コミナティ筋注の精度管理について(変更有)

結論(変更有20210715)

※1バイアル5本取りから6本取りに変更されたことに伴い、生食用シリンジのプランジャ位置設定を変更しました。

・生食用シリンジのプランジャ位置は目視で1.80㎖から1.82㎖の範囲内に合わせる。
・生食用シリンジ内の許容できる気泡数は1個まで。
・接種用シリンジのプランジャ位置は0.29㎖から0.31㎖の範囲内に合わせる。
・接種用シリンジ内の許容できる気泡数は2個まで。


前回集団接種の支援に入ったときに、接種用シリンジの準備や鑑査に携わったのですが、誤差管理の設定がまだできておらず、手探りでした。

取り急ぎ、誤差管理についてまとめたので、参考にしてください。

薬剤師が取り扱いを行うにあたって、接種されるトジナメラン量の精度管理が重要になるため、整理した。

気泡が接種用シリンジ内に存在し、気泡が筋注されてしまった場合の安全面での問題も考慮する必要があると思われるが、接種用シリンジ内の0.3㎖全部がエアとなって、それが筋注されたとしても安全面には実質的には影響がないと思われることから、安全面への影響については割愛する。

以下精度管理についてまとめる。

添付文書、IF、審査報告書には、接種量の精度、計量精度に関する記載はない。

規定量としては、接種用シリンジには0.03㎎のトジナメランが充填され、接種されることが求められる。
実際の摂取量には様々な要因による誤差が生じる。
この誤差を所定範囲にコントロールする必要がある。

接種時に体に注入されるトジナメランの量は、少なくとも以下に依存する
① バイアル中に含まれるトジナメランの量
バイアル中に含まれるトジナメランの量については、現場の薬剤師が寄与できることは少ない。目視で判定できる明らかな異常がなければ、規定量が正確に入っているものとして扱う。

② 希釈のためにバイアルに吸引された生食の量
シリンジに吸引された生食の量は、シリンジの精度、プランジャの位置(目盛からのずれ)、気泡の大きさと数、に影響される。シリンジの精度には現場の薬剤師が寄与できることは少ないので、シリンジは正確に作られているものとみなす。プランジャの位置、気泡については作業者の手技やかけられる時間に依る。生食用シリンジからバイアルに注入される生食量が1.8㎖よりも少なければトジナメランの濃度は高くなる。生食用シリンジ内の気泡はバイアルに注入される生食量を減らす方向に働き、すなわち、接種される希釈液の濃度を上げ、接種されるトジナメランの量を増やす方向に働く。

③ 生食希釈後に接種用シリンジに分取される希釈液の量
接種用シリンジに分取される希釈液の量の正確性も、プランジャ位置、気泡の大きさと数に影響される。接種用シリンジ内の気泡は接種される希釈液の量を減らす方向に働き、接種されるトジナメランの量を減らす方向に働く。

 以上①~③から、変数としては、生食を吸引した生食用シリンジのプランジャ位置、生食用シリンジ内の気泡の大きさと数、接種用シリンジのプランジャ位置、接種用シリンジ内の気泡の大きさと数、を変数として精度管理をすればよいことがわかる。
ここで、気泡の大きさであるが、大きめの気泡は容易に追い出し可能であることから、追い出しにくいサイズの気泡のみを考慮するものとし、簡単のため、実測値に基づき、一つの半軸1mm、他の2つの半軸が0.5mmの楕円球形の気泡として検討していく。この気泡の容積は、約1*10**-3㎖となる。
すると、変数は、生食を吸引した生食用シリンジのプランジャ位置xs(㎖)、生食用シリンジ内の気泡の数n(個)、接種用シリンジのプランジャ位置xc(㎖)、接種用シリンジ内の気泡の数m(個)、の4つとなる。
バイアル内に含まれるトジナメランの量0.225㎎、バイアル内のコミナティ筋注の量0.45㎖を信用すると、一つの接種用シリンジに含まれるトジナメランtの量は以下となる。

t=0.225*(xc-m*10^(-3))/(0.45+xs-n*10^(-3) )

ここで、コミナティ筋注は衝撃に弱いとされているが、シリンジに充填した状態でどの程度の衝撃に耐えられるかは情報が不足している。そのため、接種用シリンジ内に生じた気泡を取り除くために接種用シリンジに過大な衝撃を与えることは避けたい。一方、生食用シリンジには、気泡を追い出すための十分な衝撃を加えうる。したがって、生食用シリンジからの気泡の追い出しは十分に行うことができる。これを踏まえ、生食用シリンジ内の気泡の数として、0もしくは1のみを想定してよい。また、生食用シリンジのプランジャ位置はシリンジの1目盛の±1/5程度(1.78~1.82㎖)の範囲内に合わせることは容易である。また、接種用シリンジのプランジャ位置は±1目盛(0.29~0.31㎖)の範囲内に合わせることは容易である。
 tの値が、規定量0.03㎎からどの程度乖離してもよいかは、適宜の設定になるが、通常の薬剤師業務では5%までの乖離は容認することが多い。そこで5%を許容誤差とする。
 最も希釈液の濃度が上がるのは、生食用シリンジのプランジャ位置が1.78㎖、気泡が1個の時である。このとき、もっとも多くのトジナメランが接種されるのは、接種用シリンジのプランジャ位置が0.31㎖、気泡数が0個の時となる。このときの誤差範囲は+4.31%となり、許容できる。

(追記20210715  当初は、1バイアルから接種用シリンジ5本をとっていました。それを前提として前記の設定としていたのですが、7月の支援の際には、6本取りに変更されていました。その際に、希釈後に1バイアルから6本とれないケースが発生しました。そこで、生食の秤取量が少なくならない方向に生食用シリンジのプランジャ位置を再検討しました。プランジャ位置を1.80mlから1.82mlに合わせることは手技上も特段の困難はありません。精度管理の点からもより厳しくする方向なので、許容できます。これを踏まえ、上記結論の通りに修正しました。)


 最も希釈液の濃度が低くなるのは、生食用シリンジのプランジャ位置が1.82㎖、気泡数が0個の時である。このとき最も少ない量のトジナメランが接種されるのは、接種用シリンジのプランジャ位置が0.29㎖の時であり、接種量は接種用シリンジ内の気泡数が多いと、さらに少なくなっていく。気泡数が2個までは誤差は5%以内に収まるが、3個になると誤差が5%を超える。

以上により冒頭に述べた結論が導かれる。

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