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ウイングス「ロンドン・タウン」

Release Date
November 1978

Song List

London Town
Cafe on the Left Bank
I'm Carring
Backword Traveller
Cuff Link
Children Children
Girlfriend
I've Had Enough
With A Little Luck
Famous Groupies
Deliver Your Children
Name and Address
Don't Let It Bring You Down
Morse Moose and the Grey Goose

76年3月から10月までツアーを駆け抜けたウイングスはしばしの間休暇に入る。再び新作のレコーディングのためにバンドが招集されたのは77年2月。しかしアビーロードにて続けられたセッションは煮詰まり、打開策を模索したポールは思いつきで洋上レコーディングを提案する。5月からは船に機材を持ち込み、「日が出てる間は海で遊び、日が暮れたらセッション」という何とも呑気なスケジュールが示される。しかし、明確なスケジュールが切られていない中、ポールの気分ひとつで行われるレコーディングに、アメリカ人のジョー・イングリッシュはホームシックにかかり、下船後バンドを脱退。アルコールとドラックが大好きな若者であったジミー・マッカロックもスティーブ・マリオット(スモール・フェイシズ)と酒場で意気投合、泥酔状態でポールに電話越しに脱退を告げる。

再び3人になったウイングス、しかしリンダは妊娠によりレコーディング不参加となり、主な仕事はポールとデニー・レインによって進められていく。アルバムのリリース前にシングルを作るべく、まず"Mull Of Kintyre"というスコットランド民謡風の曲を仕上げてリリース。これがパンク旋風が吹き荒れるイギリスで何故か大ヒットを記録。ビートルズの"She Loves You"の記録を凌駕していく様を横目に、ポールとデニーはアルバムの仕上げをしていく。当初洋上レコーディングをしていたことから、「ウォーター・ウイングス」という仮タイトルが設定されていたものの、"Mull Of Kintyre"のヒットと、自信ある曲が書けたことから、タイトルを「ロンドンタウン」と改め、78年にリリース。

5人のウイングス時代のレコーディング曲8曲を軸にした13曲。5人時代の曲はバンドのまとまりを強く感じさせる仕上がり、残りのポールとデニーが中心に仕上げたタイトルソングなどでは、多用されるシンセのニューウェーブを意識したであろう、時代への目配せを感じさせる。バラバラなセッションを取りまとめていながら、しかしアルバムとしてひとつの落ち着いたトーンに彩った、その手腕はポールのプロデューサーとしての底力と言って良い。"Don't Let It Bring You Down"や"With A Little Luck"といった名曲がアルバムを引き締め、小品が脇を固める。

とはいえ、個々の楽曲の力はこれまでと比すると明らかに弱い。アビーロードで始まったレコーディングが上手くいかず、気まぐれで洋上セッションを思いつき敢行してしまったことと楽曲の弱さはおそらく無縁ではない。また"Mull Of Kintyre"というメガヒット曲を敢えて外したことはアルバムの統一性を重視したが故として理解に足るものの、2019年現在も未だに未発表、このセッションにてレコーディングされている名曲"Waterspout"をオミットしてしまったことは、アルバムのトーンを重視してしまったが故の愚策であり、ビートルズ解散以降着実な歩みを進めてきたポールとはいえ、宿願であった全米制覇によるバーンアウトと、繰り返されるメンバーの脱退劇も被さり、迷いと判断力の低下が起き始めていたことを伺わせる。

リリースされたアルバムは、ディスコブーム到来に重なってたが故に、ビージーズの「サタデーナイト・フィーバー」によってチャート1位を阻まれる。またリンダの出産、メンバーの脱退によりツアーに出られないこともあり、押し上げも出来ないままに終わる。ポールは再びツアーに出るため、バンドメンバーを探す作業に入る。原点回帰のためのメンバー探し。

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