数学の勉強法

 私の2021年度が間も無く始まろうとしている。

 毎回この時期になるとこれから迎える新たな生徒たちや授業に対する期待と不安でたまらない気持ちになるのだが、今年は例年よりも期待の方がまさっている気がする。そんな気持ちの表れなのか、毎年配布している「数学の勉強法」にも手直しを加えて新規リニューアルしたものを配布することに決めた。

 今日はまさにその「数学の勉強法」の中身をここにごっそりと(コピー&ペーストして)掲載しておこうと思う。内容的には去年の5月に投稿したものとほぼ類似である。ただし、去年の5月段階のものでは心得までしか作っておらず、今年は実際のハウツーにも触れた内容にリニューアルしてあるので、気になる人はご一読いただければ嬉しい。

 この内容は、新年度を迎えた高校生・浪人生を対象としたものである。特に受験学年の夏ごろまでに何をすべきかと、どのような心構えで学習を進めれば良いのかについて説明したものである。

1.高校における数学とは

 皆さんが高校で学ぶ数学は「定義を元に定理 · 公式 · 性質を導き、それらを応用して個々の問題を解決する」ことが要求されます。これは大きく分けると次の 3 段階に区分されます。
(1) 定義や計算方法を正しく理解し、これらを利用できる。また、定理の証明や公式 · 性質の導出ができる
(2) 典型的な考え方を理解できる、また典型的な考え方や発想を用いて標準的な問題が解ける
(3) 既存の知識や考え方を応用し、複雑な問題が解決できる
 これらは順に(1) 基本 · 計算問題 (2) 標準 · 典型問題 (3) 応用問題 だと思えば良いでしょう。みなさんは数学の学習がこれらの段階を経ているということを認識し、各分野で自分がどの水準にいるのかを把握するよう努めましょう。

2.数学の勉強法 -心得編- 

 まずは心得のお話から。数学を勉強する上で意識すべき心得として、下記の 4 つが挙げられます。

手を動かそう
何故そうなるのかを考えよう
説明できるかを考えよう
わからないことは必ず聞こう

これらのことについて 1 つずつ詳しく説明していきましょう。

2.1 手を動かそう

 1 つ目の心得は「手を動かす」こと、もっと言うと「手を動かすことを面倒くさがらない」ことです。
 たとえば、普段勉強をしているとき、「この問題や計算は簡単だし、できそうだから」という理由で実際に解くことを省略していないでしょうか。確かに容易に解ける問題もあるでしょうが、そのような問題でも面倒くさがらず手を動かし、実際に解けることを確認する習慣をつけましょう。また、計算力のような基本能力は、日頃からの地道な訓練によってのみ向上します。計算をしながら、より簡単に計算するための工夫はないかを考えたり、ミスなく速く計算し切るにはどうすればいいのかを考えたりといった、日常的な試行錯誤が物を言います。
 さらに、実際に問題に取り組むときは、ただ問題を眺めるだけでなく実際に手を動かしながら考えることが大切です。例えば図形問題を解いているのならば、全体の図を書き、図の中にわかる値を入力しつつ、求めたい部分を含む部分的な図を書き出しましょう。例えば整数問題を解いているのならば、具体的な数を代入して実験してみることで解決の糸口がつかめることもあるでしょう。
 手を動かすことを億劫がらないで試行錯誤する、という経験を積み上げていくことを心がけましょう。こういった経験を通じて将来的に様々な問題を解けるようになるための下地が完成していきます。ただし、これは一朝一夕に身につくものではありません。諦めずに根気強く辛抱強く取り組んでください。

2.2 何故そうなるのかを考えよう

 2つ目の心得は、「何故そうなるのかを考える」ことです。これは言い換えると「自分は理解できているかと自問自答せよ」ということです。
 普段問題を解いていると、「この問題はこうすれば解ける」ということを「知っている」問題が少なからずあるでしょう。 そういった問題をただ解いておしまいであれば「知っている」だけでいいのですが、数学は問題解決に利用した考え方や発想が他の問題でも必要とされることが多くあります。そのような問題に対処するには、「何故この定理や公式、解き方を利用すればよいのか」といったことが理解できているか考える必要があります。
 また、定理や公式を利用するときには、 何故その定理や公式が成立するのかにも目を向けてみましょう。例えば三角関数の加法定理の証明はできますか? そもそも三角関数とは何かは理解できていますか? 普段何気なく使っている定理や公式にも、必ず証明があります。そしてその証明の中には幅広く使える発想が眠っていることが多くあります。さらに、定理や公式を証明するためには用語の定義がわかっていないとどうしようもないものもあります。
自学中でも授業中でも、いついかなるときも「何故そうなるのか」を 1 つずつ考えることで、自分が本当に理解できているのかを確認しましょう。そして、自分が理解できていることと理解できていないことの境界線がどこにあるのかを意識し、少しずつ理解できることを増やしていけるよう頑張りましょう。1 つ 1 つ「何故?」と自分自身に問いかけ、それに 1 つ 1 つ「それはね」と答える習慣が大切になります。

2.3 説明できるかを考えよう

 3つ目の心得は、「説明できるかを考える」ことです。
 数学は自分が理解できていればそれでいいという科目ではありません。適切な日本語や数式を用いて自分の理解を表現できることも大切な力の 1 つです。自分の理解を誰かに説明するにあたり、その説明で「相手」に伝わるだろうかと考える習慣をつけましょう。
 受験に限ってみれば、例えば記述式の解答は自分が理解できていることを採点者にアピールする場と言えます。自分の説明で採点者は正しく意図を読み取れるかを考えながら、記述解答を書いてみましょう。なお、本当に相手が正しく理解できるかを自分一人で確認することは難しいことが多いです。そういうときは、誰かに自分の解答や説明を見たり聞いたりしてもらうことも大切です。採点や添削といった機会をうまく生かし、自分の理解を相手に正しく伝える訓練を積みましょう。

2.4 わからないことは必ず聞こう

 4 つ目の心得は「わからないことは必ず聞く」ことです。
 どれだけ考えてもどうしてもわからないことは、そのことに詳しい誰か (何か) に聞くことが大切です。例えば問題を解いているとき、その解答がどうしてもわからなければ、解答解説を見ることでどう解けばいいのかを教えてもらう必要があります。解答をみてもわからなければ、例えば友人や先生などの人に聞くこともあります。参考書やインターネットといった詳しい情報が載っているものを参照してみることもあります。わからないことを解決するためのありとあらゆる手段を講じましょう。
 ただし、わからないことを聞くには、まず自分自身で全力で考え、試してからでなくては意味がありません。そして、わからないことを聞くときは、「自分はここまでやってみた」という成果と「何がわからないのか」という疑問を必ずセットで持っていってください。成果なしでただ疑問のみ持っていっても、自分の成長には何一つ寄与してくれません。これは解いてもいない問題の解説授業だけ受けていることと同じです。まずやってみる、そこで生じた疑問を誰か (何か) に聞いて解消する。この流れを忘れてはいけません。

3.数学の勉強法 -実践編(高3の夏まで)-

 それでは続いて、実際の数学の勉強の仕方をお話ししましょう。数学を勉強するにあたって、問題集などを自分で解き進めるときと、授業を受けるときとで、勉強の進め方が少し変わりますので、大きくその2つに分けてそれぞれ説明します。 また、ここでは高3の(受験学年の)夏までを目安として「一通りの内容を理解し、出来るようにすること」を目標とした勉強法を説明します。秋からは「身につけたことをどう発揮していくか」に焦点を絞った学習にシフトしますが、その時点での勉強法はまたそのタイミングでお話しします。

3.1 問題集を利用した勉強の仕方

問題集などを使った自習のときは、次のように進めるといいでしょう。

何も見ないで解く
→ 解けなかった場合 : 手が止まった部分の解答を少しだけ見て、何をすればいいかわかったら解答を閉じてもう一度解き進める。これを問題が解けるまで、または完全に手が動かなくなるまで繰り返す。
→ 解けた場合 : 丸つけし、必ず下のステップへ進む。

解答を見ながら、1 行ずつ解説をつけてみる
どのような定理、公式を使っているか、どのような式変形をしているか、どのような論理で答案が書かれているかを解説してみよう。「何故」そうしたのかも解説できそうなら考えてみると良い。

解答で用いた定理、公式を説明し、証明 · 導出をする
どのような仮定において、どういった性質が成り立つのかを必ず確認すること。また、証明 · 導出についてはできれば何も見ないで書き出すのがよい。定理、公式の大半は教科書で説明や証明がされているので、それと見比べて正し く説明 · 証明できているか確認する。

初見で解けなかった問題は、もう一度何も見ずに解く
自分自身に向けての授業のつもりで解説をつけながら解く。この段階でも何も見ないで解き切ることは難しいことが多いが、その場合はここまでの一連の流れをもう一度繰り返す。何も見ずに最初から解き切れるようになるまで根気強く繰り返す。

ある程度時間をおいて、再度問題に挑戦する (2 周目)
多くは問題集 2 周目の取り組みとなるが、1 ヶ月空けることを目安に 2 回目の解き直しに着手しても良い。

 これを、問題集の全ての問題に対して根気強くこなしていきましょう。「これだけやれば範囲を一通り網羅できます」という問題にマークがついている問題集も多いですが、これらの問題で何も見ずに解答が作れるようになったらその問題集はひとまずクリアとしていいです。あるいは「これは他の問題と比べてやや難しい」という問題にマークがついている問題集もあります。そのような場合は逆にマークがついていない問題全てを何も見ずに解答が作れるようになったらその問題集はひとまずクリアとなります。要するに、全範囲を網羅的に解ききれるようになったらその問題集はクリアとしてよいとい うことです。
 問題集を 1 冊クリアするにもかなりの時間がかかります。また、同じ問題を何回も間違えることもあるでしょう。そのような問題でも正しく理解して解けるようにならなくては、次の問題集に進む意味はほとんどありません。1 冊を完璧にする ことから始めましょう。

3.2 授業を利用した勉強の仕方

 授業などを通じて数学を勉強するときは、解答解説が渡されていなかったり、授業中で解説されたりすることが多いと思います。そういったときは先の問題集を解き進めるサイクルを「予習、授業、復習」に分けて対応させます。

予習 · · · 問題を解く · 定理や公式の証明を考える
何も見ないで問題を解き自力でどこまでできるのかを確認する。問題を解くのに使う、あるいは使いそうな定理や公式を正しく証明できるか確認する。問題が解き切れた場合は別解を考察してみる。

授業 · · · 理解しながら板書を取る
大前提として「授業の中で理解する」ことを心がける。授業では、解答に対して 1 行ずつ解説がつけられることが大半であり、何故そのように考えたかも説明される。これらを 1 つ 1 つ理解していきながら板書する。また、授業中の解説が復習時に自分ですべき解説の模範と捉えること。何も見ないで授業と同程度の解説ができるようになれば完璧である。いうまでもないが、綺麗なノートを取ること自体は、目的としても手段としても全く意味がない。多少汚かろうが、授業中の解説が再現でき、自分の理解を深められるノートであれば問題ない。

復習 · · · 解説をつけながらもう一度解く、類題演習
授業で理解したことが自分の言葉や説明として使えるかを確認するために、解説をつけながらもう一度問題を解く。 何も見ないで一通りの解説と答案が作れることを目標に繰り返し挑戦すること。また、「わかった」と思ったことは類題に取り組みながら確実に「出来る」ようにする。わかっていても自分で解けなければ「出来る」とは言わない。

 予習で自分の未知なことがどこにあるのかを知る、授業で解説を理解する、そして復習で出来るようにする、というサイクルを意識しましょう。なお、扱う教材のレベルや 1 人 1 人の学力に応じて、予習 · 授業 · 復習のどれに時間と労力をかけるかの割合は変わります。あくまで参考としてですが、基本的なことからみっちり学習する授業であれば復習多めの割合に、実践的な問題演習が主体の授業であれば予習多めの割合になります。そういったバランスもとりながら、1 週間のスケジュールと照らし合わせて 1 人 1 人が自分なりの学習習慣を確立させましょう。

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