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026_どん底に見る働く意義

先週、リストラされて就活をし、ポスティングの会社に再就職した記事を書きました。

その職場で学歴社会の側面について考えされられたわけですが、もう一つとても重要なものを学びました。それは人として、とても原始的な観点からの働く意義です。

そのポスティング会社で働くA君。ある配布スタッフのライフストーリーを見てみましょう。

A君は中学校の頃、勉強が得意ではありませんでした。やればできたかもしれませんが、そもそも机に向かって教科書を読むという行為が好きではなかったのです。

家庭は豊かではなく、大学に行くという雰囲気もなかったので中より下の公立高校に入りました。しかし喫煙で停学になったのをきっかけに学校に行かなくなり、結局中退してしまいました。

いつの間にかフリーターになった彼は、何をやっても長続きしませんでした。その原因は人間関係にあると気づき、人付き合いのストレスがない職種を考えてポスティングに行き着きました。

そのポスティングの会社には、割と厳しい管理システムがありました。実はポスティングという作業は、気楽にマイペースでできると謳っておきながら、かなりハードな作業量を要求されます。
あまりのキツさに、配らずに配ったという報告をする「不正」をはたらくスタッフが後を絶ちません。それを防止するため、あるいは見つけて制裁を加えるため、その会社では「パトロール」と名付けたスタッフが配布の確認を行います。

ある日A君はチラシの残り500部を配らずに自宅に持ち帰り、配ったと報告しました。それを3回繰り返したところで発覚し、帰宅の途中でパトロールのスタッフ3人に囲まれました。

ポスティングのスタッフは雇用ではありません。個人事業主として委託契約をし、違反に対しては罰金(作業代から棒引き)などの制裁措置があります。
A君は最初ふて腐れていましたが、パトロールの年長者に胸倉をつかまれました。

「お前、こんな仕事すらまともに出来ねぇのかよ?」

配られた9割以上の家庭にとってはチラシはただのゴミです。ブラック、迷惑行為、酷使と搾取とくれば安直な社会正義の格好の攻撃目標です。気楽だからと始めてみて、この鬱蒼とした現実にモチベーションを維持するのは大変です。

しかしA君には違う角度から現実が責め立ててきます。高校中退で三日坊主のフリーター。そんな人に誰が信頼して仕事をまかせるのでしょうか?

そして胸倉をつかんだパトロールの年長者。実は脱サラして独立、借金まみれから一家離散の末にポスティングに行き着いた人物です。ここで再生しなければ社会に居場所はなくなります。

お互いに、ここを乗り越えなければ後がないのです。

A君は謝罪し、次に不正を働いたら委託契約を解除するという事で罰金を払いました。それからは真面目に3年ほど働き、合間に特殊自動車の作業免許を取得して転職したとの事です。

ちなみに不正が発覚したスタッフは、大半が続けられず辞めるそうです。その後どうなるかは分かりません。嫌な記憶だけが一時的に残るだけなのでしょうか。

人から信頼される、信用を得て仕事を請ける。大卒採用で綺麗なオフィスで働いている人の中には、それがどんなに大変な事かを知らない人もいるでしょう。世間から「こんな仕事」と呼ばれるものを地道にやって、やっと僅かな信用を得るケースがあるのです。

働く意義、それはもちろん人それぞれです。その人のライフスタイルやパーソナリティに直結します。しかし下から這い上がるという視点でのそれは、どんなに小さくても他人から信頼され、信用を得る事なのです。


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