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[未発表原稿]ダメ人間、無意味と投げやり、小説の自由さ

中原昌也さんが入院中で支援を募集しているという話を見て、そういえば昔中原さんのことを書いたけど結局発表してない文章があったな、と思い出したので、ここに載せておきます。
中原さんを支援する音源は以下から購入できます。

https://savenakahara.bandcamp.com/album/we-love-hair-stylistics



ダメ人間、無意味と投げやり、小説の自由さ


小説には小説の型があって、映画には映画の型がある。そういうものだと思っていた。
だけど、小説ってこんなに自由にメチャクチャに投げやりなことを書いてもいいんだ、と、大学生の頃に中原昌也の『マリ&フィフィの虐殺ソングブック』を読んで思った。

この本は十二編の短編集なのだけど、筋なんてあってないような物語ばかりが収められている。
文章は一見もっともらしいのだけど、何か物語が始まるのか、と期待すると、すぐにその期待を完全に裏切るような関係ない話が、また一見まともな文章で始まる。
ひたすらそんな断片が繰り返されて、その断片の中には暴力的なものや悪趣味なイメージが散りばめられている。そして、作者が突然完全にやる気をなくしたかのように、あっけなく中途半端な場所で終わる。そんなめちゃくちゃな小説なのに、無性に面白かった。
ちなみにこの本の中にはマリもフィフィも出てこないし、別にソングブックでもない。タイトルにそんな意味を求めること自体が無意味だ。
まともな物語を期待する読者を不愉快にさせたい、という悪意だけで書かれたような文章。この世界に対する不快感と苛立ちと暴力性。意味の破壊。この本はそんな殺伐としたものの集合体だった。

作者の中原昌也は暴力温泉芸者、ヘアスタイリティックスの名義でノイズミュージシャンとしても知られる。
小説も書くし映画評論も書くし音楽もやるし、コラージュなどの美術作品も作ったりする。
そんな風に言うと、いろんな才能があってマルチに活躍している、という風に見えるのだけど、実際はすごくダメっぽい生活をしている。本の中でも「電気代がなくて電気が止まった」とか「毎日が本当に酷くて何も考えたくない」とか「小説を書くなんていう最悪のことはもうこれ以上やりたくない」などということをずっと書いていて、その様子を見るとなにか安心する。
中原さんは僕より8つ年上なのだけど、自分より年上でダメそうな人がいると、年をとってもこんなダメな感じでもいいんだ、自分だけじゃなかった、と思って安心できるのでいい。自分より年上でダメそうな人のロールモデルをいくつか持っておくと生きるのが少し楽になると思う。

小説以外の本としては、日記(『中原昌也作業日誌 2004→2007』)や

自伝(『死んでも何も残さない 中原昌也自伝』)なども

ネガティブなことばかり書いていて面白いのだけど、とりあえず一番読みやすい『中原昌也の人生相談』をおすすめしたい。


「人の陰口が怖い」という相談に「盗聴器を仕掛けよう」とか「毒を盛ろう」とか、「人生に希望が持てない」という相談には「僕は自分が幽霊だと思い込んで生きてるから、特に死にたいと思ったことはないです」とか、「あらゆることにやる気が起きない」という相談には「僕はあり金を使い果たして借金するところまでいかないと仕事をやる気がしないです」とか、乱暴で投げやりな回答をしつつも、ときどき本質を突くようなことを言っていて楽しめる。一つ一つの回答が短いので(数行しかないのもある)、読みやすくてよいです。

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