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Hello, Mister 第2話【原作】

本日のお話

本日のお話はこちらの第二話の内容となります。(かなり1話に比べて映像をイメージしてセリフ中心の書き方になっています)

第2話

「こらー!!いい加減にしろ!こんのクソガキぃ!」

「ジ、ジルおじさん!今日はまた一段と諦めが悪いね!」

「当たり前だ馬鹿野郎!今日という今日は許さねえぞ!」

その怒号はもはや町の人々の日常となりつつあった
いつものような光景をみて、ブランは呆れながら言った

「ハハ、、、またやってるよ、あの2人」

その少年は「悪ガキのリド」という愛称でその町に知れ渡っていた
この小さな田舎町では悪さをすれば一瞬で知れ渡る

そんな小さな町で悪事を働くリドに対して町の人々は嫌悪感を抱くようになっていた。

ある日の昼過ぎ、あの小さな丘の上でフィズは町を眺めていた

「おじさん何やってんの?」
声をかけたのは今朝パン屋のジルとかけっこしていた少年、リドだった。

「ん?この町を見てるんだ」
「見て…それで?なにかあるの?」
「町があるじゃないか」
「変なの。おじさん郵便屋さんでしょ」
「そうさ。何か届けて欲しい手紙はあるかい?」
フィズの言葉にリドは興味のない様子で返した。
「ないよ。手紙なんて、書いたこともない」
「書いてみるといい。言うほど悪くないぞ。手紙というのは。」
「ふーん」
「ところで君は?泥棒かい?」
「うっ見てたの?」
「ああ、パン屋の主人が怒鳴り散らして町中を駆けていたからね」
「おじさん。ぼくを捕まえないの?」
「おじさんは郵便屋さんだ。おまわりさんじゃない。」
「そっか」
「そうさ」
少しの沈黙の後にリドは気を取り直したように話し始めた
「ぼく、リド。おじさんは?」
「フィズだ。よろしくリド。」

そう名乗ると同時に猫がフィズの足元へやって来た
「やあミスター。今日もいい日だね。」
「その猫。フィズさんの?」
「いや、そうじゃない。彼もこの町へやってきたお客さんだ。僕と彼は友達なのさ」
フィズがそう言うとリドはじっくりと猫を見つめながら目線が近くなるようにしゃがみこんだ。
「ふーん。やあミスター」

また少しの沈黙の後に今度はフィズが話した。
「そのパンは私が買おう」
その言葉を聞くとすぐにリドは手にしていたパンを抱え込んだ
「ダメだよ!これは渡さないぞ!」
「そうじゃない。そのパンをパン屋の主人から私が買うんだ。
 きみはそれを持っていくといい」
「ありがとう。おじさん。」
「でもリド。どうして君は毎日のようにアダムスベーカリーのパンを盗むんだい?」
「…。」
「君が毎日のように盗みを働けばそのパンも食べれなくなってしまうかもしれないぞ。」
「…。」
「もう盗みはしないと、私と約束してくれないかね?」
「...わかった」
「よろしい。いい子じゃないか」
「じゃあ僕はもういくね。本当にありがとうおじさん」
「ああ、気をつけるんだよ」
「うん。ばいばいミスター」

そのままフィズはジルのパン屋、アダムスベーカリーに足を運んだ
「失礼」
「これはこれは町長さんパンをお求めで?」
出迎えたのはジル・アダムス。この町でパン屋を営む彼は正義感が強く厳格な性格で、町の人からも愛されるような存在だった。
「ええ、実はある少年からパンを買ってね。」
「あのクソガキから?こりゃ、面目ねえ。」

フィズはお金を渡しながらジルに言った。
「ご主人。つかぬ事をお聞きしますが、あのパンは本当に彼に盗まれたのですか?」
「どういう意味だ?」
「表に彼が盗んだのと同じ商品が」
「そりゃあいつがそっから盗んだものだからな」
「正直、あそこにあれば誰でも盗めます」
「何が言いてえんです?町長さん。」
ジルの言葉にフィズは笑顔で答えた。
「いや、わざと盗ませているのではないかと思ってね。私だったら、彼のような常習犯がいると知って、あそこにわざわざ商品は置きません。」

ジルはフッと小さく笑うと観念したように話し始めた

「町長さん、郵便屋なんてやめて探偵でも始めたらどうです?すごい推理力だ。ここで立ち話もなんだ。奥へどうぞ。茶でもだしますよ。」

ウィスキーを一杯ストレートで飲んだ後、またグラスに酒を注ぎながらジルは言った。
「俺はね、アイツに自分でちゃんとこの町で生きてほしいんだ」

「といいますと?」

「アイツは良い奴だ。
 困ってる奴を放って置けねえ、自分より誰かをいつも優先しちまう
 心の優しい奴なんだ。
 そいつが生き方を選べねえのが、可哀想でな

 俺も昔はあのクソガキと同じ孤児だったんだ
 このご時世、孤児ってだけで忌み嫌われ、避けられる
 仕事をくれる奴なんて滅多にいねえ
 そもそも孤児ってだけで雇ってさえくれねえんだ
 だから俺はアイツのように盗みを働いたり
 もっと褒められないような悪事も働いた
 裕福な老人から金を巻き上げたりな...
 そうでもしねえと生きていくのがやっとだったんだ」

フィズは黙ってジルの話を聞いた

「ある日俺は裕福そうな老人に因縁をつけて金を巻き上げようとしたそしたらその老人が言ったんだ

「私が君を雇ってやろう。そのかわり、もうこんな悪事を働くのはやめなさい」

意味がわからなかった。こんなどこのどいつかもわからない奴を雇うなんて頭がおかしい奴なんだと最初は思った
でも続けてそいつはこうも言った

「君は夢を持ったことがあるかい?明日明後日食いつなぐ人生ではなく、1年後2年後を見つめる自分になりなさい。君がまた明日もここでこうやって悪事を続けたいなら別だがね」

今更真っ当な生き方なんて望んじゃいなかったが、この生活を続けたいなんて思わねえ。どうせ失うもんなんてなかったんだ。だったら怪しくてもなんでもその老人に雇ってもらう選択を俺はしたのさ

老人の正体は貴族ブルガリ家に仕える執事長でな
その人は俺に雑巾の絞り方から食器の磨き方、トイレ掃除の仕方からテーブルマナーまで何もかも叩き込んだ。

そして俺がやっと一人前に執事として仕事ができるようになったある日

その老人が死んだ

元々歳食った爺さんだったんだ。なんの不思議はなかった。ブルガリ家の主人は悪い人ではなかったんだが、当たり前のように次の執事がやって来てな。爺さんの葬儀の翌日からは何もなかったかのようにいつもの毎日が戻ったよ。俺はそれをきっかけに執事をやめたんだ

そうしてこの町に来た。

執事として働いてたのはほんの3年くらいだ。でも、この町で俺を孤児としてみる大人は1人もいなかった。俺はもうその時、孤児でなく貴族の元執事になってたからな

わかるか?町長さんよ
俺はな、孤児でも生き方を選べるって知って欲しいんだ。あの時の俺みたいにな」

「なるほど、あなたは盗みを働く彼が望むならここで働かせても良いという腹積りなのですね」

「ああ、盗人を働く孤児って言えば印象最悪。誰からも相手にされてねえ。アイツはもうこの町でそれなりにイメージがついちまってるからな。でも、そんな奴が真っ当に働いてるとなったら人の見る目は変わる。最初は怪しむ奴らもいるかもしれねえ。でもちゃんと人のために働くアイツを見れば孤児なんていうレッテルはただの飾りになってくんだ。人のイメージってのは目の前で現実を突きつければ簡単に変えられる。改正したっていう事実さえ一回植え付けちまえば、人の見る目なんて変わっていくのさ

人生は変えられる。生まれ育った時代や、家柄は選べねえが、そこでどう生き、どうもがくかは自分で決められるんだ。
ただの孤児の貧しいクソガキだった俺が今じゃ自分の店を持ててるんだ
運が良かっただけかもしれないが、もしそれがなにかの巡り合わせなら
俺がアイツのいるこの町でパン屋を開いたのだってなにかの巡り合わせなんだ

町長さん、アイツ俺の店からパン盗んだらどこにいくか知ってるか?

「...どこにいくか?」
フィズは首を傾げた

「仲間のところだ。しかも自分より小さい孤児たちの元さ。きっと教会もパツパツなんだろうよ。食事を十分に食わせてやれてないのかもしれない。

ある日、パンを盗んだアイツをつけてみたんだ。もちろんとっ捕まえるためにな。
そしたらアイツ自分が食うパンをぬすんでるのかとおもいきや協会にいる自分より小さい子供達のために盗んでやがった
自分の分は二の次さ。あいつだってまだガキなのによ...

俺はその日から、盗まれても良いクズのパンばかり店頭に置くようになったのさ
もちろん。アイツに調子乗られちゃ困るからな下手に盗もうならとっ捕まえてしばいてやるが」

店主は笑いながら残ったウイスキーを飲み干した

「わかったかい
 俺は確かにあんたのいうとおりわざとアイツに盗ませてやってる
 それが良いことなのか、悪いことなのかはわからねえ
 でもな、俺はアイツをこの町の住人にさせてやりてえ
 アイツが改心した時、盗まれている店が俺の店だけなら、
 まだやり直せるかもしれないからな」

「そうでしたか...なんとも、町長として情けない。私は、この町の最も目を向けるべき所に、気づけていなかったようです。」

「あんたはよくやってると思うよ。ただのパン屋が偉そうに申し訳ないけどな。」

「いえ、教会の方には食事の準備がしっかりできるよう、私から支援させていただきます。」

「ああ、よろしく頼むよ」
ジルは嬉しそうに言った。

「でも、」
ジルは少し寂しげな表情に変わり話し続けた

「なんだか、寂しくなるな。それはそれで。」

ある朝、数日ぶりにジルの声が町に響いた
「まてえ!お前サボってばっかり!」
またジルがリドを追いかけていた。その光景は見慣れた光景だが、少しだけ違っていた
追いかけられながらリドは町の皆に向かって叫んだ
「アダムスベーカリーは美味しいパンが売りだよ!
 焼きたての香ばしいパンの香りがしたらぜひアダムスベーカリーへ!」
「こらあ!お前、真面目に働けえ!」

そのいつもと少し違う光景を見たブランは嬉しそうに話した。
「ミキ、知ってるか?」
「何を?」
「最近、あの悪ガキのリドがアダムスベーカリーで働き始めたらしいぞ」
「へえ!でもなんであの2人今日もかけっこしてるの?」
「それは、わからん」
「でも、なんだかんだあの2人、やっぱり仲良いよね」

町中からはその光景に様々な声が聞こえた
「リドー!頑張れよ!」
「働くって大変だぞー!」
「ジルさん!厳しくしてやれー!」
町の人々からの言葉に、リドもジルもどこか笑顔だった

その日の夕方、リドは教会にきていた
両手にたくさんのパンを持ったリドは子供達に囲まれていた

「あのパンは?」
「ああ、町長。あいつ、給料を貰うや否やその金でパンを買いてえって言うから訳を聞いたら、孤児たちに食わせてやりてえってんだ。なんでも、あいつは無事働き始めたが、自分の妹も教会に世話になってるらしくてな」
「そうですか。いい従業員じゃないですか」
「ああ、あんなに小さいのに、俺より立派だな、こりゃ。」

子供達に囲まれ一緒にパンを食べながら笑顔で話すリドを見てフィズは言った

「いいかいミスター。それは“持つ”ものじゃない。
 長い歳月を共に過ごし、いつしか自分の体の一部のように
 感じてしまうくらい一緒に“育む”ものなんだ。
 だから、彼らのことを人は『家族』と呼ぶのだよ。」

「さてと、明日のお客様の笑顔のために、明日の仕込みをしますかね。
 おーい!リド!リド・コリンズ!あとでこっち手伝ってくれよ」

「はーい!ジルおじさん!」

フィズは耳を疑い、慌てて咄嗟に聞き直した
「今、なんと?」

「あ?どうしたんだ?町長さん」

「い、今、彼の名前をおっしゃいましたよね?彼の名はなんと?」

「リドだ。リド・コリンズ。どうかしたのか?町長さん」

「コリンズ...そうか、彼が、リド・コリンズ...」

つづく。

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