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収録は声優一人の力だけでは乗り切れないから事前準備が大事

※この界隈の方でないとわからないことが沢山出てきますが、細かくは説明しませんので、わからない方はスルーして下さい。
いちいちこういうことを書かないといけないのがとても悲しいのですが、この記事は、特定のクライアントさんを叩いたり、特定のスタジオさんを持ち上げたり、他の声優さんと何かを比べて上げたり下げたりする…と…そういうことを目的に書かれた物ではありませんが、どうしても愚痴っぽく見える部分は出てくると思うので、マイナスな取り方しかできない方は読まないで下さい。

すーぱー前置き(ふぁんさんのゆるいスペック紹介)

私は宅録だけでなく、スタジオでの収録も多く行っていて、実際にスタジオと同じ機材も大量に入れており、宅録で細かな編集も自分で行っているため、「これは雑音になる」だとか「これは編集しんどくなりそうだから録り直しておいた方がいい」だとか、「編集しやすい音声」を制作することに関しては、それを行っていない声優さんより確実に敏感で、必要な場所での自己リテイクが多めとなっている(不必要な自己リテイクは当然しない)。なので、あまりスタジオのエンジニアさんから、読み間違い以外で「ここをもう1度」と言われる回数はかなり少ない。(読み間違いは集中してると結構誰でもあるし、間違ってないつもりで間違ってることってそこそこある)
また、声優歴自体もだいぶ長くはなっているし、ある程度慣れている部分もあるし、スタジオ収録の前になると、不安でたまらなくなってしまう病(上手くやろうとしすぎる)なので、事前に死ぬほど台本のチェックを細かく行うこともあり、収録スピードはかなり早い方だ。(早ければいいという物ではないし、遅いとダメとかいう話でもないので、その辺はわかって欲しいし、自慢するためのものではない)
特殊な収録形式等でなければ、このくらいの台本は大体これくらいで終わるなー…というのもわかるし、全体のスタジオ借り時間を考えて、休憩時間を調整する等自分でタイミング良く終われるよう、仕事を進めている。
他の声優さんとの絡みも当然あるし、大体の人がどれくらいの速度で仕事を行っているか…だとか、これくらいの活動歴の人だと、このくらいは時間がかかる…だとか、なんとなくその辺りもゆるくはわかってはいるし、結構な数のスタジオ(場所的な意味で)も経験しているから、ここのエンジニアさんはこういう感じの人…だとか、こういう仕事の仕方をする人だなーとかも、ふんわりとはわかる。
めちゃくちゃ大手で収録慣れしているクライアントさんから依頼をもらうこともあるし、全くスタジオ収録したこともないし、台本自体初めて作りました!という方からの依頼もあり、どちらも結構な数経験しているので、どちらの場合でもサクサク作業を進めることができる。
そんな感じの私が対応している仕事の中で、最近「あらあら」と感じることがちょこちょことあって、それは確実に共有していた方が、収録慣れしていないサークルさん等にはためになるので、「失敗談」ではあるのだけれど、誰かのために公開していきたいと思う。

事前情報の大事さ

収録の前に、声優やスタジオさんの方に、台本や資料を送ると思うのですが、それが欠けていると、非常に収録が大変になります。
例えば、キャラ設定等についてなのですが、わかりやすく名探偵コナンを例に出して説明していきます。(今回は江戸川コナン君を依頼された…という設定で話します)
「今回依頼したいキャラは、小学1年生で、メガネでクールなキャラクターです」
という情報と、ラフイラストしか共有されていないとします。
これはつまり、江戸川コナン=工藤新一であるという情報が完全に抜け落ちていて、中身は高校生探偵だ…という情報は、声優にもスタジオ側にも一切伝わっていない…という状態です。
なので、声優側としては、【小学1年生】という枠の中では少しだけ大人っぽく、落ち着いているように感じられるキャラで、身長を考えると、かなり小さなキャラではあるから、声は結構おさなめなのかな……というような感じで、声や演技のイメージを固めていきます。スタジオさん側も一緒です。
しかし、クライアントさん側には「江戸川コナンは高校生探偵の工藤新一で、高校二年生である」という情報が完全にあるため、「なんか声のイメージ違うなぁ」という風になります。
しかし、スタジオさんとしても、情報は声優と同じ物しか与えられていないので「こんな感じでいいですよね」で進んでしまい、「あれ?なんか違うけど直せないぞ?イメージ違う音声に仕上がってしまった…」と進んでしまうような収録慣れしていないクライアントさんも中には存在してしまうし、
「いや、もっと大人っぽい感じで設定して下さい」と途中で言われてしまうと、あのイラストに合うレベルで、小学1年生として違和感ないレベルで、これ以上大人っぽいを出すのかぁ…むっず…え?どうしろと…?と悩む形にはなってしまうし、求められたイメージには近づけるものの、与えられている情報的に、見た目からかけ離れないレベルのギリギリの演技…という風にしか調整することができません。
これは、声優側もスタジオ側も一切悪くなく、頭の中にはあったものの、情報をきちんと声優とスタジオに共有していなかったクライアント…が悪いという形にはなってしまいます。
なので、演技に大きく関わってくるような設定は必ず伝える必要があるし、後で追加した…とかであれば、収録日までにはきちんと共有する必要があります。

イラストとイメージボイスかけ離れすぎ問題

あと、これに関係している物の中で、結構あるあるな事件としては…
ラフイラストはすんげーボインで大人っぽいしっかりとした女性(要は峰不二子みたいな)だったし、年齢やキャラクターの設定を読んで「あぁ、セクシーなお姉さんボイスを必要としているんだな!」と準備してマイクテストをしてみたら「イメージはもっときゃぴっとカワイイ声なんです!」と言われたりとか。
これは、スタジオ側としても、声優側としても「?????」としかならないのだけれど、「僕の趣味です!」だったりとか、「イラスト発注してみたら、声のイメージとちがくて」だったりとか…、伝わっていない側からすると、言われないとわからないことでしかないので、非常に混乱します。
この場合も結局、イラストのイメージからかけ離れすぎず、求められたリクエストをどうにかギリのレベルで入れていく…ということでしか対応ができません。
…ちゃんと言ってイラスト描き直してもらってくr…
大人の事情ってありますよね。

突然の追加ボイスや台本の渡し忘れ

収録当日まで追加で書いていて、間に合いはしたけど、声優にもスタジオにも渡していない。でも、これを当日読んで欲しい…という追加台本があるとします。
しかし、これは当然声優もスタジオも知らないし、どれくらいの分量あるのかも知らないし、普通に現状渡されている物で収録が終わる…と思っているので、時間配分の中に全く入っていませんし、考えられているわけがありません。
これがとっても長ければ、普通にスタジオ借り時間に間に合わないかもしれないし、延長が必要になるかもしれないけど、スタジオの空きがなかったり、声優の時間が限界だったりするかもしれません。
そもそも、突然パッと渡されても、台本のチェックはされていないし、チェックの時間は欲しいし、漢字の読みがわからなかったり、言葉の意味がわからなかったり、誤字がチェックされていないから、誤字だらけであったりするかもしれないし、NGワードが含まれていたりするかもしれないし、そもそも料金の相談がされていなくて、追加がないと動けなかったり、無料でちゃちゃっと!とか言われちゃうと非常に困る部分です。
どうしても…ということはあるので、絶対にダメ!とは勿論言いませんが、確実に声優側もスタジオ側も「想定していなかった作業の追加」にはなってくるので、突然言い出すのではなく、事前に「◯分くらいの台本当日ちょっとだけ追加あるかもしれません」程度でいいので、共有しておいてもらうと、声優側もスタジオ側も少しは動きやすくなって助かります。

経験から、逆にできる…!と思ってしまう問題

同じくらいの分量の、同じような案件の収録を、既に4件ほどこなしているとします。それぞれ別の声優さんに依頼をしていて、4人とやり取りを経験した後…だとします。
そうなってくると、大体この分量はこれくらいの時間で大丈夫だったから、スタジオはこの時間くらい借りればいいな!と思うことがあると思うんですが、
こ、れ、が、
実は悲劇を生んでいる場合があります。
というのが、全員が「え、めっちゃ時間詰めっ詰めやん…休憩できんやん…限界まで頑張らないと間に合わないなーこの時間じゃ…」と思ったものの、それについては特に言葉にせず、全力を出して、なんとか時間内に収めてしまう…というのが起きてしまうと、「全員できてるし大丈夫」とクライアント側は思っちゃうわけです。
が…めちゃくちゃに無理して出した結果でしかないので、リテイク回数が増えてしまったり、新しい声優さんが新人さんだったり、少しでも上手く行かないことでゆっくり収録になってしまった瞬間、完全に時間が足りなくなります。
これは、その新しい声優さんは1ミリも悪くないんですけど、前の4人がなんとかやってしまったがために起きる悲劇で、全員が全員しんどくなるという悲しみの連鎖しか起きません。
この場合、慣れてるエンジニアさんとかが台本をきちんとチェックしていると「これくらい時間がかかると思うから、追加で◯時間借りた方がいい」とか言ってくれれば、めちゃくちゃ平和に過ぎるのですが、ぶっちゃけ、声優側もそうだし、スタジオ側もそうなんだけど…お金払ってもらう側だから、追加でお金がかかるとわかっていて、「追加でどうですか?」て聞きづらい…という。
で、まぁ…結局、全員が無理をして、なんとかやっちゃうと、ずーっと終わらないんですよね。この負の連鎖。
そんなことが、ちょっと起きたばかりで、実際は3日に分けて録るくらいの音声を、全員が1日の短時間で収録をしていて、非常に喉に負担のかかる収録を一気にやっていて、それが普通…当たり前…とされていた…という現場に放り込まれておりました。悲しすぎた…。
これはほんとに、声優側もスタジオ側も言いづらくはあるので、「全然休憩してないなー」と思ったり、「なんか途中から声優さんの声疲れてたなー」とか気付くようなことがあれば、クライアントさん側が対応できるようになると素敵だと思います。

逆に、スタジオをめちゃくちゃに長く借りちゃう…という方もいるんですが、スタジオさん的には助かるし、声優側としても余裕があるから、急かされる感じがなくて、伸び伸び収録できて助かる…ものの、やっぱり借り時間が長い分、スタジオ料金は高くなってしまうし、数時間余ってしまった…とかあっても、ほとんどのスタジオさんは返金は行っていないと思うので、とってもとっても申し訳ない気持ちになります。
なので、ある程度慣れてるスタジオさんに頼むとか、声優さんになんとなーくゆるーく時間を聞いてみる(人によって違うし、細かく答えられない部分もある/他の声優さんに迷惑になったりもするから)のも良いかもです。

初めてを隠すんじゃねぇ…!恥じらうな!逆に迷惑案件

初めてのスタジオ収録…であったり、全く慣れていない状態でのスタジオ立会(オンラインとか)であったりする場合に「初めてなので」というのを隠す行為は…本気でマイナスしかないので、やめて下さい。
慣れていないと、リテイクとして止めるべき場所で止まらなかったり、後々まとめて「実はここがこうで」とか「丸々リテイクしてほしくて」と言い出しても、声優側もスタジオ側も非常に困ります。
「慣れていないから、そういうのが遅くなってしまうかもしれない」…と、事前に伝えているだけで、それをエンジニアさんがカバーしてくれることもあるかもしれないし、私だったら、そういうのの対応に慣れているスタジオさんを紹介して、初めての収録はそこにしてもらう…とか、「慣れていないからそういうことがあるかもな…できるだけゆっくり収録を進めていこう」と思ったりとかします。
なので、隠した状態で「なんとなく違うのでリテイクで」とかを繰り返されると、現場の雰囲気が最低になるので、明らかにクオリティが下がる原因にもなってしまうし、これはスタジオ側や声優側で事前に聞いていないとどうしようもできないことではあるので、本当に…本当にやめて下さい。本気で空気が悪くなってつらいです…。作品を愛せなくなっちゃう。頑張りたいけど、頑張れるのにも限界があるよ…。

別日にお願いします事件

当日収録が間に合いませんでした!とか、追加でこれが欲しくなっちゃいました!とか、とにかく、別日に新たに収録が必要になりました!という事件。
これはまぁ…見通しが甘かった…とか、逆に良すぎて追加したくなっちゃった…とか、色々あると思うんですが…
同じスタジオで、同じエンジニアさんで、同じ日に収録しているから、同じ音なのであって…突然別日に、日を空けて収録を行っても、全く同じ音、全く同じ声、演技にはならない可能性が非常に高いこと…をわかって欲しい。
たまに、「おまけボイスが欲しくなったので、宅録で追加でお願いします!」とか言われるんですが、これ、そんな簡単に言っていい言葉ではなくて…。
当然宅録とスタジオ収録では全然機材も違うし、その場その場で指示があるわけでもないし、簡単に録れるものでもないです。
全然音が違って浮くのも、声優としては困るし、かといって、データをもらってスタジオと全部同じ様にする…!というのも非常に難しいし、
別日にスタジオで、同じエンジニアさんで…というのが非常に助かりはするものの…1日で終わるはずだった収録が、突然に数日になっちゃうのも、少し困りはするし(お仕事だし、お金が発生するから、そこは飲み込むよ!当然)、
エンジニアさん側も、前のデータを引っ張り出してきて、サンプルとして流したりとかしなきゃだし、前と同じ設定でセッティングしなきゃだったりもあるので(当然仕事だから、お金払えばやってはくれるよ!)、凄く簡単にできること…ではないことを知っていて欲しい。
なので、やっぱり、最初に1日と決めていたのであれば、できるだけ1日で済ませる…ということ。
何日かに分けて録るのもありだけれど、それならそれで、事前にスケジュールを組めるように、スタジオ側も声優側も予定を押さえておく…ということ。(一度スタジオ収録した後に、突然追加と言い出さないということ)
スケジュールが押さえられていれば、どちらもきちんとその作品のモードのままずっと対応できるので、それは問題ないのですが、「やっぱり追加でー」はわりと…困りはすることを覚えておいて下さい。
今日は100のパワーだったけれど、あまりに突然の追加…てなっちゃうと、体調管理やら、睡眠時間やらが調整できなくて、明日は60のパワーだったりするかもしれないし、ただそれだけでめちゃくちゃクオリティは変わっちゃうし、当然他の仕事にも影響は出てきちゃうわけで…【突然】…は困ること…だけ覚えておいて下さい。


できるだけいい作品を作りたいなーと思うし、クライアントさんにはできるだけ損をして欲しくないし、良かったと思って欲しい…っていつも思っています。
だけど、声優側で「頑張る」にしても、できることとできないことがある…というのが、あまり伝わっていないかなというのが最近の感想です。
声優やスタジオさん側が働きやすくする環境を作るのは、クライアントさんにしかできません。
足場がしっかりしてないと、踏ん張れません。
やっぱり、良くなかったなー…とか、微妙だったなーと思わせちゃうのは、当然声優も悲しいし、スタジオさん側としても、いい気持ちではないものなので…簡単に慣れることではないし、とても難しいことではあるのだけれど…できれば、全力パワーでいけるように、足場作り頑張って下さい。

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