代を流してくれると信じて待つのみである。

さて、1000m 57秒4という数字と天皇賞(秋)・・奇しくもあの名馬も同じ時計で通過していたらしい。なんという偶然であろうか、だがこれこそがまた競馬やスポーツの面白いところ。神は細部に宿っているのだ。

そして、約60秒後、大欅の向こう側に沈黙はなく「歓喜の日曜日」が訪れていた。「歴史は繰り返さないが韻を踏む」まさに今日のこの秋の夕暮れのことではないだろうか・・・

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