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【Phidias Trio vol.5】 曲目紹介: アントン・ウェーベルン《ヴァイオリンとピアノのための4つの小品 op.7》

2022年6月23日、杉並公会堂小ホールにて、Phidias Trio 5回目の定期公演「Phidias Trio vol.5 "Connect the Dots”」を開催します。
公演詳細はこちら↓
https://phidias-vol5.peatix.com


今回は、アントン・ウェーベルン《ヴァイオリンとピアノのための4つの小品 op.7》をご紹介します。

新ウィーン楽派(Neue Wiener Schule)とは

20世期初頭にウィーンで名を馳せた、アーノルト・シェーンベルクとその弟子のアルバン・ベルク、アントン・ウェーベルンを指します。18世紀後半から19世紀前半にウィーンで活躍した、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンら「ウィーン楽派(Wierner Schule)」に対峙させてそのように呼ばれ、ドイツ音楽史の延長線に位置する存在として、後世に多大な影響を与えました。
彼らの初期作品は、後期ロマン派の色あいを帯びていましたが、次第に無調となり、シェーンベルクによって発見された十二音技法という革新的な手段を手にし、またそれを発展させることで、それぞれ独自のスタイルを築きました。

アントン・ウェーベルン(Anton Webern 1883-1945)

1883年、ウィーン生まれ。幼少期は、母親からピアノの手ほどきを受けます。ウィーン大学で音楽学を学び、博士号を取得。1904年に出会ったシェーンベルクに弟子入りし、1908年、《オーケストラのためのパッサカリア op.1》で作曲家として独立します。
《5つの歌曲 op.3》(1909)で調性を離れた後は、極端に短く凝縮された音楽を追求していきます。当時、ヨーロッパで流行していた大編成、大音響の響きとは逆をゆく、ウェーベルンの、極限にまで切り詰められた表現は、「極小形式」と評され、異彩を放ちました。こうして独自の道を突き進んだ彼は、50代で音楽家としてのキャリアの絶頂期に至ります。
しかし、1938年、ナチス・ドイツがオーストリアを併合すると、前衛音楽に批判の矢が向けられることとなります。ウェーベルンの音楽も「有害または退廃的である」とみなされ、彼は社会的な活動を維持することが困難になりました。そしてそのまま戦後の世界を見ることなく、ウェーベルンは予期せぬ形で死を遂げます。1945年9月15日夜、たばこを吸いにテラスに出たところを、占領軍の米兵に誤射されてしまうのです。
ウェーベルンは寡作家で 、60年の生涯のうちに残した作品はわずか――生前出版は31曲――でした。しかしそれらは彼の死後、とりわけ前衛主義の作曲家たちから高く評価され、今日なお愛され続けています。

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アントン・ウェーベルン《ヴァイオリンとピアノのための4つの小品 op.7》(1910)

《ヴァイオリンとピアノのための4つの小品》は、1910年、ウェーベルンが26歳の時の作品です。《弦楽四重奏のための5つの楽章 op.5》(1909)から始まった極小形式への志向はこの作品で結実し、その後のウェーベルンのスタイルを決定づけました。

作品は全体で約5分と短く、第1曲に至っては9小節しかありません。このごく僅かな時間の中で、極めて精緻に配置された音が並びます。繊細で独創的な音色への探求や、完璧主義ともいえる緻密な構造へのこだわりが随所に感じられます。

第1曲 Sehr langsam(非常に遅く)
ヴァイオリンのハーモニクスから始まるこの作品は、2つの楽器が終始、pppとppの間を行き来します。選び抜かれた音は、弱音でありながらそれぞれ存在感を放ち、「col legno weich gezogen(ヴァイオリンの弓の木の部分でソフトに弦を引く奏法)」の軋んだ音が奏でられた後、ピアノの長三和音で締め括られます。

第2曲  Rasch(速く)
第1曲とは打って変わり、激しい曲調。細かい音価で刻まれるスピード感のある部分と、緩やかな部分が矢継ぎばやに差し込まれます。ダイナミクスの幅が大きく、跳躍する音程も頻出し、表現主義的なコントラストの強い曲です。

第3曲 Sehr langsam(非常に遅く)
再びヴァイオリンの弱音で始まる緩徐楽章。全体を通して音量はpppのみ。「kaum hörbar(ほとんど聴こえないように)」という指示が3回あるように、極弱の世界で濃淡が描かれます。

第4曲 Bewegt(動きをもって)
ヴァイオリンのffのスパークの後、続いてピアノもfで演奏されますが、すぐにエネルギーはpppへと減衰していきます。第2曲と並んで緩急のある曲ですが、動きはよりダイナミックで、最後は「wie ein Hauch(息のように)」と指示されたヴァイオリンの下降音型で静かに幕を閉じます。

【参考文献】
石田一志『シェーンベルクの旅路』、東京:春秋社、2012年。
岡部真一郎『ヴェーベルン―西洋音楽史のプリズム』、東京:春秋社 、2004年。
近藤譲『ものがたり西洋音楽史』東京:岩波書店、2019年。
沼野雄司『現代音楽史: 闘争しつづける芸術のゆくえ』、東京:中央公論新社、2021年。
長島喜一郎『ウィーン作曲家めぐり: 音楽と歴史の街を行く』、東京:酣燈社、2004年。
『作曲家別名曲解説ライブラリー16 新ウィーン楽派』、東京:音楽之友社、1994年。

【公演情報】
Phidias Trio vol.5 "Connect the Dots"
2022年6月23日(木)19時開演 杉並公会堂小ホール

チケットお申し込み (peatix)

安良岡章夫: アリア・スコンポスタ II (2020)
安良岡章夫: 無伴奏ヴァイオリンのためのアリア (1992)
アルバン・ベルク: 室内協奏曲より 第2楽章 アダージョ (クラリネット三重奏版)
アントン・ウェーベルン: ヴァイオリンとピアノのための4つの小品 op.7
トーマス・ヴァリー: Soliloquy (2012) 日本初演
ゲラルド・レッシュ: Sostenuto (2017) クラリネット三重奏版世界初演
ヨハネス・マリア・シュタウト: Bewegungen (1996)

出演
Phidias Trio(フィディアス・トリオ)
ヴァイオリン 松岡麻衣子
クラリネット 岩瀬龍太
ピアノ 川村恵里佳

主催:Phidias Trio
助成:公益財団法人東京歴史文化財団 アーツカウンシル東京
文化庁「ARTS for the future! 2」補助対象事業


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