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Hello,Mister 第1話【原作】

ご挨拶!

こんにちは!

自分はお話をつくり、それに音楽効果音をつけて映像化し、YouTubeで「観る絵本」として公開しています!

今回は自主制作作品「Hello,Mister」の映像になる前の原作をnoteで皆さんに読んでいただきたいと思い、いつも書いている製作記事とは別に更新させていただきました!

もともと映像を作る上で書いた文章なのと、映像にすると約20分ほどの物語の原作となるので、それなりに長い上に拙いですが、よければ読んでください。

映像にしたのがこちらになります。


以下原作本文

「こんの泥棒猫!さっさと出ていけ!!」

小さな田舎町の一軒から男の怒号が聞こえた。
その大きな声に怯えるように一匹の猫が店から出て来た。

町は金色に染まっていた。この小さな町では男の怒号は町の端にいても聞こえてしまうほどだった。そんな静かで美しい町を黒い毛並みの猫が走っていった。
ふと燃えるような夕日が猫の目に映った。
その夕日を見ながら猫は人間たちに言われた言葉を思い出していた。

「こんの泥棒猫!さっさと出ていけ!!」
「何だいこの猫は?しっし!あっちに行きな!」
「あ?なんだ?野良猫か?お前にやる飯はないよ」

この町に来た猫は、ひとりだった。
町に来た理由はなかった。
来たくて来たのではない。
ただ、迷い込んだだけだった。

溶けるように落ちていく太陽を、猫はただただ見つめた。

陽の落ちた町は静かだった。

暗くなる町が怖く思えた猫は光に導かれるように町を歩いた。
気づけば町を一望できる小さな丘の上に来ていた。

そこでは温かく灯る街灯が猫を照らした。
理由はなかったが、猫はその光をじっと見つめた。

どこからか足音が近づいて来た。

「おやおや、これはかわいいお客さんだ」

そこには、男がいた。
男はそっと近づいて脱帽して静かにお辞儀をした。
「ハローミスター」

猫は驚いた。
自分にこんなにも礼儀正しくお辞儀をする人間がいるなんて。

猫は知らなかった。
会うだけで良い心の持ち主だと感じられる人間がいるなんて。

男は深々とお辞儀をすると脱帽したその帽子をかぶりながら続けた。
「今日はもう遅い 君さえよければ、私の家へ来るといい。温かいミルクでもご馳走しよう」

猫は、男の言う言葉の意味がわかったわけではなかった。
でも、ふとこの男は自分に冷たく当たらないだろうと感じた猫は自然と歩く男の少し後について歩いた。

「さあ、お入り」

男が開けた重い木の扉の中は外とは違う空間だった。
猫はその初めて訪れた温かい空間の片隅に、どこか懐かしさを感じた。

「さて、その冷えた体を温めよう」
そう言って男は暖炉に木をくべてなれた手つきで火をつけた。
炎は瞬く間に燃え上がり、一瞬にして部屋の温度を上げていった。
木がパチパチと弾ける音と暖炉の香りが部屋中に広がりそれだけで体があったまって行くのがわかった。

「今日は冷える。もう冬もすぐそこだ。今日のような日は空気が澄んで素晴らしいが、しっかり体を温めないと風邪をひいてしまいかねないな」

そう言いながら上着を脱ぐと男は奥のキッチンへと入って行った。

「好きなところでくつろいでいるといい。ただし、暖炉へは近づきすぎるな。たまに火の粉が顔をだす」

そう言って男はふふふと笑いながらやかんと鍋を火にかけた。
そして奥から茶袋を持ち出して容器に移すとガリガリと何かを挽き始めた。

「私はコーヒーが大好きでね。少し面倒で時間がかかるんだが、こうやってゆっくりと豆を挽いている時がたまらないんだ」

いつのまにか猫はそのゆっくりと豆を挽く男の姿に見とれていた。

男が挽いたコーヒー豆をトントンと慣らし、大切そうに濾紙を貼ったビーカーへうつすと見計らったようにお湯が沸いた。
男はまるで知っていたかのように火を止めるとそのままゆっくりと挽いたコーヒー豆の中心にお湯を注いだ。
最初は少しだけ。ゆっくりと中央に、そして少しずつ円を描くようにしてお湯を注いだ。
しばらくして注ぐのをやめ、男はそのコーヒーをじっと見つめた。

ぶくぶくっとまるでマグマのように空気が上に上がって行くコーヒーを見つめて深く息を吸うとまた、同じように円を描くようにお湯を注いだ。

「ちょっとしたコツさ。コーヒーは豆の良し悪しだけじゃない。煎り方や挽き方淹れ方で味が変わる。扱いづらいが丁寧に扱えばそのぶん最高の時間をくれる美女のようなものなのさ」

じっとビーカーに落ちて来るコーヒーの雫を見つめていると、この空間がコーヒーの香りで埋め尽くされているのに気づいた。

男はコーヒーが溜まったビーカーを数回回しながら勢いよくカップに移す
その動きは手馴れていて見事だった。

次に男は弱火にかけられていた鍋の火を止めた。少し深い皿を出すと湯気がたち表面に幕が貼られたミルクをそこに注いだ。

男は猫のそばにそのミルクを置き暖炉の近くの椅子に腰をかけゆっくりとコーヒーを口にした。

「うん。うまい。君もよかったらそのミルクで体を温めるといい。」

猫はすぐにミルクに口をつけた。

「私の名前はフィズ。フィズ・バートン。この街で郵便屋を営んでいる。ついでと言ってはなんだが、この町の町長でもある」

フィズの自己紹介が終わる頃、猫は勢いよくミルクを飲んでいた。

「ハハ...本当にお腹が空いていたのだな。体は温まったかい?」

猫は自分の手で口元を拭いてその手をペロリと舐めた。
猫が見上げるとそこに男はいなかった。
何か物音がして振り返ると男はレコードに針をかけていた。

「私はジャズが好きでね。ミスター、ちょっと付き合ってくれ」

針が擦れる音がすると、その後陽気な音楽が流れて来た。
男はそれに合わせて体を揺らした。

「はは、どうだミスター!」

決して上手な踊りではなかったがその楽しそうな姿と音楽に猫の体も揺れ始めた。
「さあ一緒に踊ろう!ミスター!」
男と猫は暖かい家の中で一緒になって踊った。

「ははは!ミスター。こんなに楽しいのはいつぶりだろう!
そこの窓の鍵はいつでも開けておこう。また腹の虫が鳴いた頃にでも来るといい。いつでも歓迎しよう」

こうして猫と男との生活が始まった。


-------------


ある日、猫は再び男の家を訪れた。

「やあミスター。ちょうどいい、これから町へ出るんだ。一緒に行こう」

その日は良い天気だった。
青空には薄っすらと雲がはっていた。

フィズは猫を連れて町を歩いた。
「ここは広場だ。私はここが好きでね。見てごらんミスター。ここには様々な人が集まるんだ。仲間たちと一緒に歌を歌う若者、一緒に買い物をする親子、恋人を待つ女性。ここにはこの町の人たちの様々な時間が集まっているんだ」

フィズはそこから少し歩くとまたすぐに足を止めた。
「そしてこの建物が、私の職場だ」

男が見上げた建物はこの街ではひときわ目立つ時計台のある建物だった。
建物には「バートン郵便社」と掲げられていた。

「フィズさん おはようございます!ほら、お前、挨拶!」
「あ!おはようございますです!」
「ああ、おはよう。ブラン君、ミキ君」
「あれ、フィズさん。猫飼いはじめたんです?」
「いや、そうじゃない。彼は私のお客さんでね」
「へえ、そうなんですか。フィズさんは動物にも愛されるんですね」
猫は会話をしているフィズを見て配達員にも信頼されているのがわかった。


「こらあー!待てー!クソガキぃ!」
町に怒号が鳴り響いた。
皆が一気に声のした方へ振り向くとオーバーオールを着た大男がモップを持って1人の少年を追いかけていた。

「今日という今日は許さねえぞ!そのパン返しやがれ!」
「わわわ!ジルおじさん!ぼくを追いかけるのはいいけど、店放っぽりだしていいのかよ!」
「うるせえ!お前以外にこの町でウチに盗み働くような悪人はいねえんだよ!観念しやがれ!」
大男は持っていたモップを勢いよく振り下ろした。

「わわー!!あぶねえよジルおじさん!」

「また、やってる...あの2人」
配達員のミキが苦笑しながら呟いた。

噂話好きのブランは得意げに話し始めた。
「なあ、お前知ってるか?」
「何を?」
「リドがなんで毎日のように悪さを働くかだよ」
「何で?」
「あいつ孤児なんだってさ。3年前に大事故があっただろう?それで両親を失ったらしい。だからあーやって食べるものを盗むんだ」
「ふーん。それで『悪ガキのリド』なんだ。」

フィズはその2人にそっと近づくと、緊張感のある声色で話しかけた。
「ブラン君、ミキ君、立ち話もいいが、今日の配達は終わったのかね?」

「あ!フィズさん!い、今行こうと思ったところです!ほら、お前、いくぞ!」
「フィズさん!僕たちサボってないですよ!」
「バカ!余計なこと言わなくていいからいくぞ!」
「あ、ブラン!おいてかないでよー!」
「ったくお前本ッ当マイペースだよな!急げよ!」
「まってよー!」

「気をつけて行って来るんだぞ!頼んだよ!」
走っていく配達員の姿が見えなくなると、フィズは寂しそうに言った。

「この町にはあの少年のような孤児がいるんだ。
教会でシスターたちが面倒を見てくれているんだが、町で悪さばかりするものだからなかなか手を焼いていてね...」

猫はフィズの顔を見た。その横顔は少し寂しそうに見えた。

またとある日。
猫はフィズの家を訪れた。
フィズは猫の姿を見て驚いた。
「ミスター!どうしたんだいそんな泥だらけで 今拭いてあげようこっちにおいで」

しかし猫は家には入ろうとせず鳴き続けた。

「どうしたんだねミスター」

フィズは猫が自分をどこかへ案内したいように思えた。

「なにかあるのかね?」

猫について言った先で1人の男が倒れていた。
よく見るとその男はバートン郵便社の配達員、ブランだった。

「ブラン君!大丈夫かね。どうしたんだい」

「フィ、フィズさん。。。すみません!すみません!」

見るとブランは配達中のようだった。

「猫が橋から落ちそうになっていて、それで僕助けようとしたんですけど、その拍子に転んでしまって」

「そうだったのか。でもありがとう君のおかげでミスターは無事さ。」

「...そ、それは、よかったのですが、そうじゃないんです!
その拍子にぼく、手紙を...今日の配達予定の手紙を落としてしまって、ごめんなさい!本当にごめんなさい!!」

「それは大変だ。でもまずは君が無事で何よりだ。大丈夫。手紙は私も一緒に探すから、君はまず会社に戻って手当てをするんだ。皆に再配達の準備をするよう伝えてくれるかい?」

「...はい!」

「ミスター。知らせてくれてありがとう」

フィズは町中を探し回った。落とした手紙は約30通ほど。すぐに見つかる量ではなかった。
手当てと再配達の手はずを済ませたブランも夕方には合流し、全てが見つかる頃には夜が更けてしまっていた。

ブランは落ち込んだ
ブランはこの手紙の配達の仕事が好きだった。手紙を届けるたびに「ありがとう」と言ってもらえて、自分が人と人を結ぶ役割を担っていることに生きがいを感じていたからだ

しかし、今のブランには配達が怖かった。
今日届くはずの手紙が届かない。手紙を書いた人も受け取る人もどちらもがっかりさせてしまう。自分のせいで、人と人を結べないと感じた。きっと今この手紙を配っても怒られてしまう。でも届けないわけにはいかない。ブランの気持ちは重かった。

落ち込むブランにフィズは声をかけた。
「今日はもう遅い。ゆっくり休んで、この手紙は明日皆に届けよう。なに、幸い全て見つかったんだ。大丈夫。そう落ち込まなくていい」

「...はい」

翌朝、郵便カバンを持つブランの足取りは重かった。
「きっと今日はいろんな人に怒られる。町の嫌われ者だ。
 でも届けないともっと嫌われ者になってしまう...」

そう勇気を振り絞ってブランは配達に出かけた。

最初の配達先が見えた。ブランは大きなため息をつきながらその配達先へ向かった。
それは町外れにある小さな花屋だった。ここの店主は海外にいる恋人と毎週文通を交わしている。
以前、手紙の到着が遅れた時に心配性の店主が「彼になにかあったのかと思ったわ」と小言を何時間も言われたことを思い出した。

「ご、ごめんください!バートン郵便社です!お手紙の配達に来ました....!」
奥から花屋の店主の声がした。
「あ、はーい。大変だったんでしょう?怪我の具合はどう?いつもありがとうね。」

「あ、いや、とんでもないです...」

ブランは驚いてあっけらかんとしていた。
「あの、怒ってないんですか?配達、遅れちゃったのに」

「何言ってるの、昨日あんなに謝りに来たんだもの。怒るはずないわ」

「え...?」

「あら?バートン郵便社の人、昨日きたのよ。
 『配達員が事故にあって配達が遅れてしまいます。ごめんなさい!』ってミキっていう配達員の子が一軒一軒頭下げて回ってたわ」

「あいつが...」

その後、いつも通り一軒一軒手紙を配って回り、ブランの持っているカバンは空っぽになった。
その日、この町で誰1人として手紙の配達が遅れたことに腹を立てている人はいなかった。


「よかった。ちゃんと全部届いたんだね」

「ミキ!お前...」

ブランは深々と頭を下げた。
「ありがとう!本当にありがとう!」

照れくさそうにミキが言った。
「えへへ、いいよ。ぼくはブランみたいに色々なところに気配りできるような人間じゃないし、いつもブランには助けてもらってばっかりだから、このくらいどうってことないさ。ぼくの方こそ、いつもありがとうね。ブラン」

ミキは手を差し伸べた。
「ブラン、僕たちは友達だろ。困った時はお互い様さ」

「ああ、最高の友達だよ。ミキ」
差し伸べられた手をしっかりと握りながら、ブランの視界は歪んだ
今にもこぼれ落ちそうな涙を見られたくなくて、ブランは咄嗟に振り返った。

「ブラン、もしかして泣いてるの?」
「ば、ばか!そんなわけないだろ!ほ、ほら!会社戻るぞ!早くしないと置いてくぞ、ミキ!」
「あ、まってよー!ブラン!」

2人のやりとりを見守るように見ていたフィズは猫に言った。

「いいかいミスター。あれは『友達』というんだ。一緒に笑って、一緒に泣いて、たまにはケンカだってする。前に立って導くわけでも、後ろからついて来るわけでもない。横に一緒にいて同じ空間を過ごす。それだけで、安心して本当の自分になれる相手のことだ」

猫はその言葉を聞き、一度だけにゃあと鳴いてみせた。

「ハハ、そうさ、ミスター。僕らも、友達だ。君さえよければ、この町にずっといておくれ」


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その夜、フィズは机の引き出しから1通の手紙を取り出した。

「この手紙も、いい加減、届けてやらねばな...さて、どこの誰やら....」

大切に保管されたその手紙には、宛先がなかった。


つづく。

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