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【観劇録】劇団四季・バケモノの子(割と良い)

こんばんは。これまでスレチかなと思って遠慮していたんですが、実は、ミュージカル鑑賞も趣味にしてまして……。たまには観劇録でも書こうかなと思い立ったが吉日、先日見てきた、劇団四季の『バケモノの子(於四季劇場[秋](大井町・竹芝))』をご紹介します。

できるだけネタバレないように書いていますが、神経質な人は観てから読んでください。

【評価】
舞台★★★★★
演出★★★★☆
ストーリー★★★★☆
総合評価★★★★☆

総評:ついに来た国産大型商業ミュージカル

何にもまして、遂に(版権モノですが)四季オリジナルの大型商業ミュージカルがやってきたか、という感慨がありますね。日本発の大型ミュージカルは、これが初めてではないでしょうか。2.5次元とかも売れてはいますが、せいぜい数週間〜1か月程度の公演ですもんね。

四季では昔から、子供向けミュージカルなど、ちょくちょくオリジナルをやっていますが(これも割と良い)、ロングランを前提にした大型オリジナル作品は初。ついにぶち込んできました。

「一音落とす者は去れ」と言われる、超ストイック集団の劇団四季が送る、初めての大型オリジナル。正直、微妙だったらどうしようとドキドキしながら劇場に向かいました。

結論から言いますが、結構良かったです。これまで見てきた四季作品と比べても割と良い。簡単にまとめると、今風のスピード感と、超どベタなストーリー展開、そしてそれを支える四季のノウハウ。度肝を抜かれるわけではないけど、しっかり観れる良作という感じでした。(正直原作アニメはあんまり響かなかったけど)ミュージカルは良かった。とにかく各要素ごとの感想を見ていきます。

▽劇団四季(というか浅利慶太の)ストイック名言たち▽

詳報

舞台転換(進行)

まず敢えてここから触れたい。

最近はSNSによって情報が氾濫する時代。例えばJ-POP・J-Rockでも、前奏が短くなったり、ギターソロがなくなったりと、目まぐるしい楽曲が溢れるようになって久しいですね。

まず、バケモノの子を見た時に思ったのがそれ。ついにミュージカルにも、この波がやってきました。とにかく、ハイテンポで何度も切り替わる舞台セットが非常に印象的でした。

これまで、私の知ってるミュージカルでは、特に作品を代表するビッグナンバーのシーンになると、舞台の真ん中で主役が熱唱し、舞台上の他の俳優もひっそりとそれを見つめる、というパターンが多かったように思います。しかし、本作では、ソロ歌唱の裏でも、お構いなしに他の舞台装置にスポットが当たったり、動いたり、転換したり。

じゃあ、忙しない舞台になってしまっているかというと、そうでもない。

時に、私が個人的に、ミュージカルで1番重視してるのは、舞台転換の巧みさ(≒幕ごとのつながりの良さ)ですが、その点、これまでの四季のノウハウと頻繁な場面転換が、見事な融合を果たしていました。上手(客席から見て右側)でソロを歌っている間に下手(左側)が転換、ツラ(舞台前方)で芝居をしていると思えば奥は気付けば次のセットに。専用劇場と長年の経験があってこそできる、見事な舞台転換でした。

楽曲

Spotify以外の方はこちら

さて、次に音楽を。これもまた、最新のミュージカルという趣。とにかく、どの曲も、跳躍に転調に歌うのが難しい曲ばかり。これまで、ミュージカル曲というと、どちらかというとクラシック音楽の系譜をひいた曲が多かったように思いますが、バケモノの子では、どの曲も、オーケストラ伴奏ながらも、J-POPのようなテクニカルな曲が多かった印象。

曲調は、EDMにオーケストラ、はたまたロックなど多彩な趣向を凝らしたものになっていましたが、それが各場面や登場人物のキャラクターの違いを際立たせていて、どれも良かったです。

なお、どの曲も、曲展開はベタベタです。転調があるとは言っても、突飛な曲はなく、どれも日本人好みの安心曲。聴いていると、どことなく、これまでの四季のファミリーミュージカルのような、ハートフルな安心感さえありました。

逆に言うと、それもあってか、これまでに四季でやっているブロードウェイ輸入モノのように、しばらく頭の中でループしてしまうような、強い印象に残る曲はありませんでした。多分。もちろん、そもそも輸入モノのミュージカルは、アメリカで大ヒットしたものだけを仕入れているので、曲が良いのは当然ですが。ただ、バケモノの子も、神曲はなかったというだけで、もちろんどれも良曲なので十分です。

舞台表現

大道具小道具や衣装は、異常な凝り具合。衣装にも、伝統織物を使ったりと、大盤振る舞いでした。採算は大丈夫か劇団四季。コロナ明けだぞ……。

また、プロセニアム(舞台のフチ)は、この記事のカバー画像にしましたが、紙を破ったような縁取りで、あえて第四の壁(=舞台と客席を隔てる架空の壁)を強調するような仕様。そのプロセニアムも、気づけば色が変わっていたりと、細部まで妥協なしの作りになっていました。

なお、セットは、何種類も(4セット?)あって圧巻でしたが、それよりも、舞台構造としては特筆すべきは、紗幕(舞台ものでよく使われる、網戸のように奥が透けて見える幕)が3枚に分かれていて、変幻自在なこと。この構造こそが、先ほど述べた、矢継ぎ早の場面展開を支えているようでした。

もちろん、紗幕と照明・映像もうまく組み合わせていてました。舞台始まってすぐ、タイトルが出る場面は、特によくできていて、物語の始まりから一気に舞台に引き込まれるよう。ただ、さっきも書いた通り各種道具もよくできていて、映像に頼りすぎているわけではない。さらに、パペットもかなり凝った作りになっていて、動かし方もさることながら、使い方や構造も、これぞ舞台的表現と言える妙技が光っていました(あんまり言うとネタバレになるので、現地で見て見てください!)。

最後に、表現上の特色を少し。本作はバケモノの世界(渋天街)と人間界(渋谷)が出てきますが、渋谷の象徴として用いていたのが、警察官。これは、かなり印象的でした。確かに、警察官というのは、人間界にしかいない存在ですし、日常生活でも警察の制服を見ると、やましいことがなくても、どこかやっぱりピリッとしますから、象徴としては持ってこいなのかもしれません。

最後に:チケットの売れは微妙か、今後に期待

というわけで、特にミュージカルファンなら、一見の価値ありです。国産作品の雄として見ておいて損はない。

四季はここ最近、オリジナル作品の制作に力をいれています。もう、十分にディズニーとの提携でお金は溜まったということなんでしょうか。2010年代半ばは、あまり新作オリジナルを作っていなかったのですが、2018年に社内に企画開発室が設立されてから、制作を再開。それ以来、ロボット・イン・ザ・ガーデンなど、良作を送り出しています。

このバケモノの子が、企画開発室が立ち上がって以来の、一連の新作の集大成ということなのだと思いますが、どうも若干チケットの売れ行きは微妙のよう。今年(2022年)の4月に始まったばかりなのに、既に土日公演でも、当日でS1席でさえ売れ残っていることが多く、若干心配。閑古鳥というわけではないですが、もう少し評価されてもいいかと思います。

近年、アラジン・アナ雪・美女と野獣と、矢継ぎ早にディズニーものを取り入れ、気づけばディズニーの子会社かと思うくらいラインナップが偏ってしまった四季。本作をきっかけに、今後もオリジナル作品をリリースし、いつの日か、ブロードウェイ(アメリカ)、ウエストエンド(イギリス)に並ぶ、一大ミュージカル原産地へと飛躍していってほしいですね。今後に期待です。

なお、バケモノの子の東京公演は、2023年3月21日が千秋楽。その後は、2023年12月から大阪公演に移ります。東京の人はお早めに、大阪の人はお楽しみに。

▽東京ラインナップは、おかしいくらいディズニーに寄っている……▽


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