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短編 | 2月のお別れ

「明日、会えるかな?」と彼から連絡が来た。
「もちろん、会いに行きます」と私は答えた。

 彼からの誘いはいつも会う日の前日にくる。きっと寂しいのだろう。忘れられない女の穴埋めでも、私が好きな人だから、必ず会いに行く。

 いつものカフェで待ち合わせて、コーヒーを一杯飲んだらホテルに向かう。

 私は彼のズボンを下ろす。そのまま彼を愛撫する。ほとんど流れ作業のようになっていた。
 彼を受け入れてコトが済んだあと、余韻に浸る間もなく「今日もありがとう」と言われた。

「少しは気持ちがまぎれたかしら?」

「今日で終わりにしよう」

「えっ、それはどういうこと?」

 彼は煙草に火をつけた。しばらく沈黙がつづいた。

「やっぱり君では、僕の心は満たされない。愛せないんだ。君のことを」

 そんなこと、言われなくても分かっていた。あなたの最愛の女性は、他の男のもとへ移っていったのだから。

「いいのよ、私といる時も、あなたがあの女のことを思い浮かべていても。私はそれでもあなたを愛しているから」

「けれども、俺は君を愛していない」

「あの女はあなたを愛していなかった。あなたはただの繋ぎだったのよ」

「そうだろうな。でもそれでも俺の心は、あいつから離れられない」

「私はあなたの繋ぎにもなれないということかしら?」

「悪いけどね、穴埋めの積もりだった。けれど、君を抱いても穴の空いたバケツに水を注ぐような感じでね」

 この言葉を彼から聞いたとき、私も彼とはお別れすることが頭をよぎった。
 私が求めているのは、私自身が1番愛している人ではなく、私のことを1番愛してくれる人なのだから。

 彼の言葉は、自分が愛という言葉に、何を求めているのかということへの答え合わせとなった。
 「でも」、と思う。彼との長い付き合いのことを振り返ると、自分の最愛の男性の最愛の女性になりたかったんだという思いは消せない。
 叶わぬ夢を抱いたままでは、私はもう眠ることが出来ない。
 神様、私に死という眠り薬をいただけませんか?



(おしまい) 




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