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予言者 | 第4話 | 消えた体・飛んだ魂



第1話 | 青い服の女

第2話 | 予言者の誕生

第3話 | もう1人の予言者との遭遇


第4話 | 消えた体・飛んだ魂


「もしかしたらユウキさんは、私に未来を見る力があると思っているのかもしれない」

 ユウキさんと出会ったあと、私は街をさ迷っていた。
 あの時、いちばん好きだった男の子は、たぶん私のせいで死んでしまったのだろう。たとえそれが、彼の運命だったとしても。


 しかし、少し話が厄介になってきた。あのユウキさんという人は、どうして『脳内スクリーン』の能力を身につけたのだろう。

 私がこの能力を身につけたのは、あの神社で、賽銭を盗もうとした当時付き合っていた彼が、神主を殺してしまったときだった。

 目の前で起こってしまった現実から逃れたかった私は、どこかへ飛んでいくことを願った。


 あの日、神主の遺体の始末に困っていた私たちは、神社の社務所にいた。さいわい、人などほとんどやってくる神社ではなかった。

「だいたいコイツが悪いんだ。賽銭箱から少しカネをくすねたくらいで血相を変えてさ」

「そうよねぇ。100円、200円くすねたくらいで、怒鳴りちらすんだから」
私は心とは裏腹に彼に口裏を合わせた。

「だろ?そんなに悪いことしていだろ?庭掃除用の箒を振り回して、いきなり殴りかかってくるんだから。神主と聞いて呆れちゃうよな」

「そう、あなたは悪くない。あの状況ではやり返すしかなかったわ」

「やっぱりそう思うだろ?カナコも」

 そのとき、社務所の影から、妙な音が聞こえた。

「誰かいるのか?」

 彼が叫んだ。

「あっ、子どもがいる。あの子も始末しないと」
 私も叫んだ。

 追いかけた彼は、子どもを追いかけた。追い付いた彼は、神社の階段から子どもを突き落とした。

「やり過ぎだわ!」

「こうするしかなかったじゃないか!」

 激昂した彼は、どうやら私のことも突き落としたらしい。

 気がついたときには、私の魂は、別の時代の別の体をもつ女の子に宿っていた。

 今でもときどき思う。あのあと、彼は逮捕されたのだろうか?あのとき、彼が突き落とした男の子は無事だったのだろうかと。

 しかし、信じがたいことだが、これも運命なのだろう。あの日私が宿っていた女の体は行方不明になり、魂だけが「カナコ」と呼ばれる現在の私の体に宿ることになった。

 肉体と魂は相即不離のモノではない。魂は時空をこえ、突然どこの誰だかわからない体にのりうつることもあるのだ。


「これから、どうするつもり?」
 
 アカネが久しぶりの僕の部屋にやってきた。

「どうもこうも、今のところどうすればよいかわからない。カナコさんの過去を探ろうとすれば、きっとまた妨害されるだろう」

「『脳内スクリーン』を使うのが危険だとすれば、足でかせぐしかないかもね」

「『足でかせぐ』とは?」

「普通に調べるってこと。何も特殊能力がない人が普通に調べるやり方」

「警察の捜査みたいな感じ、ということか」

「そう。カナコさんの過去を調べるには…。」

 そのとき、僕はふと妙なことを思った。アカネは僕の彼女だから、僕のことに興味があるのはわかる。しかし、カナコさんのことを調べるためには、何らかのリスクを伴いそうなことがわかっているのに、なぜアカネはここまで熱心になるのだろう?

「アカネ、ちょっとさっきから頭の片隅で思ったんだけど、カナコさんのことを調べるよりも前に、僕は自分自身の過去ともう一度向き合おうと思っている。『脳内スクリーン』という僕の能力が身に付いたのは、神社でも出来事があったことと深く関係がある。そこになにかしらヒントがあるんじゃないかと」

 こう言ったとき、アカネの顔が、少し歪んだように僕には思えた。


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