見出し画像

pH7.1『詩情的状況』

紙、布 16ページ
42.0cm×59.4cm(A)、50cm×50cm(B)
2022年11月19日発行

pH7.1『詩情的状況』

pH7の第一作。詩のpHジャンプが起こることを期待して、詩の滴定を行っていくpH7のメインシリーズ。タイトルである「詩情的状況(コンディション)」は、現在の言語をめぐる状況(condition)において、何に詩情を感じるか、何が詩を詩たらしめるのかという条件(condition)を形式的に思考する試みを表している。このようなテーマが浮かんできたのは、伊澤椅子と片田甥夕日の最初の打ち合わせにおいてだった。


解説

pH7結成のあらまし

かねてより「何か書きたい」という欲求を湛えていた片山嵐大郎が、友人の伊澤椅子、後輩の片田甥夕日を誘ってとりあえず文学フリマの出店を申し込み、既成事実としてpH7は発足した。この時までお互いの作品(および詩歌を書いているということ)はよく知らず、まずはドライブで作品ファイルを共有することになった。打ち合わせに片田甥はレファレンスとして吉田恭大『光と私語』を持参し、伊澤の問題関心とも合致して、本の形や大きさ、ページのレイアウトへの関心を共有できた日だった。そこから具体的な制作物を構想することになったが、当初はまったくもって本ないし冊子を作ることを念頭に置いていた。文フリ当日まで時間的余裕が皆無だったこともあり、「出す」ことだけを当面の目標として、各々の作品を寄せ集めた原稿を作った。ただし、メンバーに出版の経験はほとんどなかった。

そこで、恐る恐る相談を持ちかけたのがアラマホシ書房だった。アラマホシ書房は、東京都荒川区の西尾久に店を構え、貸本や服・小物の販売を行うアラマホシ商店の中のプロジェクトの一つで、東京芸術祭への参加や、複数の図書館との共同で「アワーライブラリー」という企画を行っていた。また、オリジナルの雑誌『おのおの』を出版していた。片田甥は一般客として東京芸術祭に訪ねた際にたまたま知り合っており、その場で自身のブログを紹介した縁で『おのおの』への寄稿を行っていた。「本を作ろうと思っているので相談させてほしい」と急ごしらえの原稿を送り、ほどなくして開かれたpH7とアラマホシ書房との顔合わせでは、思いもよらない本の形を提案された。これを受けて、潜在していた「(作品を公表する媒体としての)本を作る」ことへの問題関心が、一気に浮上することとなった。

本に擬態する

以上のような経緯を経て生まれたpH7.1『詩情的状況(コンディション)』は、旗の形をしたA面および封筒の形をしたB面から成る。それぞれの面の造り自体は単純で、A3の紙から切り取った断片を貼り合わせて幾何学図形(A面:長方形、B面:正方形)を作った後、真ん中に切りこみを入れて八ページの折本にしたものである。使用するA3の紙は、コピー用紙、白と茶のクラフト紙、和紙、わら半紙、トレーシングペーパーなど複数の種類を用意し、それらをごちゃごちゃに混ぜて印刷機に入れ、原稿の各ページがランダムな紙に印刷されるようにした。そうすることで、自動的に作品は一点ものとしての風格を備える。A面とB面をバンドで束ね、ポストカードを奥付代わりにして無理やり本としての体裁を整えている。「本に擬態する」というのが、コンセプトの一つとなった。

擬民主的に、詩を作る

紙面の内容については、各々が折に触れて書いてきた詩歌を寄せ集め、面を開いた状態のデザインを作った後、個々の作品ないし断片をレイアウトしていった。元々あった言葉のみならず、レイアウトが言葉を産出・規定することもあり、A面の中央に書かれた「擬民主的に、詩を作る。」を確かめるように詩歌の共同制作を行う形となった。最終的に、詩と呼べるものなのかどうかもわからない文言が配置されるエリアも出来上がった。

詩歌において、作品を構成する要素は言葉(印刷される場合には文字)だけではなく、文字のフォントや大きさ、紙面のレイアウトはもとより、紙の種類や本の装丁、形も大きく作用する。また、改めて述べるまでもないが、作者(署名)という存在。言語表現についての思考は、媒体への意識抜きには成立しない。「擬態」「擬民主的」という二つの擬き(加えて「詩擬き」)をコンセプトとして、旗としての詩歌、封筒としての詩歌、それらを束ねた本としてのpH7.1「詩情的状況」は制作された。

当時の作業風景

なお、この用語法はハンナ・アレントの『人間の条件(The Human Condition)』を念頭に置いている。奇しくも実際の制作にあたっては、アラマホシ商店に皆で集まり、印刷物の運搬、用紙のカッティング、用紙と用紙の貼り付けといった手作業を分担する「マニュファクチュア」が実践され、共同制作という理念を、己の肉体をふんだんに使って体現することとなった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?