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USJ 進撃の巨人・ザ・リアル 感想

私は根の暗い人間なので、悲劇に浸ってうじうじすることが好きだ。

同時に面倒臭い人間でもあるので、悲劇に対して憤慨することも好きだ。

なので、私はアニ・レオンハートが好きだ。キャラクターの大半が悲劇を背負う進撃の巨人という作品の中で、ひときわ輝いて悲劇的だと思うから。

もちろん彼女の人格や造形といったキャラクター的な部分も好きだ。しかしその人格や造形だって、彼女の悲劇的なバックボーンから多大な影響を受けて形成されている。

誰とも慣れ合わない一匹狼でいたのは、慣れ合ってしまったら裏切ることが辛くなるから、とか。

ライナーやベルトルトに比べて小柄な骨格は、幼い頃から過剰な格闘訓練を課せられて筋力発達が先行し、骨の成長が阻害されたせい、とか(個人の感想です)。お父さんのことが好きすぎるのは、お父さんしかいなかったから、とか、お父さんのことを食べてしまったからとか(個人の感想です)。何かもう、全部つらくて、全部愛おしい。

もちろん、彼女の悲劇が具現化した姿とも言うべき女型の巨人も好きだ。

というか、女型の巨人の中身だったから、アニを好きになった。読み方が雑なもので、7巻までは彼女のことはほぼ認識していなかった。8巻を読んで、慌てて1巻から読み返し、彼女の孤独と絶望を思って咽び泣きながらアニ沼へ転げ落ちたのだ。そして、そんな彼女のもう一つの姿だったからこそ、女型の巨人も好きになった。分割して考えることはできない。まどマギで言うところのさやか担が泣きながらオクタヴィアを崇め奉る感じと多分似ている、ような気がする。勝手に親近感を抱かれてさやか担もさぞ迷惑だろう。


なので、”等身大の女型の巨人”と聞けば、会いに行かざるを得なかった。

行かざるを得ない、とか言うわりには行動が鈍く、ぼーっとしているうちに土日のチケットが完売していた。結局有給を取って行ってきた。3月20日金曜日。どうせ有給を取るなら学生たちが春休みに入る前に行くべきだった。

とにかく行った。

女型の巨人は、空の近くで戦っていた。

すごかった。

エレン15m、女型14mのスケール、圧倒的な存在感。それでいて全く大雑把でなく、細部まで美しく再現されている。足元で並んで記念撮影している罪のない学生たちに「アニちゃんがあんなに一生懸命戦っているのにお前らは何を呑気にダブルピースしてるんだ!! ふざけるな! 早く避難しろ!!!」とキレそうになる自分を押し殺しながらオペラグラスを取り出して、震える手でピントを合わせる。

明らかに信仰の対象となるべき造形だった。女神に近い何かだった。

皮膚の生成を省いているのか、女型の巨人は他の巨人とは違って筋肉をむき出しにしている部分が多く、そこに違和感・おどろおどろしさがある。赤身のむき出しでない部分は、白くなめらかな皮膚に覆われていた。隣のエレン巨人のやや浅黒い肌と、質感さえも明らかに違う、陶器のような皮膚だ。これ、筋肉部分をすべて皮膚で覆ってしまったら、ただの巨大な美人feat全裸になっちゃうからアウトなんだろうな、などと罰当たりなことを考えた。彼女には、一般の巨人(?)によく見られる体型や顔面の崩れは一切ないのだ。

特に注目してほしいのは歯とくちびるだ。

このイノセントさを語る言葉を私は持たない。巨人になったアニ・レオンハートに、唯一残された少女のパーツ。聖少女領域。造型師さんありがとう。彼女はファーストキスも経験せぬまま巨人となって、人類の敵と誹られ、恐れられ、排斥されて結晶の中へ逃げ込んだのですねわかりました。しかと心に刻み込みました。ほんとうにありがとう。

足も見てほしい。上が女型の足で下がエレン巨人の足。「アニは巨人の体で歩き慣れているから、エレンと違って爪がきれいだね」と同行していた友人が指摘してくれた。興奮した。


たくさんの人たちが、エレンと女型の戦いを見に訪れていた。女型キックの真似をする子供がいたり、足に触りに行くやんちゃな学生がいたり、おそらく原作を知らないのであろう人が呆然と見上げていたり、調査兵団マントを纏った人が一眼レフを構えていたりした。

私は嬉しかった。『進撃の巨人』が死ぬほどメディアミックスされる中で、アニが取り上げられる機会は限られている。主人公エレンと稼ぎ頭リヴァイ兵長が前面に立ち、その脇をたくさんの魅力的なキャラクターが固めているので、8巻で退場した、しかも一応悪役であるアニの出番はとても少ないのだ。そんな彼女がこんな目立つポジションに! 巨大な像に!! こんなに大勢のお客さんに注目してもらっている!! その状況を私は勝手に喜び、誇らしく思っていた。多くの人が彼女の美しさに触れてくれることが嬉しかった。

しかしこのジオラマは、まだメインディッシュではなかった。

いや、メインディッシュと言って差し支えないとは思うのだけれど、あくまでここは誰でも見られる屋外のゾーンであって、並んで入る屋内ウォークスルーアトラクション『進撃の巨人・ザ・リアル』は別に存在しているのだ。

永遠に屋外の巨人ではしゃいでいても良かったのだが、幸運にもアトラクションのファストパスを確保できていたため、そちらも楽しんでくることにした。


※ この先、アトラクション内部の写真を掲載しています。グロ耐性の低い方は念のため閲覧に注意してください ※


参加者は兵士という設定で、壁が破られこの世界が脅威に晒されている現実を理解するために、各部屋のスクリーンに流れるアニメのダイジェスト版をアルミンの解説付きで見ながら、ウォークスルー形式のアトラクションを進んでいく。「子どもの兵士や背の低い兵士は前へ来るように! 背の高い兵士は前を譲れ!」という絶妙に世界観に配慮したせりふを案内役の兵士がとても真剣な声で言ってくれるので、私たち素人兵士も身が引き締まる。

事前情報では、兵長とかミカサとかアルミンとかが、リアルなお人形で再現されているとのことだった。ツイッターでも流れてくるのはその3人の写真ばかりで、『ザ・リアル』とか言っても3人だけのお人形展示会なのかな?と、ぶっちゃけあまり期待はしていなかった。

そしたらこのありさまですよ。

ハーフカットマルコ……!

兵士スタッフが厳しい顔で「この先は被害の処理が済んでいない部分もある! 心して進むように!」とか何とか言ったと思ったら、突然のハーフマルコ・ザ・リアル。断面ふつうにこっち向きで断面。ちょ、ちょっと、子どもの兵士もいるんですよ? ここ日本最大級のテーマパークでしょ? 原作未読の兵士もいるんじゃないですか?? これがクールジャパンというものなのですか??? 正気か???

そりゃ誰もツイッターで流さないはずだよ。

炎上だよ。学級会だよ。

私の動揺をよそに、足元では子どもの兵士が冷静にDSを構えて写真を撮っていた。平成生まれ心強い。日本の未来は明るい。まさにクールジャパン。

クールになりきれない昭和の兵士は震えながら次の部屋へと進んだ。

次のスクリーンでは話数が進んで、昭和の兵士が心から愛する女型の巨人が、絶望と恐怖をぎっしり詰め込んだエフェクトを背負って森を駆けていた。

けどもはやスクリーンとか見てる場合じゃなかった。

スクリーン周りに散らばるリヴァイ班の残骸・ザ・リアル。

大写しにされる女型の巨人の大虐殺に合わせ、順々にスポットライトを浴びる、グンタさん、エルドさん、オルオさん、ペトラさん、だったものたち。

四つの命を肉塊に変えたのは女型の巨人だ。

蝿を払うように。

草を薙ぐように。

眉ひとつ動かさず平然と。

あいつがころした! 勇敢な兵士を、戦友を、恋人を、娘を、あいつがころしたのだ! スクリーンの中では4回の決定的瞬間が余すところなく上映され、エレンの瞳に、狂気に近い憎悪が燃え上がる。

案内役の兵士が叫ぶ。

「現在、ウォール・シーナ内で、女型の巨人捕獲作戦が進行中だ! エレンは既に巨人化し、戦っている! 次の部屋でエルヴィン団長からの激励を受け、すぐに応援に向かえ! 諸君らの働きに期待している!!」

次の部屋には兵長と、ミカサとアルミンのお人形がいた。団長からの激励ムービー的なものを見て、お人形を好きに撮影して、それで終わり。すっかり兵士になった私たちがゲートを出ると、ちょうど正面に、怒れるエレンと女型の巨人が市街戦を交えている、という仕組みだった。

ひどくかなしい気持ちになった。

アトラクションに参加した人のうち何割が原作読者で、何割がアニメだけ見た人たちで、何割が全く知らずにもぐりこんだ勇者なのか、私は知らない。

けれど原作読者以外は確実に、それと原作読者もかなり多くの人が、女型の巨人=アニ・レオンハートへの憎悪を抱いただろう。ひとごろしのヒトデナシ、裏切り者、人類の敵、鬼とか悪魔とか、そういうふうに思っただろう。あんなにリアルに彼女の罪を再現して突きつけられたら、本能的に、感情が動くだろう。現在進行中の原作の中では、少しずつ人類の正義が揺らいできてはいるけれど、それだけだ。ここでは女型の巨人がラスボスだ。彼女にあったはずの事情なんて、誰も知らない。かなしいことに、私だって知らない。

満員御礼の、普通に並んだら300分待ちの『進撃の巨人・ザ・リアル』。

毎日毎日たくさんの人が吸い込まれ、彼女への恐怖と憎悪を培養されて、外の世界に出てくるのだ。こんなに多くの人が彼女の美しさに触れてくれるなんて! とあんなに嬉しかったはずなのに、今はその規模が恨めしかった。憎まれるために生まれてきたわけじゃないのに。作品のことをよく知らない人にまで、よくわからないまま憎まれてしまうなんて。

彼女への憎しみを心に秘めた群衆に揉まれながら、もう一度彼女を見上げた。

それでも彼女は美しかった。

憎悪の視線を一身に集めながらも、より一層美しかった。今しがた人間のからだを二等分した門歯の列も、それを飲みこむことなく吐き捨てたくちびるも、輝くまでにイノセントだった。

私は、全人類の憎悪を浴びせられているからこそ、彼女が好きだったのだなあ、とぼんやり気づいた。世界のすべてを敵に回すこと以上の悲劇なんて、思いつかない。

アニ・レオンハートが好きだ。

心はえぐられたけれど、そのことに改めて気づけてよかった。


レオンハート好きの人は、絶対に行くべき展示でした、ほんとうに。

それほど好きじゃないという人は、行って、憎んで、私がうじうじする材料を増やしてください。6月28日まで公開延長になったみたいです。

http://www.usj.co.jp/universal-cool-japan2015/shingeki/

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