ウイングス「ワイルド・ライフ」

Release Date
Dec.1971

Song List

Mumbo 3:54
Bip Bop 4:14
Love Is Strange 4:50
Wild Life 6:48
Some People Never Know 6:35
I Am Your Singer 2:15
Tomorrow 3:28
Dear Friend

1957年、15歳の時にクウォーリーメンに加入してからずっと音楽=バンドだった。1人でも音楽は作れるが、バンドで音楽を作る快感は捨てられない。何よりライブステージにまた立ちたい。順調に進む「ラム」のレコーディング、ポールは参加していたデニー・シーウェルとヒュー・マックラケンに声をかける。シーウェルは首を縦に振るが、マックラケンはスタジオワークが忙しかった。ドラムは確保したが、ギターがいない。ポールは「ラム」を仕上げて、一旦イギリスに戻る。

帰国後、ビートルズ時代にライブのバックステージで良くたわいない話をした男のことを思い出す。「Go Now」というビッグヒットを飛ばしていたムーディー・ブルースのあいつ。ムーディー・ブルースを早々に脱退してから名前を聞かなくなったあいつ。あいつの声は俺の声に合う。俺の声に合うなら、リンダの声にも合うはず。電話をかける。「What are you doing?」。男はソロレコーディングに着手していたものの、煮詰まっていたため、こう答える-「Nothing」。「Right,Come on then!」こうしてデニー・レインがバンドに加わる。

1971年8月、スコットランドの農場にある納屋をスタジオにしてジャム。妊娠9ヶ月のリンダは教えられた通りに、辿々しくコードを押さえる。気ままな練習をする中、ポールは音楽紙に載っていたボブ・ディランの記事を目にする。レコーディングもミックスも1週間で仕上げた?クール!ビートルズも1日でデビューアルバムを作った、俺たちも1日でレコーディングしよう!「Take it,Tony?」エンジニアであるトニー・クラークにせっかちに呼びかける声がアルバムの冒頭を飾る。「Bip Bop」「Wild Life」曲のクオリティに問題はあるものの、「バンド」をやることの高揚感がそれを覆い隠す。

かといってジャムじみた曲ばかりを並べるわけにもいかない。「ラム」でオクラにした「Dear Friend」を引っ張り出す。その「ラム」で激怒した元相方への言い訳じみたメッセージ。同時に「Some People Never Knows」では、(本人がいくら否定しようとも)「Yer Blues」を模したレコーディングをしながら、「寝れてまんがな」と「How Do You Sleep?」に返答する。「Yesterday」のコード進行をなぞった「Tomorrow」という名曲も仕上げる。リンダにも難なく歌えるメロディを「I Am Your Singer」という小品も作る。即席だからこそのシンプルさ、無防備さ。

そして、まだバンド参加を渋るリンダのご機嫌も取らなくてはいけなかった。リンダがハマり始めていたレゲエチューンをやろう。曲はないから、昔のヒット曲をアレンジしよう。ミッキー&シルビアの「Love Is Strange」なら簡単にいきそうだ。デニー・レインが歌えるかを試すことも出来る。デニーとリンダがポールのバックでコーラスを重ねる。試してみたら、デニーの声はリンダが高音を出す時にみせる不安定さをカバーする声質だった。ポールはバンドの成功をこの時点で確信する。

1日でレコーディングは終了。ミックスはアビー・ロードにて2週間。アルバムは出来たが、まだバンド名はない。そんな中でリンダの陣痛が始まる。待合室で出産を待ち望むポールの脳裏に、リンダの下に訪れる天使の絵が浮かぶ。天使の背中には翼。ウイング…ウイングス。1971年9月13日、次女・ステラの誕生はバンド名の誕生と重なる。ウイングスはデビューアルバムこそその粗さ故に酷評されるものの、次作以降に羽ばたき、バンド名をインスパイアした次女ステラも後にデザイナーとして世界に羽ばたく。

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