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進撃16巻感想/新リヴァイ班の殺人について

おめでとう! 人類復興のために心臓を捧げた少年少女たちがついに自らの手で人の命を奪う人殺しに進化したよ〜〜!!

この日が来るのを私はずっと待っていた。進撃の巨人16巻は我らの福音となるだろう。14-15巻あたりでは巨人が出なくてつまらない〜などという感想もよく目にしたが、私はずっと高まり続ける期待に胸を踊らせていた。無垢の一般人代表、何も知らない被害者、読者の目線にいつも寄り添ってくれたジャン・サシャ・コニーが、殺人という壁の向こう側の人になってしまうその瞬間を待っていた。

社会生活を営む人間にとって、殺人は最悪の犯罪、最大の禁忌だ。考えてもみてほしい、彼らはなぜ巨人と戦っていたのか。巨人が人を殺すからだ。人を殺す巨人を許せないから、駆逐してやるのだ。そんな気高き兵士である自分が人殺しになってしまうなんて、作中でも葛藤の様子は丁寧に描かれているが、ほんとうにキツい話だと思う。

特にサシャ。

サシャの持つスキルの中で唯一にして最大のマトモな技能、生きるため食べるための弓術で獲物でも何でもない人間を殺すのは、兵士の道具であるブレードで殺すよりも一段重い罪に問われるように思われて不思議な悲壮感がある。彼女に弓矢を教えたお父さんは、いつか娘がその技術を使って人を殺すなんて思ってもみなかったろう。このことを知ったらどんな顔をするだろう。教えなければ良かったと、一瞬でも思うだろうか? サシャ本人はどんな気持ちなのだろうか?

“父親仕込みの技術で殺戮を行った少女”といえば、この世界にはもう一人、とんでもない先駆者がいる。

体ひとつで何人もの兵士を肉塊に変えた、女型の巨人アニ・レオンハートだ。アニメ外伝によれば、故郷での彼女は朝から晩まで父親の監視下で丸太を蹴って過ごしていたという。その技術がいずれ人類全てを敵に回して戦うためのものだったなんて、当時のアニは、そしてどうやら父親も、知らなかったような節がある。

今回の地下空洞での戦闘は、巨大樹の森での女型戦の変奏ではないかと思う。

森では、調査兵団が追われる(迎え撃つ)側、女型が追う側だった。今回は調査兵団が追う側で、中央憲兵が追われる(迎え撃つ)側。そしていずれも、目的はエレンの奪取である。意図的かどうかは分からないが、かぶっていると感じる描写も端々に見られる。

侵入者に圧倒的な力の差を感じて絶望に呑まれかける感じとか。

ミカサの柱キック殺法に既視感あるなぁと思ったら女型だったり。

これは立体機動装置を活かすという制約上メタ的に仕方ないけど、地形もそっくりだったり。

そして行われる、殺し合いにもならない一方的な殺戮。

私はUSJでの体験を思い出していた。(根に持つタイプですみません)

USJ『進撃の巨人・ザ・リアル』は、ひたすらに女型の巨人への恐怖と憎悪を煽って、煽って、アニ・レオンハートという一人の人間が抱えていたかもしれない事情について何のフォローもすることなく投げ出して終わる。

あれを体験して女型の巨人ひどい! ゆるせない! コロス! って思った人たちには本当にこの16巻を読んでもらいたい。アニメだけ視聴組の人たちにも是非。

あの時の女型と全く同じことを、新リヴァイ班は、やった。

旧リヴァイ班が無慈悲に殺されたように、新リヴァイ班は無慈悲に殺した。正義を異にする人間を、自分と対等な一人分の人権を有する相手を、明確な殺意をもって殺した。自分たちの正義を達成するために、相手の正義は武力で黙らせ葬った。こちらから乗り込んで行った結果の戦闘だから、ギリギリ報復ではあっても、正当防衛ではない。みんなのヒーローリヴァイ兵長も、普通の子供だったはずのジャンサシャコニーも、ミカサもハンジも立派な人殺しだ。

新リヴァイ班の殺人と女型の殺人の違いは、読者にその殺しの正義が説明されたか否かだけだ。

新リヴァイ班にもためらいなく石を投げつけられる人間だけが、アニ・レオンハートにも石を投げる権利がある。そんな人いてほしくないけど。



ちなみに、16巻では殺しに参加せず補助の役割に徹していたアルミンは、15巻で一足早く大人の階段を上っている。

この状態を経由して、今回の戦闘では効率的殺人のための作戦を立て、ジャンサシャコニーが人殺しになるのを一歩引いた場所から眺めていた賢い彼なら、「アニもこうなったの…?」くらいのことは考えてくれるんじゃないかなぁ…! アルミンでなくてもいい、人殺しの階段を上った同期の誰か、正義に対立するのは他の正義であることに気付いた誰かに、一刻も早くアニのことを思い出してみてほしい。どんなふうに考えるのかすごくすごく見たい。ミカサは本質的に人殺しとしての自責がなさそうだから除外します。

16巻、アニなんて1コマも出てこないのにどうしてこんな感想になった。

17巻にも出てくる気配ぜんぜんない。

会いたければUSJに行くしかないということなのか。6月28日までです。(巧妙なステマ)

http://www.usj.co.jp/universal-cool-japan2015/shingeki/


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